ニューヨーク市によってエイズ治療薬の実験台にされた子どもたち

4/27/2005 - 8:12 pm | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

大きな問題の割にあまり報道されていない事件。1988年から2001年までのあいだに渡り、親や家族を失い公立の児童養護施設や里親のもとで育てられていた子どもたちを、ニューヨーク市がエイズ治療薬の実験台として搾取的に利用していたことが明らかにされた(New York Times; Newsday; New York Post)。問題自体は昨年から指摘されていたのだけれど、今週ニューヨーク市が正式に事実を認めるとともに、外部の非営利団体による正式な調査を開始することが発表された。実験に参加させられたのは生後4ヶ月の赤ちゃんから十代の少年少女まで450人以上の子どもたちで、実験前に既にHIVに感染していたと「思われる」とされているのだけれど、実際のところ感染していたかどうかすら政府発表ではあやふやだったりする。

実験に使用された薬の中には、現在エイズの発症を抑えるのに効果があるとされているいわゆる「カクテル療法」も含まれており、一般の患者の手に入るよりずっと早く治療が受けられたのだから良いではないかと市の担当者は言うのだが、現在確立されたカクテル療法ですらかなり激しい副作用を伴うことが分かっており、確立されるまでの課程において子ども達が負わされた健康上のリスクは物凄く大きい。また、実験に参加させられた子どもたちのほとんどが現在どうしているか不明で連絡さえ取れないとされており、はっきり言って実験の後は使い捨てにされたも同然。一足早く子どもたちに薬を与えたいという動機で実験が行われたとは到底信じ難い。実験の対象となった子どもたちの大半がアフリカ系とラティーノであったという事実を聞くと、過去の人体実験において少数民族や戦争捕虜が犠牲にされた史実と重なり合う。

そもそも、この種の実験は親が自分の子どもを参加させたいと思っても認められないというのが米国での判例だ。親は子どもの医療上の決断を代理で出来るとは言っても、それは「親ならば子どもの利益を最大限に考慮するだろうから」という理由によって支えているのであって、子どもの利害に反する可能性が高い場合親の代理決定権は認められない。しかし、ニューヨーク市の例では養育権を持つ市の児童福祉局自体が実験参加を強要しただけでなく、里親の元で育てられていた子どもについては、少なくとも2件について子どもの実験参加を拒否した里親から児童福祉局がその子を取り上げるという事を行っている。

活動家としてインターセックス運動の視点から「子どもの権利と医療倫理」の問題に関わり、研究者として児童福祉制度の問題点、特にその人種差別的な構造について批判的な研究をしてきたわたしから見て、今回明らかになった事件はどこかで見たことのあるさまざまな抑圧的要素の組み合わせであり、驚きではなかったが、腹立たしいことに変わりはない。

腹立たしいと言えば、こうした事件が90年代の始め頃に明らかになっていればすぐに数百人から数千人のエイズ活動家が市役所を取り囲んで大抗議活動をしたはずなのに、多くの中・高所得層の活動家たちがカクテル療法によって普通の生活を取り戻して運動から離脱し、それ以外の人たちの大半も社会運動から社会福祉団体に転換してしまった今、彼らが今享受している特効薬の実験台となった黒人とラティーノの子どもたちの犠牲は無視されたままだ。かれらのために声をあげる家族・親族すらいないというのがとても悲しい。こうした実験を許した担当者たちの責任追及はもちろんだが、それと同時に被害を受けた子どもたちをできる限り探し出し、被害を賠償するとともに市の責任で今度こそ十分な医療を与えるべきだ。

コメントを残す

XHTML: You can use these tags: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>