性労働者支援ネットワークにおける、ソーシャルワーカーと性労働者たちのSNS利用状況格差
2010年6月9日 - 7:46 PM | |前エントリ「Facebookの普及に見る米国の社会階層性と、『米国=実名文化論』の間違い」は今月1日発行のメールマガジンα-Synodos6月1日号に寄稿した文章だったけれども、その後わたしが出席したあるミーティングでたまたま関連した話になったので、前エントリへの追記としてその報告をしておきたい。
わたしが出席したミーティングとは、わたしの住むオレゴン州ポートランド地域でホームレス支援や低所得層向けの医療提供、感染症予防や性暴力やドメスティックバイオレンス(DV)対策など、さまざまな社会支援活動に関わっている人たちが、性産業で働いている人たちに対するサービスやアウトリーチについて話しあうためのもの。これらの団体はそれぞれ別個に活動しているけれども、月に一度集まって情報交換したり共同でワークショップやイベントを開いたりするためのネットワークを作っている。
さて、何年も前にボランティアによってこのネットワークのMySpaceページが作られたことがあったのだけれど、以来ほとんど更新をしてこなかった。しかし先月のミーティングで「ソーシャルネットワークをちゃんと使おう」という話があり、試しにとFacebookとTwitterのアカウントを新たに作り、使用をはじめたらしい。
わたしはそれを聞いて「昔作ったMySpaceのページは復活させないの?」と質問したが、それに対してミーティングの参加者たちが口々に「いまどきMySpaceなんて誰も使っていないし」と言い出す。たしかに、中流家庭出身で大卒のソーシャルワーカーたちのあいだでは、ほとんど誰もMySpaceは使っていないと思うのだけれど、実際にわたしの知っている性労働者たちの中にはMySpaceを使っている人が多い。そこで、ダナ・ボイドによるSNSにおける階層分化の指摘などを紹介したところ、さっき「MySpaceなんて誰も使っていない」と言った人たちが、今度は口々に「そういえばうちの団体に来るクライアントでMySpaceを使っている人がいる」と言い出した。
つまりソーシャルワーカーたちは、MySpaceを使っている人がいることを知らなかったわけではないのだけれど、それはたまたまその個人が時代に乗り遅れているだけ、みたいに頭の中で処理していて、社会階層によって主に使われているSNSが異なるということには考えが及ばなかったらしい。しかしそれを指摘されてから考えると、確かに思い当たる事実があるという様子だった。その結果、ネットワークはMySpaceページもFacebookと対等に更新していくことを決めた。
もう一つ似たような話。このネットワークと関係の深いプロジェクトに、性労働者が暴力的な客などの情報を共有するためのホットラインがある。このホットラインでは、性労働者に暴力をふるったり、支払いを拒んだり、HIV陽性なのにコンドーム使用を拒絶するなど、性労働者の安全と健康に害をなす客の情報を集め、そうした情報を毎月印刷してさまざまな支援団体に配布している。
もちろん全ての報告が完全に信頼できるわけではないし、逮捕されたわけでも有罪が確定したわけでもない客の情報だから、配布されているものには個人を特定できる情報は書かれていないけれども、実際に会ったら危険を察知できるような内容は含まれている。また、そういう情報が共有されていることを周知させること自体が、暴力に対する抑止力になるという考えもある。
このミーティングでは、こうした情報をより入手しやすくするために、紙による配布以外の配布手段が必要という話が出た。実は同じ議論は何年か前にも出たのだけれど、弁護士に相談したところ、個人を特定できないような情報に限ったとしても、それを見た人が「これは自分のことなのか」と思って訴えてくるおそれがあるので、ネットに掲載するのは法的な危険が大きすぎるという結論が出た。もちろん紙による配布でも同じ問題は起こりうるけれども、潜在的な危険性がケタ違いだというのが弁護士の判断。
だからどうしようもないんだよ、という方向に話が行きそうになったのだけれど、前回の議論から数年のあいだに大きく状況が変わっている、とわたしは指摘した。それは、低所得層における携帯電話の爆発的な普及だ。これは地域差もあるだろうから米国全体の話ではないのだけれど、少なくともポートランド地域において、ホームレスの人たちの一部を含めて、ほんの数年前までは携帯電話を持っていなかった——そしていまも大多数はコンピュータを持たない——人たちが、大挙して携帯電話を手にしている。ホームレスや低所得者支援団体の事務所には、かれらが携帯電話を充電するためのコーナーを設けられているほど。これは、携帯通信市場の競争激化により、信用調査を経ずに月ごとの支払いで加入できる定額料金の通話プランが増えたからだ。
わたしは、性労働者に対して危険な客の情報を提供する一番の方法は、テキスト(SMS)だと思う。携帯電話にある電話番号にテキストを送れば自動的に最新の情報数件が送り返されるくらいのシステムを提供すれば、紙で持ち歩くより気楽に情報にアクセスしてもらえるのではないかと思う。送り返される情報の件数はデフォルトで三件くらいにしておいて、さらに古い情報を得るためにはテキストに欲しい件数を書くとか、同じ番号を使って最寄の警察や病院などの情報も引き出せるような仕組みにできると思う。さらに言うなら、性労働者が客の車に入る前に免許番号をテキストで送るなり、写真で送るなりできるようなサービスを作っておけば、もし問題があればあとから情報が引き出せるようになり、それが問題行為を抑止することになるかもしれない。ただし、そのデータが性労働者の意思に反する形で警察や検察によって証拠請求されないように、あらかじめそれらの方面とか話をつけておかなければいけない。
ともかく、彼女たちの多くが数年前までは持っていなかった携帯電話というツールを持ち歩いているという点は、性労働者に対して必要な情報を提供するという支援活動をするにあたって、かなり重要な変化だと思う。数年前まではそれがなかったので、ネットに掲載するかどうかという話をしなければならなかったが、携帯電話というツール、とくにテキストというインフラを使うことで、これまでに比べてより効率的に必要な情報を必要な時に引き出せるような仕組みを構築できるだけでなく、それがどれだけ利用されているか補足することで、サービスそのものを向上させることもできるようになると思う。という話を次のミーティングでしようと思っている。
2010/06/09 - 23:36:18 -
携帯しかもっていなくて、家にパソコンのない中学生や家出人が、「プロフ」をつかい。そして、ギャングエージがよくそれをモトに、抗争事件を起こしているが、日本の場合は、携帯サイトとPCサイトという、描き分けができるのかと思った。
2011/03/07 - 12:53:40 -
『ポートランド』『ソーシャルワーカー』のキーワードでこちらのページにたどり着きました。
大変貴重な観点をシェアして頂き、ありがとうございます。興味深く読ませて頂きました。
現在他州在住のMSWです。今年ポートランドに移住計画を立てております。
MyspaceとFacebookの社会的格差、確実に存在しますね。
私自身、暴力行動が問題になっていたクライアントからMyspaceの申請を貰い、ここでクライアントと公私混同して、ソーシャルワーカーとクライアントという関係性を誤解されてはならない、とMyspaceのアカウントを閉じてしまったことがありました。
都市内病院ER勤務時、Myspaceで知り合い、性的暴行を受けた方の対応をしたこともあります。Craigslistなどメディアを使った性的犯罪等が騒がれている現実を目の当たりにした瞬間でした。そのメディアの普及率を犯罪防止ネットワークを広げる手段として利用するのは、実現に至るまでには問題もあるとは思いますが、素晴らしいアイディアだと思います。
これからもMacskaさんの記事、参考に読ませて頂きますね。