ミーガン法ふたたび

2004年12月12日 - 3:10 PM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

最近参加した fem-general メーリングリストの方で、先日奈良県で起きた小学生誘拐・殺害事件に関連していわゆる「ミーガン法」の制定を求める声が挙がっていたので、それに対するお返事。ミーガン法については過去にも一度扱っていて、そこでだいたいの問題点は指摘しているのだけれど、最近書いている国家の問題だとか「性的指向」としての小児性愛の問題だとかに絡めて追加している部分もあるので以下に収録します。

ミーガン法についても私は非常に共感し、ぜひとも日本で、または奈良で
条例でも制定してはと思いました。

あなたは、ミーガン法のどのあたりに共感されているのでしょうか?
というのも、ミーガン法の本来の目的というのは、社会に危険を及ぼす可能性のある元性犯罪者の存在についてコミュニティに知らせることで各家庭が予防措置を取れるようにするというものですが、実際のところ、釈放された元犯罪者の住居や職を奪い、社会復帰の機会を根こそぎ奪う(あるいは、偽名で逃亡するよう迫る)結果となっています。
すなわち、コミュニティ内で前科者を受け入れる事を前提として、子どもへのリスクを減らし共生をめざすことを意図した制度であるはずが、コミュニティから前科者を暴力的に追放するための制度となっているのが現状です。より重い懲罰が必要なら本来刑務所でそれを行うべきであり、釈放しておきながら一生社会復帰の機会を与えないというのはおかしいです。
米司法省の報告書でも、こうした問題(及び、前科者監視によって通常の犯罪捜査に必要な人員が取られているなど別の問題も含む)が明記されています。
もう1つ、別のポイントを挙げると、これは性暴力や子どもの虐待について何らかの取り組みをしている人にとっては常識だと思いますが、子どもへの虐待の加害者として一番多いのは、両親及び同居している大人でしょう。得体の知れない異常性愛者(が今回の事件に該当するかどうか確証がありませんが)が起こす事件など、それに比べればはるかに頻度が低いですが、その部分に集中して運動を起こすことで、「一番危険なのは自分の家の中」という事実から目を逸らし、「子どもの虐待とは、一部の異常性愛者が起こす問題」という決めつけに加担する危険もあると思います。

表現するなら「小児性愛者監視条例」とでも言えますでしょうか。
皆様のお知恵を頂ければ幸いです。

その名前は困ります。というか、過去における同性愛者やその他の「異常」性愛者への不当な弾圧を想起させる名前だと思います。
小児性愛というのは、同性が好きだったり異性が好きだったりするのと何ら変わらない本人の性的指向(と言うといろいろ苦情があるのですが、取りあえず他にいい言葉がないので)であって、一般と違った指向を持っているというだけで監視されてはたまりません。仮に監視が必要だとするなら、それは合意のない性行為(相手が合意年齢に達しない場合も含む)を強要した犯罪者を監視する必要があるのであって、その人がどのような指向の持ち主であるかは関係ないはずです。
わたしが条例を作るなら、「小児性愛者監視」ではなく、「小児性愛者との共生・共存」を目指す内容にします。具体的には、彼らが実際の子どもに手を出して傷つけるようなことをしない限り、差別や偏見から彼らを守ります。アニメやゲームなど実際の子どもが関わらない形で彼らがその性的欲求を満たす限り、そうした商品やメディアを取り締まったりはしません。ただし、もし実際の子どもに手を出すような事があれば、逮捕されてそれを全て失いますよ、と。そうすることで、自分の欲求実現のためには子どもに手を出さない方が良いという現実感覚を身につけてもらうしかないと思います。
社会に危険を及ぼす可能性が高い前科者の情報をコミュニティに告知することがどうしても必要だというなら、告知をきっかけとして当人が住居や職を奪われないような法的保護が必要だし、もし彼らが不当な脅迫やヘイト・クライムを受けた場合には社会としてきちんと対処するという事が必要になります。他にも、当人が希望するならコミュニティと前科者が対話できる状態をセットアップするなりして、情報告知によるデメリットを相殺するくらい社会復帰をできる限り支援する必要があります。そこまでセットであれば、ミーガン法の導入を考えても良いですが、現在の社会情勢を考えるにおそらくそういう形にはならないでしょう。
今の社会で、いかに「わたしたち」が「子どもの虐待を止めたい」という一心でミーガン法的なものを要求したとしても、「人権よりもセキュリティ」というネオリベラリスティックな国家主義の論理に絡めとられてしまうでしょう。論理的にはわたしが言うような「性的指向でなく行為を規制」「前科者の追放ではなく前科者との共存」という方向のミーガン法も可能であるはずですが、現実社会の政治に持ち込んだ瞬間、「異常性愛者の監視」「前科者の権利を取り上げろ」という形になってしまうということです。
はたしてそういう形でミーガン法を実現させたところで、本当に子どもの虐待を止めることになるのでしょうか。逆に、子どもの虐待の大半を占める「家族による虐待」を隠蔽するだけに終わるようにも思います。

7 Responses - “ミーガン法ふたたび”

  1. Yoko Says:

    今日付けのThe Oregonianのかなり長い記事
    Searching out Oregon’s stance on gay rights
    The state Supreme Court will influence the next turn on Oregon’s winding path through the issue
    Monday, December 13, 2004
    ASHBEL S. GREEN and BILL GRAVES
    http://www.oregonlive.com/news/oregonian/index.ssf?/base/front_page/1102942713152200.xml

  2. tumg Says:

    ML見ていました。ミーガン法について詳しく知っているわけではないのでへたれて投稿していませんが、
    Macskaさんが反論してくださってほっとしています。
    (反論として出てきた「小児性愛者といっしょにするなんて失礼」発言も、
     気になって自分のブログで言及して、こちらには反論を投稿しようかと思っていたところ、
     ご自身ですばやく反論を投稿なさっていて、またまたほっとしています。
     <他人まかせでほっとしてばかりですが)
    事件そのものは本当に許せないものであるだけに、
    そういう心情に任せて奇妙な論理が通用してしまうことには、
    気をつけなくてはいけないですよね(反省)。

  3. rna Says:

    なぜかTrackBackが失敗してしまうのでコメントにて。
    http://d.hatena.ne.jp/rna/20041216#p3

  4. Baad Says:

    メーリングリストに参加していないので、そちらでのやり取りは此方の記事から類推するしかないのですが、こういう事件が起こったとき、その現場に居合わせているか報道に対する反応であるかを問わず、親という立ち場にある人間が感情的に暴走せずに判断するのは本当に難しいようですね。
    一昨日の報道だと被害者の妹をねらっているという脅迫もあったらしいですし、本当にこの事件が幼児性愛者の犯行かどうかも怪しいような気もするのですが。
    実は最初にこちらの記事を読んだとき、「とはいえ、実際の事件が起こったときには被害者同じような年齢層の子供の親にはどういうタイプの子どもが被害に遭いやすいかぐらい学校有通じてでもいいから警察は情報を流して欲しい。」と書こうとしたのですが、先日の報道から判断すると、それすら場合によってはミスリーディングなことである場合もあるのかもしれないと思い至りました。
     
    殺人とまではいかなくても地域で子どもが犯罪被害にあい、犯人が逮捕されていない時の対応はほんとうにむちゃくちゃなことが多くて、例えば犯人の年齢が特定されていなくて、少年である可能性すらあるのに、名前入りの登下校のパトロール表を父兄に配ったり、というようなこともありますが、こういうのは止めて欲しい。
    どこのウチが留守で子どもだけが家にいるか、近所の人にはすぐわかってしまうし、場合によっては連続犯罪を誘発しかねない。
    大体こういう事件は小学生が放課後大人の目の届かないところで遊んでいるときに起こるのが殆どなので、たとえば親のPTA活動中は校内の見回りを増やすとか、学区内の遊び場での死角をなくすとか、学童保育を一時利用できるようにするとか努力次第で可能で犯罪防止に有効だけれど実施されていないことは山ほどあると思う。
    殺人事件にまで発展しなくても、性犯罪に類するすることはどこの学区でも4−5年に一度ぐらいの頻度で起こっているのですし、被害者の子どもに与える影響は事件の大小には必ずしも比例していないのですから。
    Comment by Baad – 12/16/2004 @ 11:16 pm

  5. 匿名 Says:

    >努力次第で可能で犯罪防止に有効だけれど実施されていないことは山ほどあると思う。
    これも問題なんですよね。犯罪を防止するために、そこまでする必要があるの?ということ。
    極論ですが、事故が起こるといけないから車に乗らない、ってのと同様で、安全というのは
    突き詰めればキリがないですから、見回りとかをそこまで神経質にするのは防犯上はメリットですが
    果たして現実的にいいことなのって思うのです 労力がすごいですしね
    犯罪にあう確率なんてわずかなのに、防犯は突き詰めればキリがないんです
    ある程度の妥協は必要でしょうね 現実的に・・・
    どんどん神経質になっています

  6. Pocket PC Video Says:

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  7. Tweets that mention macska dot org » ミーガン法ふたたび -- Topsy.com Says:

    […] This post was mentioned on Twitter by Borracho, ゆんじろう. ゆんじろう said: ミーガン法は「実際のところ、釈放された元犯罪者の住居や職を奪い、社会復帰の機会を根こそぎ奪う(あるいは、偽名 […]

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