お勧め文献 @ macska dot org
ある方からフェミニズム関連のお勧め文献を尋ねられたので、ざっと自分の本棚を見て思い当たったものをリストしました。トレンディなポモ理論系文献は日本でもその分野を研究している人はご存知だと思うので、あんまり紹介されてなさそうなモノを集めています。今後気が向いたらアップデートします。日本語のサイトで英語文献ばかり紹介しても売り上げは疑問ですが、一応アフィリエイトリンクしてます。
【最終更新:02/07/2006】
Borderlands/La Frontera: The New Mestiza (Gloria Anzaldua)
Interviews/Entrevistas (Gloria Anzaldua, ed. AnaLouise Keating)
わたしが一番影響を受けたフェミニスト、Gloria Anzaldua の本。前者のほうが代表的な本だけれど、英語にスペイン語とメヒコ先住民言語が混じり合った文体だったり、先住民文化の神話の話が出てきたりして分かりにくい可能性あり。というか、第2部の詩集の部分は愛読者のわたしでも分からないところが多い。後者はタイトルの通りインタビュー本ですが、20年もの期間に及ぶさまざまな時点からのインタビューを順に収録していることで、一種の自叙伝的な読み方もできるほか、前者の中で出て来る分かりにくい概念について彼女自身が説明しているのでお勧めかも。でも、前者を読まずに後者だけ読んでも意味がないので両方紹介。
My Dangerous Desires: A Queer Girl Dreaming Her Way Home (Amber Hollibaugh)
性の解放を唱えて70年代のフェミニズムから排除され、80年代には「女性とHIV」「レズビアンとHIV」の問題に誰より早く取り組み、現在「クィアの老後」の問題に取り組む著者の著述集。階級、性労働、その他についても。
Exile and Pride: Disability, Queerness and Liberation (Eli Clare)
CPを持つ障害者として、セクシュアリティとジェンダーの異端者として、歴史的なことから現代的なことまで理論を突き詰めつつ理論によって切り捨てられる部分も丁寧に論じている。木材伐採で生計を立て人種差別的な意識の強いオレゴンの田舎の出身でありながらリベラルな都会で環境運動に参加し、また人種差別や環境破壊に嫌悪を感じつつも生まれ育った田舎社会にアイデンティティを寄せる。本書出版のあと著者はFTMにトランジションしており、障害とトランスジェンダーの関係で論文を書いている。
One of Us: Conjoined Twins And The Future Of Normal (Alice Dreger)
インターセックスの問題に長く関わってきた著者による結合双生児が主題の本だけれど、インターセックスについて知りたい人には同じ著者のインターセックスを主題とした本よりこちらを勧めている。なぜなら、インターセックスを特異な例として扱っていた過去の本と比べ、障害学的な見知に裏付けされている点でより一般的な論理を描き出すことに成功しているから。邦訳「私たちの仲間—結合双生児と多様な身体の未来」。
New Versions of Victims: Feminists Struggle With the Concept (Sharon Lamb)
Before Forgiving: Cautionary Views of Forgiveness in Psychotherapy (ed. Sharon Lamb & Jeffrie G. Murphy)
わたしが反発しながらも参照しつづけるフェミニスト心理学者 Sharon Lamb の著作2点。前者はフェミニズムにおける性暴力やドメスティック・バイオレンスへの取り組みが「被害者とはこうあるもの」という思い込みを生み出し、それが新たな規範として被害者の快復を妨げていることを指摘、「被害者」というラベルをアイデンティティに転化することの危険を説く。後者は哲学者の共編者とともに、カウンセリングにおける「赦し」の意味を鋭く問う内容。加害者への「赦し」を被害者本人の快復の目安と見なすセラピーの在り方そのものも問う。
Prostitution, Power and Freedom (Julia O’Connell Davidson)
性労働については肯定派の本も否定派の本もセクシュアリティを巡るイデオロギー闘争に陥りがちだけれど、英国の社会学者である著者は各国での聞き取り調査をもとに問題の複雑さを解き明かす。彼女によると、性労働は男性による女性の抑圧に還元されるものでもないし、また何の問題もない経済行為として片付けられるものでもない。文章からは著者自身が性産業に否定的な感情を持っていることが分かるのだけれど、それでも結論として売買春の非合法化を訴えるなど、分析に忠実。
Live Sex Acts: Women Performing Erotic Labor (Wendy Chapkis)
性労働についてもう一冊。「Prostitution, Power and Freedom」ほど分析的に新しい視点はないものの、性労働に関するフェミニズム内部の議論をきれいにまとめている。セックス礼賛的な売買春肯定論と、セクシュアリティを男性支配の道具とみなす否定論が、性労働固有の問題から目を逸らすという意味で実は共軛的な関係にあることが示される。
Letters of Intent: Women Cross the Generations to Talk About Family, Work, Sex, Love and the Future of Feminism (ed. Anna Bondoc & Meg Daly)
フェミニズムにおける世代問題を扱った本は多数あるけれど、中でもこの本は恐るべき奇書と言っていい。活動家、アーティストなどそれぞれの分野で共通点のあるフェミニストのあいだで、若い世代の女性から「第二波」世代に手紙を送り、「第二波」世代がそれに返答するという形式で、著名なフェミニストが多数登場。世代間の衝突をここまで直接的に曝け出した本は他にないくらいなのだけれど、編者の話を聞いたところもっと深刻に紛糾してしまって収録を断念したやり取りもあったとか。年長世代が常に後攻で反論されることがないという点が不公平な感じもするけれど、逆にいい歳した著名フェミニストが娘くらいの年齢の相手にマジギレしている様子が見物できるわけでもあるし。
Generations: Academic Feminists in Dialogue (ed. E. Ann Kaplan & Devoney Looser)
Feminism Beside Itself (ed. Diane Elam & Robyn Wiegman)
前者は副題の通り学界内のフェミニスト同士の世代間対話を集めた本で、「Letters of Intent」とは違った意味で理論による真剣勝負をしている。後者はその「Generations」にも寄稿しているポストモダンフェミニスト Diane Elam らによる論集で、フェミニズムが成功によってそれ自身にもたらしたさまざまな問題について論じる。
Third Wave Agenda: Being Feminist, Doing Feminism (ed. Leslie Heywood & Jennifer Drake)
To Be Real: Telling the Truth and Changing the Face of Feminism (ed. Rebecca Walker)
フェミニズム世代論のついでに、わたしの分類による「90年代第三波フェミニズム」の代表的アンソロジー2編。当時わたしや Ednie Garrison ら第三波研究者は、第三波フェミニズムを第二波の「後」ではなく「外側」で起きた別の動き (feminism beside the second wave) であり70年代にまで遡る事ができると主張していたのだけれど、現在では単に「若い女性のフェミニズム」的に使われる言葉になってしまっている。ここに挙げた2冊は、「第三波」がまだその歴史的蓄積と切り離される前のもの。
Contemporary Feminist Thought (Hester Eisenstein)
Daring To Be Bad: Radical Feminism in America, 1967-75 (Alice Echols)
今度は第二波から。前者は80年代前半までの第二波フェミニズムの歴史を、性差に対する立ち位置という側面から論じた本。社会主義フェミニズムからラディカルフェミニズム、カルチュラルフェミニズムへの理論の変遷がまとめられている。後者はラディカルフェミニズムの総まとめといって良い内容。近年、女性学ではラディカルフェミニズムについて読みもせずに否定する風潮が強いけれど、正しく批判するためにもきちんと読んでおくべき。ラディカルフェミニズムは決して一枚岩でも性に対して潔癖主義でもなかった。
Unpacking Queer Politics: A Lesbian Feminist Perspective (Sheila Jeffreys)
レズビアンフェミニズムの立場からクィア理論・クィアポリティクスを全否定する内容。女性学メーリングリストでは売買春やトランスジェンダーの問題などでわたしと頻繁に論争している相手だし、明らかに時代錯誤的な主張なのでクィア理論をやっている人は彼女の立場を安易に否定してしまうのだけれど、これもやはり「正しく批判する」には正しく理解する必要がある。
In A Queer Time and Place: Transgender Bodies, Subcultural Lives (Judith Halberstam)
The Drag King Anthology (Donna Jean Troka et al.)
前者は、トランスジェンダー理論、トランスジェンダー批評の第一人者による論説集。前著「Female Masculinity」に続いて、ドラッグクィーンとは別個のドラッグキングの論理や、トランスジェンダー芸術の構造を鮮やかに解読する。後者はドラッグキングパフォーマー「d.j. love」(超カッコいい!)として知られる Troka らによるドラッグキング文化からの報告。
The Twilight of Equality?: Neoliberalism, Cultural Politics, and the Attack on Democracy (Lisa Duggan)
わたしが個人的に最も注目しているクィア理論家による新著は、文化的多様主義や平等論を取り込んだネオリベラリズムの発生と、それによって引き起こされた社会運動側の細分化と自己目的化に対する批判的分析。女性学に対するバックラッシュ分析としても面白い。
Ferocious Romance: What My Encounters With the Right Taught Me About Sex, God, and Fury (Donna Minkowitz)
レズビアンでジャーナリストの著者が宗教右派の集会に潜入し、一般の参加者から指導者までインタビューして発見したことは、「宗教右派ってクィア・コミュニティとそっくり! 宗教的ストイシズムって S/M じゃん!」。16歳の少年に扮装して男性のみが集まるプロミスキーパーズの集会に参加したレポートのほか、どうして宗教右派が人々の支持を得るのかを丁寧に分析した本。やや学問的緻密さが欠けているものの、日本で言えば小熊英二・上野陽子著「“癒し”のナショナリズム 草の根保守運動の実証研究」に相当。
Reports from the Holocaust (Larry Kramer)
My American History: Lesbian and Gay Life During the Reagan/Bush Years (Sarah Schulman)
クィア理論とレズビアン&ゲイ運動の実践は緊張関係にあるものだけれど、理論ばかりが先行しがちな日本の研究者にぜひ読んで欲しいのがこの2冊。ともに80年代のエイズ危機に関する政治活動で活躍した劇作家 (Kramer) と小説家 (Schulman) による、80年代から90年代前期までの著述集。とくに前者の著者はその妥協しない政治姿勢から敵も多く、この2人に80年代のレズビアン&ゲイ運動を代表させてしまうのはどうかという気もするけれど、かれらが80年代に置かれた状況を理解することは重要。後者は日本に招かれた時の体験についても書かれており、他者に意見を尊重された経験が少ないことから不可解な言動を取る当時の日本人同性愛活動家に共感しつつ、フェミニズムを隠避しながら男性同性愛者に理想の関係像を投影する腐女子(笑)を叱り飛ばす心意気がいい。
Who Stole Feminism?: How Women Have Betrayed Women (Christina Hoff Sommers)
Professing Feminism: Education and Indoctrination in Women’s Studies (Daphne Patai & Noretta Koertge)
日本の保守論壇誌によくある、限りなく頭の悪いバックラッシュと違い、比較的頭の良いバックラッシュ本。特に哲学部教授による前者はバックラッシュの教科書と言ってもいいくらいうまくできている。この本の衝撃は、日本で言えば慰安婦問題におけるバックラッシュにより日本政府の責任を認める立場の論者も「強制連行」という言葉の用法を含め資料引用や論法を丁寧にする必要に迫られたのと同じように、フェミニズムにおける差別や暴力に関する議論の緻密化を促した。後者は「女性学」がいかに学問として成り立たないかを論じた本(ただし共著者のうち Patai は単著を読むと結構バカ Koertge は科学哲学家としてそこそこ評価できるんだが)。
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なお、以下は上記で紹介した以外で macska dot org で引用もしくは参照してきた文献です。
The Pro-Growth Progressive: An Economic Strategy for Shared Prosperity (Gene Sperling)
Locating Medical History: The Stories and Their Meanings (ed. Frank Huisman & John Harley Warner)
The Rugged Edge: The Disability Experiences from Pages of the First Fifteen Years of The Disability Rag. (ed. Bernard Shaw)
自由のハートで (ドゥルシラ・コーネル)
Shattered Bonds: The Color of Child Welfare (Dorothy Roberts)
Sex in America: A Definitive Survey (Robert Michael et al.)
差異の政治学 (上野千鶴子)
ブレンダと呼ばれた少年 (ジョン・コラピント)
Gendermaps: Social Constructionism, Feminism and Sexosophical History (John Money)
Pornography: Women, Violence, and Civil Liberties : A Radical New View (ed. Catherine Itzin)
なぜ少女ばかりねらったのか (レイ・ワイア&ティム・テイト)
ポストコロニアリズム (ed. 姜尚中)
Against All Enemies: Inside the White House’s War on Terror (Richard Clark)
House of Bush, House of Saud: The Secret Relationship Between the World’s Two Most Powerful Dynasties (Craig Unger)
Reason: Why Liberals Will Win the Battle for America (Robert Reich)