反売買春系フェミニスト団体観察記録、パート2

2008年1月26日 - 8:59 AM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

先月わたしが見学に行って、政治的・思想的な相違を超えて「これはすごい」と関心してしまった反売買春系フェミニスト団体について続報。わたしは前回のエントリを書いたあとも、週に2回開かれるドロップイン・センター(予約なく来ることができる相談所)をたびたび訪れて、たまにはちょっとお手伝いをしつつ、その様子を見てきた。あと、わたしは実はお茶のコレクターで紅茶やハーブティーを何十種類と持っているので、レイトン教授にならって毎回いくつか香りが良くて体が温まるお茶を持ち込んでドロップイン・センターに来ている人にふるまうことにしている。そうやって参加しながら観察した報告が以下。
まず、ドロップイン・センターがはじまって数ヶ月がたち、ようやくパターンが決まった感じ。夜の6時頃になると女性たちが集まり、7時頃に夕食がふるまわれる。食べ物は店で買ったピザ等が多いけれども、たまにこの団体の中心人物である女性弁護士や彼女の母親が作った料理を持って来ることもある。コーヒーやお茶もある。近くの大学からリクルートした学生インターンが一人、ほかにボランティアとして数名の学生が来ることもあるが、インターンの他はほとんど何もやってない。ボランティアをきちんと使うのは結構難しいので仕方がないとは思うけど、きちんとマネージできないのであればボランティアを集めるのは時期尚早かもしれない。
前回わたしが報告した時点ではクライアントは4人だったのが、たった1ヶ月で15人程度に急増している。そのうち一人は同性相手の売春をしていた男性だ。わたし自身が2人紹介して連れてきたし、先月来ていたクライアントがそれぞれ口コミで話を広めて新たなクライアントを連れてきている。女性弁護士はあいかわらず彼女たち一人一人の相談を何でも受けているけれども、そろそろ彼女のキャパシティは限界に達しているように見えた。
ドロップイン・センターでは、基本的に食べ物を食べながらみんなでいろいろ話すだけなんだけど、特に相談事がある人は女性弁護士やもう一人の中心人物である男性の公衆衛生専門家と別の部屋に行って話をしている。また、ホームレス支援などを行なっている別の団体との協力により、寄附された衣服や身のまわりの消耗品などを保管している部屋から無償でそれらを貰うこともできる。ドロップイン・センターで解決できない問題のある人は、アポイントメントを取って別の時間に支援をしてもらえる。
わたしの連れてきた女性のうちの一人は統合失調症のある人で、普段は投薬により普通の生活をしているのだが、ときどき薬を切らすなどすると自分でもよく分からない行動を取ることがある。それでいつの間にか3000ドル(約32万円)の借金をクレジットカードで作ってしまい、収入のほとんどない彼女は返金の催促を受けて困っているのだけれど、こういう時に強いのはやっぱり弁護士だ。女性弁護士はクレジットカード会社に電話をして、統合失調症があり収入を持たない人にクレジットカードを発行するのがおかしい、そちらのミスなのだから借金を帳消しにしろと要求して、取りあえず利子や遅延料金は無かったことにしてしまった。彼女はさらにクレジットカード会社との交渉を重ね、借金全部チャラにするつもり満々だ。ここまでやってくれる支援団体は他にない。
しかしこの団体、あまりに効率が悪い。例えばこの弁護士はこういう弁護士ならではの仕事をするだけではなく、交通手段を持たない女性を送り迎えしたり、コーヒーを作ったり、クライアントと世間話をしたりと、その活動のほとんどを一人でやっている。弁護士という特殊な能力・資格のある人の時間は、ほかの使い方をすればもっと大勢の人のために使えるだけに、残念な気がする。しかし、彼女の他にフルタイムで関われるスタッフを持たず、ボランティアもうまく使えない状態では、団体の全てを把握している彼女が何もかもやらなければいけない。それに、もし運転は運転係、食事の準備は食事係、という具合に役割分担ができてしまったら、この団体の良さである包括的に何でも面倒を見てくれるという部分が失われてしまうだろう。
さらに言うと、先月わたしがはじめて来た時には、個人からの寄附がかなりあるので資金面の心配は当面ないと言っていたのに、たった一ヶ月しかたっていないのに彼女はわたしに「資金源を見つけないとヤバい」と言った。予想以上に速くクライアントが増えたこともあるのだろうけれども、資金面でもこの先パンクが近いかもしれない。
クライアント増加に伴ってやっぱりでてきたのが、性労働者以外の女性によるサービスの利用だ。この団体が提供するサービスは性労働をしている女性以外にもホームレスやそれに近い状態にある女性に有用なので、性労働をしている友人から話を聞いた、性労働をしていない女性も何人か集まるようになった。彼女たちだって、支援を受けなければいつ性労働を迫られるか分からない程度には苦境に立たされているわけで、まったくこの団体の対象外ということもない。しかし性労働をしているクライアントの一部からは、どうして性労働者でもない人がわたしたちのリソースを横取りするのだ、という不満も出てきている。こういう状況が起こりうることは最初から分かり切っていたと思うのだけれど、これからどのように対処されるのか興味津々だ。
良い変化もあって、それは先月わたしの報告を聞いた Portland Women’s Crisis Line という団体(性暴力やドメスティック・バイオレンスの被害者向けのサービスを提供している)のスタッフが、頻繁にこのドロップイン・センターに顔を出すようになったこと。これにより、性暴力やドメスティック・バイオレンスの相談がある人は彼女と話をすることができるようになった。性暴力やドメスティック・バイオレンスの話をするだけならわたしでもいいんだけど、カウンセリングやシェルターや自助グループといった具体的なサービスに接続するのはわたしにはできないからね。
というわけで、早くも存続に関わりそうな問題がいくつか出てきたこの団体、これからも観察を続けていこうと思う。英国紳士としてはね(違う)。

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