いわゆる「ミーガン法」について

6/8/2004 - 2:57 am | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

いつもお世話になっているなんばさんから、「例の件是非」って言われちゃった。
「例の件」というのは、以前別のサイトで騒がれてた「ミーガン法署名WEB」という署名(?)サイトから、わたしが関わっている性暴力情報センター (SAIC) にリンクが張られている件について、何か反応しろってコト。リンク張るのは自由だけど、あれ見ると確かにSAICがミーガン法署名に賛同しているみたいだから、見解を出せというわけですね。SAICの方ではわざわざミーガン法の宣伝したくないので(笑)、こっちで書きます。というか、昔なんばさんに送ったメールからの抜粋が多いですが。

署名ページ見ると分かるけど、ミーガン法というのは、米国ニュージャージー州で1994年に成立した法律で、性犯罪の犯人を釈放後も登録して追跡しなさい、地域に「こんな危険な奴がいるぞ」って教えなさい、という内容。ミーガンというのは虐待されて殺された5歳の女の子の名前。加害者は近所の住民で、事件が起きるまでは過去に性虐待で逮捕された経歴のある人だとは周囲の誰も知らなかった。その後連邦レベルでも96年に同じような内容の法律が成立しています。

なんばさんによると、

当時そのサイトには「性犯罪の再犯性は、他の犯罪と比べて10.5倍も高いのです」という文言があったのですが、この 10.5 倍というのがアメリカ司法省発表の数字で日本にはそのままあてはまらないこと、数字自体の信憑性も疑問視されていること、日本の犯罪統計では性犯罪の再犯率は高い方だけど一番高いわけではない(殺人、強盗に次いで3位)などツッコミが入り、しばらくすると何事もなかったかのように「性犯罪の再犯率は、25%と非常に高いのです。」という文言に差し替えられました。

らしいんですが、10.5倍とか25%という数字がどこから出てきたのか不明。 米国の民間団体 National Center on Institutions and Alternatives のメタ調査(既にある多数の調査を組み合わせて全体の傾向を調べる調査)によると、性犯罪の再犯率は13%程度。他の犯罪よりずっと低いくらいで、これは米国では貧困を原因とする犯罪が非常に多い事を考えると当たり前です。もともと貧しい人は刑務所を出ても貧しいままだから、生きるために犯罪に踏み切らざるを得なかったりするでしょ。

ミーガン法自体について、わたしは反対です。まず第一に、刑期を終えて(あるいは保釈の条件を満たして)釈放された人に対して一生ペナルティを与え続けるというのはおかしい。殺人犯ですら釈放されればそんな扱いは受けないのに、性犯罪に限ってそれを行う理由は(上記の通り「性犯罪は他の犯罪と比べて桁違いに再犯率が高い」というのはウソだから)ありません。

第二に、ミーガン法のために真面目に更生して一般社会にとけこもうとした元受刑者たちに対するリンチ的な嫌がらせや差別が現に横行していること。National Institute of Justiceという、米司法省の下にある組織が2000年に出した報告書で、性犯罪者についての個人情報を政府が広報する事の結果について論じられていますが、地域の住民が開示された情報をどういう思いで見ているのかとか、人員的なコストがどれだけ膨らんでいるかなど、いろいろ書かれています。特に興味深い事に、この報告ではミーガン法のために個人情報を公開された人たちがどのような被害を受けているかも調査してあります。それによると、

 83% 住居から追い出されたり、入居を拒否されたりした
 77% 脅迫や嫌がらせを受けた
 67% 家族が心理的に傷つけられた
 67% コミュニティや知人から仲間はずれにされた
 57% 職を失った
 50% 仮釈放の監視員からの圧迫が強まった
  3% 暴行を受けた

だそうです。元受刑者から住居を奪い、職を奪い、脅迫や暴力の対象とすることで、本当に彼ら受刑者による再犯率が減るのか、考えてみた方が良いでしょう。元受刑者監視にお金を使うくらいなら、そのお金を刑務所内での更生支援プログラムに出すべきだと思います。

第三に、「性暴力を減らすために」(今なら「テロを防ぐために」もそうですが)という口実が、伝統的に政府による市民監視や市民権への攻撃に使われてきており、いずれ全ての犯罪について前科者の情報を公開する制度の第一歩となりかねない点。米国では、これまで州単位だった性犯罪者データベースを結合させて全国規模なデータベースを作る動きがありますが、その管轄が何故か司法省ではなくて国土安全保障省となっています。性暴力とテロは関係がないはずなのに国土安全保障省が出てきたということは、将来的に性暴力だけでなく他の分野にデータベースを広げるつもりがあると思われます。

あと付け加えると、現実の運用において不当な適用がなされる可能性が高い。例えば、法定合意可能年齢が18歳の地域において、18歳の黒人男性と17歳の白人女性の恋人同士でセックスした場合、人種差別のために重い罪として判断され、その結果データベースに登録を義務づけられる可能性が高いのに対し、結婚した夫婦間で起きるレイプは滅多に犯罪として立件されないためにデータベースに登録される事はない。同じ犯罪を犯しても、有能な弁護士を雇うお金があれば罪状を軽くすることで登録から逃れられるのに、貧しい人は一生安定した職も住居も得られない事になる。要するに、ミーガン法は今ある不公正や不均衡をはるかに拡大するおそれがあると思います。

6 Responses - “いわゆる「ミーガン法」について”

  1. tumg Says:

    (トラックバックできないのでこのページにリンクしました)
    4点とも賛成です。日本でもあてはまると思うし。
    ただ、実際に日本でミーガン法的なものが出てきたときに、誰がそれに反対するのか、反対することで誰にどんなメッセージを送ることになるのか、それを考えると気が重いです。
    おかしいものはおかしいわけで、仕方ないですが。

  2. tumg Says:

    Sorry. Something went terribly wrong (or it seems). Just a note to let you know I linked directly to this page because the trackback didn’t work. Cheers.

  3. Macska Says:

    ごめんなさい、トラックバックうまく動いてないみたいです。
    どこか間違ってセットアップしてないか、調べてみますです。
    本題については、また別に。

  4. 試行錯誤の日常-trial and error- Says:

    [Thinking] 優先事項(2)。
     同じく奈良の事件について、警察庁の漆間巌長官が「性犯罪前歴者の居住地を警察が把握できる制度」の導入を検討していることを示唆したそうな(残念ながらまだ警察庁のサイトには情報があがっていないようです)。性犯罪は他の犯罪と比べて再犯率が高いというのが前提の…

  5. りゅうちゃんミストラル Says:

    日本版ミーガン法をすぐには賛成できない理由
    奈良で起こった女児誘拐殺人事件の影響で、過去に性犯罪で有罪になった者の情報をどうするかに焦点が集まっている。その裏には「犯罪を抑えられない社会」に対する多くの人のいらだ…

  6. PJIWslcqAiB Says:

    urls9.txt;20;25

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