マイケル・ムーア監督「Fahrenheit 9/11」の支離滅裂

2004年6月29日 - 7:09 PM by admin

公開から数日遅れてマイケル・ムーア監督「Fahrenheit 9/11」を観る。想像以上に重いようで、実は薄っぺらい映画。政権に操られた–ならまだしも救いがあるのだけど、自主的に政府の意図に沿うような形になっているようにも見える–米国のマスメディアには絶対に出て来ない映像が初めて見られるという事を除いて、出て来る事実は以前から「知っている人は知っている」事ばかりだけれど、政治に特に詳しくない一般の人にも伝わる形でちゃんと伝えているのは良い。でも、前作「Bowling for Columbine」や以前彼がやっていたテレビ番組(「The Awful Truth」「TV Nation」)と比べると独自性は薄いし、ムーアの必殺技であるはずの突撃インタビューもごく僅かしか使われていない上に、予想を裏切る展開が一切無く、ほとんど何の効果も発揮していない。はっきり言って、これでカンヌ映画祭の大賞受賞はおかしいと思う。もしこの映画が今年の選挙でブッシュを「再び」落選させることに少しでも寄与するのであればその一点のみで肯定してもいいけど、この程度の映画に頼らなくちゃいけないリベラル陣営の現状が情けない。 Read the rest of this entry »

米国ゲイ&レズビアン歴史学者が選ぶ「GLBT史における重大事件」

- 10:08 AM by admin

クィア・スタディーズ系のメーリングリストに、某学術系データベース会社が作る予定の「ゲイ・レズビアン・バイセクシュアル・トランスジェンダー (GLBT) の歴史」資料についての情報が。ゲイ&レズビアンの歴史学者が監修して、GLBT コミュニティに大きな影響を与えた歴史的事件250件についてのデータベースを作るとかで、それぞれの項目の著者を募集している。その250件というのは既に監修者によって選ばれていて、どう転んでも欧米中心主義的なのに言い訳程度に他の文化について項目が少しだけ選ばれていたり、どう見ても「ゲイ&レズビアン」の歴史中心なのに中途半端にトランスジェンダーの項目が選ばれていたりと(あ、インターセックスも1つだけ選ばれてる)、「米国のゲイ&レズビアンの歴史学者」の認識がよく分かる一次資料として面白いので、項目をここに載せちゃいます。太字は特に重要な項目として選ばれたもの。 Read the rest of this entry »

英語文献における「ジェンダーフリー」を見つかる限り紹介

2004年6月28日 - 5:05 AM by admin

世間では「ジェンダーフリー」バッシングが起こっているらしくて、その筋の人とよく掲示板で議論になるんだけど、「ジェンダーフリー」という言葉が英語の「フリー」(〜のない)とは関係のない和製英語だというのはみんなが納得しているはず。そう思っていたんだけれど、最近「和製英語ではなく英米で使われている表現で、もともと文字通り性別や性差の徹底的な排除を求めているフェミニズムの一派が使っていた言葉なんだ」という反論を聞いたので、文献をチェックしてみた。今回使ったのは、いつも使っている医学論文データベースじゃなくて、文系の文献や報道記事も含むデータベース。こんなの調べてもどーしょーもないとは思うけど、他に誰も調べている人はいないだろうからここにも載せとく。 citation の後に載せているのは、Abstract から取った該当部分(原文)と、その文脈なども含めた解説。 Read the rest of this entry »

「性同一性障害は脳のインターセックス」論は「頭が腹痛」と同じ

2004年6月25日 - 10:31 PM by admin

某掲示板でバカの相手して徒労を感じる。「性同一性障害は脳内インターセックスだ」という主張は、「頭痛のことを『頭の腹痛』と呼んでもいいじゃないか」というのと同じレベルの妄言だってコトが、どうして分からないんでしょーか。そりゃ、個人的にそう言いたけりゃ言っても構わないけれど、明らかにフツーの考え方じゃないのね。少なくとも、他人に同意してもらいたいならば、「そのように言葉の用法を変更すれば、どのような良いことがあるのか」を説明しなくちゃ意味ないじゃん。 Read the rest of this entry »

プラシーボも二重盲検も使わない「臨床試験」って何それ

2004年6月24日 - 2:29 PM by admin

朝日新聞「がん患う医師、自ら未承認薬試す 法改正で医師も治験」(06/24/2004) より:

「患者が望む抗がん剤を使えれば」。自らも肝臓がんを患う大阪市の開業医・三浦捷一さん(65)が、未承認の抗がん剤の臨床試験に国内で初めて取り組む。24日、医薬品医療機器総合機構に申請した。これまでは製薬会社だけが手がけてきた治験だが、医師もできるようになった法改正を生かす。 […] 「この薬を試したい」。だが、国の承認には数年の時間がかかる。しかも、製薬会社の治験では、効果を検証するため見た目が同じ「偽薬」を投与されることもある。早期承認を求めているうちに、03年に改正薬事法が施行され、仲間の医師と治験をすることにした。 […] 何より期待するのは申請して2、3カ月後から、自分も含め希望する患者に確実に薬を投与できることだ。

他国では既に認可されて使用されいるような薬でも国内で治験中のためにこれまでの制度では患者が使えない場合など、治験中の薬を患者が選べるようにしたいという趣旨はよく分かるのだけれど、プラシーボ(偽薬)を使わないのにどうして「治験」と呼べるのか不思議。薬事法を流し読みしてみると、「治験」とは「〜臨床試験の試験成績に関する資料の収集を目的とする試験の実施をいう」(第2条9項)と書かれていて、疑問はつのるばかり。だって、プラシーボを使わない「試験」の結果を収集したって意味ないでしょ? とゆーか、そもそも試験している医師本人が参加するモノが「臨床試験」と呼べるの? Read the rest of this entry »

「流産防止剤DESが理由で性同一性障害になった」説について

- 8:45 AM by admin

某掲示板で、性同一性障害 (GID: gender identity disorder) の活動家の人について、彼がGIDになったのは「母親が妊娠中に流産防止剤を使用したのが原因」という話(未読だけど、本人が著書に書いているらしい)を聞く。「流産防止剤が理由でGIDになった」というのは米国でもよく聞く話なんだけど、日本でも広まっているのね。軽く検索してみてもたくさんヒットするし。調べてみたところ、70年代まで流産防止の目的で女性ホルモンの一種が広く使用されたのは日米同じで、米国では DES (diethylstilbestrol) が頻繁に使用されたのに対し、日本ではそれに加えて黄体ホルモンが多く使われたらしい。日本のGIDの人たちがどちらの影響を重視しているのか分からないけれど、「女性外性器の形成異常を起こすことが確認された」など書いている内容からは DES の被害を主張している様子なので、以下の記述は米国でさかんに研究されていてわたしの知識の多い DES について。 Read the rest of this entry »

「Fahrenheit 9/11」のTVCMは選挙資金規制法違反?

- 12:02 AM by admin

連邦議会専門紙 The Hill に載った記事 (06/24/2004) によると、マケイン=ファインゴールド選挙資金規制法の規定により、マイケル・ムーア監督の話題作「Fahrenheit 9/11」のTVCMが7月30日から禁止される見込み。選挙資金規制法では、民主・共和両党の大統領候補指名が行われる直前の30日間と大統領選挙の直前の60日のあいだ、「名前やニックネーム、映像や似顔絵などを含む候補者に対する何らかの言及するTVCMを企業がスポンサーすること」が禁止されている。 Read the rest of this entry »

米司法省「DV加害者プログラムは効かない」

2004年6月23日 - 6:54 PM by admin

ドメスティック・バイオレンス(DV)の加害者を対象に行われる更生プログラムに関して、DV産業(と自戒を込めて呼んでいる)現場で働いている人にとっては「全然効果ないでしょ」ってのが常識だったわけで、わたし自身方々でそう言い続けてきたのだけれど、このたびようやく米連邦司法省が行った2つの大規模な調査の結果をまとめた報告書でも同じ結論が認められた様子。

Batterer intervention programs do not change batterers’ attitudes and may have only minor effects on behavior, according to these studies. […] In New York, batterers in a 26-week program were less likely to reoffend than those in an 8-week program, but neither group showed any change in attitudes toward women or domestic violence.

加害者更生プログラムは女性やDVに関する加害者の態度を変える事はできないだけでなく、行動に対する影響も少ない、というのがこの報告書の結論。8週間のプログラムに比べると26週間のプログラムの方が再犯率は低くなるというけれど、この再犯率というのが曲者で、要するに逮捕されなければ再犯にはカウントされない。結局、プログラムを通じて「こういう行為(殴る、蹴るなど)をすれば捕まるのか」と学習した加害者は、逮捕される恐れの無い精神的・経済的な虐待に移行するだけというのが現場の経験。 Read the rest of this entry »

クラインフェルター症候群とXXY性染色体の関係

- 4:39 AM by admin

インターセックスに関係したことなら大抵のことについて知ってるつもりだったのだけれど、今さらになってようやく理解したことがあるのでここでも紹介。もしかしたら勘違いしていたのは自分だけかも知れないけれど。ことの発端は、「クラインフェルター症候群とXXY性染色体保持とは違う、自分の性染色体はXXYだがクラインフェルターではない」という主張する人がいて、最初は「なるほど、そういう風にアイデンティファイする人もいるんだな」程度に思っていたのだけれど、別の場所で別の人から同様の発言を聞いて、「実際のところどうなのだろう」と調べてみる気になったのね。 Read the rest of this entry »

北朝鮮がマッシュアップ・アートに進出?

2004年6月22日 - 11:59 PM by admin

ZAKZAKに衝撃的な記事が。「北で放映された異例の『漫画映画』はドラえもん?」(06/23/2004) によると、

韓国の通信社、聯合ニュースが22日伝えたところによると、北朝鮮の朝鮮中央テレビは21日午後(日本時間同)、日本のアニメを編集して制作したとみられる交通ルール教育用の「漫画映画」を放映した。同ニュースによると、「交通規則を守ろう」と題した十分程度の番組だが、映像は日本の人気アニメ「ドラえもん」とほぼ同一のもので、番組の主題歌が流れるシーンでは同じく日本アニメの「ドラゴンボール」の一場面も挿入された。

これって、最近話題のマッシュアップ・リミックスの類いじゃないですか? 日本のアニメを切り貼りしてミュージックビデオ作って遊んでいるような人は一定数いるみたいだし(そういうビデオが流れているから、いるんでしょう)、日本のコミックを切り貼りして元のストーリーやセリフと無関係の物語を作っちゃっている人も知り合いにいますが、「交通規則を守ろう」という番組を作ってしまうあたりはさすがに北朝鮮。この際、世界中からマッシュアップ系のアートをやっている人を集めて著作権無視の芸術祭でも開いたらどうでしょうか…って、ダメだなそりゃ。著作権マフィアが「ほら見ろ、著作権を軽んじる奴らはテロ国家と同じだ」みたいに言い出しそうな気配。