クレタ島でのバケーションが超うらやましいカカシさんへ

2009年6月1日 - 6:56 PM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

エントリ「米国トンデモ保守の主張を日本語で読んで楽して痩せる」に対して、さっそくカカシさんから反論があった。わざわざクレタ島(クリートは英語読みで現地語ではクリティに近いらしいのだが、日本語ではクレタで定着しているのでそう表記する。現地語読みするのも日本語として定着した読みをするのも良いと思うけど、第三国の発音でカタカナ表記するのは変だと思う)でバケーション中にわたしの相手なんてしなくていいのになぁ。クレタ島で過ごせる貴重な時間がもったいないでしょ? わたしがもしクレタ島に滞在できたなら、絶対ブログでの議論なんてやらないな。まぁそれは人それぞれだけど。でもわたしは実際にはポートランドの自宅で暑い夏を過ごしているので、以下にぐだぐだ議論を続けてしまったりする。てゆーか健康保険改革や薬価規制についてちょっと経済学ネタも書いているので見て見て。

クリート島に来てはや四週目に入る。こんな僻地にきてやっとネットカフェに落ち着く機会が出来たので、メールを開いていたら、なんと例のフェミニスト小山のエミちゃんからトラックバックが来ていてびっくり。どうやら私のオバマ王に関する記事をまとめ読みして燃えちゃったらしい。エミちゃん、ご愛読ありがとう!
ついでに私のダイエットブログの紹介までしてくれて感謝なのであった。
バラク・オバマはファシストか?

いやもう、カカシさんのダイエットブログは本当におもしろいですよ。政治の話題と違っていろいろ頷くことも多いしね。

エミちゃんは私がオバマ王をファシストだと考える理由はフォックスニュースとかラッシュリンボーのような「極右翼」の報道に感化されているからだといいたいらしいが、私はフォックスニュースを観る暇もなければ、ラッシュリンボーも時間帯が遅すぎてほとんど聴いたことがない。

あ、はい、カカシさんがFOX Newsとかトークラジオをあまり視聴していない、というのは、実はだいたい分かっていました。というのも、アーカンソー州(綴りはArkansas)のことを「アーカンサス」と表記するなど、カカシさんの文章には人名や地名などで不自然なカタカナ表記がかなり多くて、これは音声ではなく文字で情報を得ているな、と以前から思っていたのです。実際、ブログを読んでいると、ミシェル・マルキンとかパワーラインとかがソースとして出てくることが多いので、これは保守系ブログがメインの情報源だな、とわたしはずっと思っていました。
これはわたしがアジア学会@シカゴで発表した内容とも関係してくるけれど、ネットルーツ(ネット+草の根)と呼ばれるように選挙運動にネットを利用して大勢の支持者や寄付金を集めることに成功しているのは圧倒的にリベラル側のブロガーたち。ところが保守派ブロガーは別の形で大きな成果を挙げていて、それが2004年の選挙で大成功をおさめたSwift Boat Veterans for Truthの活動であり、また同じ選挙の終盤で決定的な影響を及ぼしたニューズアンカーDan Ratherの証拠捏造疑惑だ。
この双方について言えることだけれど、保守系ネットルーツはそれ単独ではなくトークラジオと情報のループを通して話題を大きくして、ある程度大きくなった段階でFOX NewsやWashington Times、Wall Street Journal論説面(報道面はマトモ)に展開する、というパターンを取っている。ケリー陣営は保守系ブログやトークラジオなんてどうせ偏った人しか視聴していないからわざわざ反論して注目を集めることはない、とSwift Boatを無視し続けた結果、取り返しのつかないところまで大きくなってしまい、勝てるはずの選挙を勝ちそびれた、と言われており、オバマは陣営サイトを通して早い段階から小さな噂に片っ端から反論していくことでケリーの教訓を生かした。
リベラルにはトークラジオやFOX Newsに並ぶようなインフラが存在しないので(Air Americaみたいなものすごく貧弱なものならあるけど)、リベラル系政治ブログで情報を入手している人は、CNNやNPRなどでニュースを視聴している人とは違った情報を得ている。ところが保守の側ではFOX Newsやトークラジオと保守系ブログのあいだでエコーチャンバーが形成されていて、同じ情報がたらい回しにされているので、FOX Newsを観ている人と保守系ブログを読んでいる人は、だいたい同じ情報を得ているのね。
そういうわけで、わたしも最初はカカシさんはFOX Newsのファンだと思っていたのですが、しばらく前にカタカナ表記の不自然さに気付いてからは、保守系ブログが主な情報源なんだろうなという認識になっていました。こんなわたしって愛読者?(爆)

さて、それではオバマ王がこれまでにしようとしてきたことを考えてみようじゃないか。先ず金融機関の救済において、オバマは救済金を支払うかわりに金融機関の経営にうるさく口出しするようになった。重役たちの賞与の金額までコントロールしようとしたことは読者諸君の記憶にもあたらしいことだ。半分公営化するという話まで出て、救済金を受け取った金融企業は驚いて救済金を返済しようとしたがオバマ政府はそれを受け入れなかった。
クライスラーの件にしてもそうだ。オバマはクライスラーの人事にまで口出しをして、会長を辞任させた。どの販売店を閉鎖するのかまで指図している。エミちゃんは自動車の販売店は共和党支持者が多いから、閉鎖される店のほとんどが共和党支持でも陰謀ということにはならないというが、共和党支持の多い自動車企業を厳しくコントロールすることによってオバマ王は共和党への献金を減らすことができるというわけだ。

オバマのこうした政策は、わたしが支持しないものも多く含まれているけれども、オバマ個人の野心や権力欲の発現としてではなく、単に現在の政治状況におけるふるまいとして解釈する方がよっぽど自然だと思う。たとえば政府に救済された金融機関の幹部のボーナスに制限を設けたのは、「あれだけ国民の税金を受け取っておいて、そのお金を使って顧客の住宅ローンを軽減するなり、貸し渋りを是正するのではなく、幹部のボーナスにあてるなんてけしからん、ふざけるな!」という一般市民の反発を受けてのことで、明らかにポピュリズムへの迎合だ。わたしはこの制限には賛成しないし、迎合は迎合として批判されるべきだと思うけれども、それだけの話だ。
ポピュリズムに迎合を続けて行った結果ファシズムに到達してしまうという懸念自体は、論理的に間違ってはいない。けどそれがいまの段階で現実的な懸念かというと、まったくそうではないと思う。そもそもオバマという人は、選挙中にあえて「自分は愛国心をひけらかすような国旗のバッジを付けたりしない」と言って叩かれた(のち撤回してバッジを付けるようになった)ことからも分かるように、ポピュリズムを極端に嫌うタイプの政治家だ。かれがポピュリズムに迎合するような発言をするとき、決まっていかにも不本意そうな表情を隠そうともしない様子は、昨年の選挙中に本音では宗教右派を嫌悪する共和党候補ジョン・マケインが、選挙の都合上宗教右派に迎合した発言をするときに見せた表情とそっくりだ。
もちろんオバマも政治家だから、不本意であっても政治的に必要なときはポピュリストの仮面を付けて、金融機関の幹部のボーナスはこれくらいにしろとか、自動車産業を破綻させた経営者は出て行けとか言う。でもそれがカカシさんを含め一部の人の不審感を呼ぶのは、かれ自身がそれらの決定に不本意で、いかにも不機嫌な感じで記者会見を開いたりするからだろうと思う。もし本当にオバマが専制君主であったなら、ポピュリズムにも既得権益にしがみついて言うことを聞かない民主党議会にも気兼ねせず、かれ自身が思う通りの政策を実現していたはずだ。

また、オバマ王が提案している国民保険案などまるで社会主義だ。オバマ王は社会保険は廃止しないと言っているが、社会保険にも税金をかけるという提案がある。国民保険を選べば税金がかからないとなれば、普通の人は国民保険を選ぶだろう。ということは事実上社会保険は消滅する。そして国民のすべてが国民保険を持つようになった暁には、政府が国民の受ける治療方法を制限することが出来るようになる。国民は政府に命を預けることになるのだ。これが社会主義でなくてなんだろう?

えーと、これはちょっとよく分からないのだけれど、ここでカカシさんが言う「国民保険」というのは公的な健康保険のことで、「社会保険」というのは、社会保障のことではなくて、現行制度における民間の健康保険のことだろうか。以下はそういう前提で話を続ける。
健康保険改革について、いろいろ意見があるのは良いと思うけれども、現実に西欧のほとんどの国や隣国カナダで導入されている制度(よりも実際にははるかに穏健な改革)を「社会主義だから」という理由で拒絶するのはおかしい。公的健康保険は社会主義的だと呼びたいなら呼べばいいと思うけど、現実にそれらの国は社会主義ではなく自由主義の国だものね。どう呼ぶにせよ、その制度が良いのか悪いのか具体的に議論するのは良いと思うけれど、「社会主義だ」というレッテルだけで否定できるとは思わないで欲しい。昨年マケインはオバマを「社会主義者」と決めつける宣伝を(いかにも不本意そうな表情で)したけど、全然通用しなかったじゃん。
ポール・クルーグマン『格差はつくられた』に確か載っていたと思うけれども、米国のリベラル派が主張する健康保険改革の四原則は次の通り。第一に、個人の病歴によって保険料を変えないこと。すなわち、保険への加入を希望する人は全て同じ料金で加入できなければいけない。第二に、全員をどれかの健康保険に加入させること。加入しない人は、公営保険もしくは何らかの方法で選んだ民間保険に加入させられる。第三に、保険料を払えない貧困層には保険料支払いのための補助金を出すこと。第四に、公的保険と民間保険が同じ市場で競争すること。こうした原則がどうして必要かつ妥当なのかはクルーグマンらリベラル派経済学者の著作を読めば分かると思うけれども、これらの原則は私企業による公的リソースの簒奪を防ぎつつ、全ての国民に医療を保証するために必要なものであり、経済学的に極めてまともな内容だ。
カカシさんの言う税金云々という話だけれど、企業が社員に提供する健康保険に税金をかけるべきだと昨年の選挙中に主張したのは、オバマではなくジョン・マケインだった。なぜかというと、給料には税金がかかるのに健康保険は無税という現行制度は、優秀な社員を集めるために高い給料を払うよりは、豪華な健康保険を整備しようとするインセンティヴを生み出している。これは、もし健康保険に相当する金額を現金でもらっていれば、社員は保険をより安いものにしておいて浮いたお金を消費や貯蓄・投資にまわすことができたはずで、社員の自由を奪っている。また同時に、必要以上に豪華な医療保険があると医療費支払いを気にしなくて良くなるので、必要以上に医療サービスを消費してしまう人も出てくる。
このように、社員福利厚生として提供される健康保険を免税対象とすることは、インセンティヴを歪め、自由を損ない、医療という希少なリソースの非効率な分配(すなわち浪費)に繋がる。だから免税措置を廃止して、その分減税して人々に還元すべきだというのは、保守派もリベラル派も一緒になって多くの経済学者が主張していることだ。オバマは選挙中はマケインの提案に反対していたが、当時から「この件はマケインの方が正しいのでは」という声はオバマ支持者のあいだからも聞かれていた。
さて、カカシさんの懸念は「民間の保険に税金をかけたら公的保険にみんな加入してしまう」ということだと思うけれども、これは端的にカカシさんが問題を理解していないことを示している。だって、ここで議論になっているのは、民間保険に税金をかけるかどうかではなく、「企業が社員に提供する社員福利厚生としての保険」に税金をかけるかどうかだもの。
仮に上記の四原則に沿った健康保険改革が実現したとして考えてみてほしい。人々は公的保険に加入することもできるし、さまざまな民間保険のどれかに加入することもできる。そういう制度が実現したとしても、民間企業が社員の福利厚生として健康保険費を負担することが禁止されるわけではないから、これまで通り健康保険を提供する企業も残るだろう。その場合、健康保険の費用は給料と同じ扱いとなって課税されることになるが、これは不公平ではない。なぜなら、企業が健康保険費を負担しなかった場合、それぞれの社員は自分の給料の中から公的保険なり民間保険の保険料を支払うわけで、その給料は所得税課税されているのだから、福利厚生として提供される保険だけ非課税というのはそれこそ不公平だ。
別の言い方をすると、福利厚生に課税する制度は、勤め先から健康保険を提供してもらっている人も、自分で保険料を払っている人も、みんなフラットに課税される、より公正な制度だと言える。前者だけ免税することこそ政府の恣意的な経済介入であり、企業の福利厚生制度や人々の就業意志に影響を与える「ゆがんだインセンティヴ」だ。カカシさんは市場主義を支持する保守主義者なのだから、オバマ政権が福利厚生に課税しようとしている(と報道されているがまだ発表されてはいない)件については「あの社会主義的なオバマにしてはよくやった、偉い」と褒めてあげてはどうかと思うのだけれど。

製薬会社への値段のコントロールも取りざたされている。新しい薬は開発に時間とお金がかかる。アメリカの医療技術が世界で最高なのは、アメリカは医療機関が自由であり、新しい薬をいくらでも高い値段で売ることが出来るからである。もし、これらの薬の値段を規制すれば、カナダで起きたように新薬の開発は完全に停止する。開発しても利益がないものを誰が研究などするだろうか?

さて、これもよく聞く議論なんだけれども、実際のところ製薬会社の研究には多額の公的資金が提供されていて、その対価は直接支払われていない。Michele Boldrin & David Levine『Against Intellectual Monopoly』(著者サイトで全文読めます)によれば、米国の全ての公的及び民間の機関が医療・薬学研究にかけた費用は250億ドルで、そのうち半分近くの115億ドルが連邦政府の資金であり、36億ドルが連邦政府以外の資金源によってファイナンスされた大学の研究だ。残る100億ドルほどが民間企業による研究資金ということになるが、これらの研究は20%に相当する税制上の優遇措置が受けられるので、実質的に100億ドルのうち20億ドルは連邦政府の資金を提供しているのと同じだ。つまり、米国の製薬会社は研究費用のうち三分の一ほどしか自分たちで負担しておらず、それが米国の製薬会社が次々と新薬を開発できる一番の理由だ。
医薬価格をコントロールすべきかどうか(厳密には、米国で医薬価格のコントロールを導入することは取りざたされておらず、議論されているのはカナダなど価格がコントロールされている国の医薬品の輸入を認めるかどうかだが、もし輸入が認められれば米国内の価格では薬が売れなくなるので影響は同じ)は、きちんと議論されるべきだと思う。でも医薬業界は既に連邦政府の資金に頼り切って新薬を開発しているというのが現実であって、その点を無視して私企業の利益回収を無制限に認めろというのでは説得力がない。新薬開発のインセンティヴを守りつつ、薬価をある程度抑制するための施策は議論していく必要があるだろう。前出のBoldrin & Levineは、特許の期間を短くするなどして独占力を制限する代わりに、もっともコストのかかる臨床試験に助成金を出すことを提言していて、一考に値する。

水攻めが拷問かどうかという話はとりあえず避けるとして
国土安全保障に完全にクルーレスな左翼変態フェミニスト

避けないでよ! 日本軍の兵士を「米国人捕虜に対して水攻め拷問を行なった」という罪状で処刑しておいて、自国が水攻めをするのは良いだなんて、日本人として悔しくないですか?

水攻めにあった三人は自他共に認めるテロリストであり、彼らから得た情報によってテロ陰謀が未然に防がれたという事実があるのである。か

そりゃあ、わたしだって仮に水攻めにあったら、自分はテロリストですとも、こんな陰謀に加担していましたとでも、それで水攻めをやめてくれる可能性があれば何とでも相手の聞きたいことを話すでしょうね。拷問して得られた情報なんてその程度の信用性しかないよ。

オバマによる「拷問をしている国家として国際的な非難を受けるばかりか、かえって反米感情を高め、米国人の命を危険にさらすと判断しているからだ。」という考えが、いかにナイーブで国を危険に陥れることになるかという話は何度も指摘して、そのように何度も批判している。

はい、だからそういう批判はご自由にどうぞと言っているのです。わたしが異議を申し立てているのは、オバマが国民の生命なんて何とも思っていない、ゴキブリが死んだ程度にしか思っていない、という記述についてであって、オバマが賢明な政治家でない、というだけならわたしは何も言っていなかったのね。
その違い、わからないですか? オバマがナイーブで思慮に欠けていて大統領失格である、というのと、オバマは冷血なソシオパスで国民が死んでもただの騒音としか思っていない、というのでは、全然違った話になるの。前者は政策の是非や指導者としての資質についての議論であって、オバマを批判する人がいるのは健全だと思うけれど、後者みたいな批判はとても健全とは言えないでしょ。
以前から何度も書いているけれども、善人が善意で行動すれば良い結果となり、人格的に問題のある悪人が悪意をもって悪いことをしたから悪い結果が起きたのだ、という人間観は、スターリニズムの考え方です。何か悪いことが起きたら、それは悪人によって故意に引き起こされたものだから、人格改造してやらなければいけない、と。エドムンド・バーク以来、浅はかな善人が浅はかな善意で行なうことこそ疑うのが真の保守主義者というものです。

グォンタナモに収容されている人間がテロリストとは限らないどころか、ほとんどが、イラクやアフガニスタンでアメリカ兵を殺そうとしたもしくは殺した敵側戦闘員なのだ。彼らは単にテロリストの疑いをもたれて逮捕されたというような犯罪容疑者ではないのである。

そりゃ、外国の兵隊が侵略してくれば、抵抗するでしょうが。どこがいけないの? そして捕獲された敵側戦闘員は、ジュネーヴ条約に基づいて捕虜として扱う義務があり、拷問するなんてもっての他だし、戦争が終われば帰国させなければいけない。当たり前のことです。
米国がかれらを捕捉して勾留するなら、それはかれらをジュネーヴ条約によって取り扱いを定められた戦争捕虜として扱うか、あるいは米国憲法修正五条でデュー・プロセスを保証された犯罪容疑者として扱うか、どちらか一方にしなければいけない。ところがブッシュ政権は、ジュネーヴ条約も米国憲法も適用されない存在として、そのどちらでもない「敵側戦闘員」というカテゴリを新たに作り出してしまったのね。
こんなことがもし許されれば、戦時国際法も憲法もまったく無意味になってしまうので、こうした扱いは人道に対する罪として裁かれるべき行為だとわたしは思う。とはいえそれが実現される可能性はまったくないので、せめて後世に同じ過ちが繰り返されないように、政治的な中立な調査委員会を立ち上げて何が起きたのか明らかにするのが良いだろう。

CIAの取調べ法がアメリカの憲法を違反した行為だというのは真っ赤な嘘だ。ブッシュ政権下において、水攻めも含めCIAの取調べ法が憲法に違反するかどうかという調査がおこなわれ、これは違反ではないという判断が下されている。オバマ王は今になって、この判断を下した弁護士を戦争犯罪という罪で裁判にかけようなどと示唆しているのだ。

事実から指摘すると、オバマはその弁護士を裁判にかけようと示唆しておらず、裁判になるかどうかに自分は関与しないと言っているだけだし、仮に裁判になったとしても戦争犯罪としての裁判にはならない。どういうことかというと、ブッシュ政権時代から残されたメールの中に、政治的な意図によって弁護士が法解釈をねじ曲げて水攻めなどの手法を合憲とするメモを制作したことがうかがわれる内容の記述がある。そうして作られたメモによって、水攻めをはじめとした拷問行為は行なわれた。
仮にかれが本心から水攻めは憲法に違反しないと考えてそう書いたのであれば、少なくともかれが国内法によって罪に問われることはない。けれど、もし本当は憲法違反だと思っていたのに、水攻めをやりたいというブッシュ政権の意向に合わせて法解釈をねじ曲げたのであれば、弁護士としてクライアントに真実を誠実に伝える義務に違反したことになり、裁判にかけられてもおかしくない。一般論として内心はこうであったという立証は難しいので、こうした理由で裁判にかけられる弁護士はあまり多くないのだけれど、もしかれ自身が書いたメールや当時のメモからかれの本心が立証できるのであれば、裁判にかけない理由はどこにもない。ただし、それはあくまで弁護士法違反の罪であり、戦争犯罪の罪ではない。

しかし、国を守ることと国際法とどっちが大事なのかということになれば、国防を選ぶのは大統領たるもの当たり前だ。

このあたり、カカシさんはおかしいんだよなぁ。小さな政府を主張して、国家権力の増長に批判的なはずなのに、なぜか「テロリズム」の話がでてきた途端に、政府が国際法や憲法を無視しても構わないという話になるんだもんなぁ。
この点、カカシさんより徹底して保守本流の価値観に立つ英誌The Economistは違う。以前も紹介したけれども、テロリズムと市民の自由についての特集記事で、この雑誌は次のような論説を掲載した。
「自由主義者が自由を守るため声を挙げるとき、これらの不愉快な手法(注:盗聴や監視など)は実際のところテロリズムと対決するためには役に立たないと主張することがある。The Economistは自由主義を信奉するが、この見解には反対する。われわれは、秘密警察が市民を監視し、罪状なくして拘束し、拷問によって情報を得ることができるようになれば、テロリストの計画を阻止するのがより易しくなるということを受け入れる。これらの手法を禁じることは、片方の手を後ろに縛り付けたままテロリズムと闘うことになるだろう。しかし、片方の手を後ろに縛り付けることこそが、民主主義がテロリズムと闘うやり方なのだ。」
「文明的であることの意味の一つは、人権を尊重するということだ。テロリストとして疑われている人物ーーいや、いっそ殺人やレイプや児童虐待を起こしそうな人物も含めてはどうかーーが実際に何か違法行為をする前に拘束することは、おそらく社会をより安全にするだろう。各国政府がこれまで行なってきた疑わしい行動によって、数十件ものテロ計画が阻止され、何千もの命が救われた。自由を守るためにこれらの手法を放棄することは、多くの人々の死を引き起こすかもしれない。それでも、そうするべきだ。」
わたしは全面的にこの意見に賛成するわけではないけれども、「国防」という名目を挙げるだけで何の検証もなくコロッと政府の言いなりになってどんな法治主義破壊でも受け入れるカカシさんのような意見はおかしいと思う。

まず、アメリカ政府による取調べ方法が他から流れていた事実があったとしても、政府自体がそれを認めるということには重大な問題がある。アメリカの敵国、特にテロリストが多くでているイスラム圏諸国などは、もともとアメリカは悪魔の国だと信じている。その国の大統領が、「おっしゃるとおりでございます」と認めてしまったら、「やっぱりそうだったじゃないか。やはり破壊せねばならぬ。アラーアックバー」てなことになるのだ。

いや、アメリカは悪魔の国だと思っている人は、とっくにアメリカならそれくらいやると思ってたでしょ。それよりも、アメリカは間違いもおかすけれども、間違いを認めて是正することのできる国である、とアピールする方が、ずっとイメージいいと思うよ。

オバマ王になってからのイランや北朝鮮の傲慢な態度を見ればこれは明らかではないか。ブッシュ政権の頃はブッシュのイラク侵攻を見て、自分の国にも攻めてくる危険性を恐れて多少の遠慮を見せていたイランなど、オバマにそんな度胸はないと踏んで今はミサイル発射の実験はする、戦艦をソマリア沖に出動させるなど、国際社会の批判を完全に無視しての行動だ。北朝鮮は北朝鮮でクリントン時代に交わされた核拡散条約を破って核兵器爆破実験をおこなったばっかり。

イランや北朝鮮がアメリカをナメているというのはその通りだけれど、オバマが水攻めを認めたこととの関連はまったくないでしょ。たしかに、新しい大統領が出てきたから、アメリカがどう出るか様子を見るために挑発している、という側面はあると思うけれど、仮にマケインが勝っていても同じ状況になっていたはず。だって、いまのアメリカにイランや北朝鮮とやりあう余裕がないのは誰が見ても明らかだもの。

前政権の高官を裁判にかけることは非常に危険だ。いくら政治的に反対の意見を持っているからといって、そうやたらにライバル政権の高官を裁判にかけたりすれば、今後政権交代ごとに内乱の危険性をはらむ。

はいそうですね、一般論として賛成です。が、「政治的に反対の意見を持っているからといって」裁判にかけるべきだと主張している人はどこにもいないわけで、議論を逸らしている。わたしの考えでは、オバマ政権がブッシュ政権の高官を裁判にかけることにはカカシさんの言う通りの問題があるので、国連に委託して戦犯裁判を行なうべきだと思うけれども、何度も言う通りそれは絶対にあり得ないので(以下略)

ファシストをファシストと呼んで何が悪い? だいたいブッシュをヒットラーとなぞらえるような選挙運動やってた党が、いまさらこんなことをいう資格はないだろう。

うわー、いまだにそんなデマ言う人いるんだ? これはもうずっと前に保守メディアで騒がれた話で、どういう経緯かというと、MoveOn.orgという団体が優秀作は実際にテレビで放映するという形で「ブッシュ政権に反対する30秒コマーシャルコンテスト」を実施したところ、数千件もあった応募作のうち二つだけブッシュをヒトラーとなぞらえるような内容のものがあったのね。このコンテストでは、YouTubeと同じようにユーザがビデオを自由にアップロードできるようになっていて、その中からMoveOn.orgメンバーの投票で優秀作が選ばれることになっていたのだけれど、主催者による検閲がなかったために不適切な内容のビデオもいくつか掲載されてしまったというのが事実。もちろん、「ブッシュをヒトラーとなぞらえるのは不適切だ」という指摘がすぐにあり、それらのビデオは主催者によって速やかに削除されたけれど、それを保存していた人がいて、保守メディアで繰り返し放送された。
不適切なビデオが投稿されることは当然予想されたことで、内容を確認してから掲載すべきだった、という批判は妥当かもしれない。けれどもこれは、何千件もの応募作のうちの二つでしかなく、内容に気付いた主催者がすぐに削除したのだから、MoveOn.orgが意図的にブッシュをヒトラーとなぞらえるために掲載したわけではない。また、MoveOn.orgは政治資金法上、民主党の選挙対策委員会と戦略を協議することは認められていないから、仮にMoveOn.orgにこの応募作について何らかの責任があったとしても、民主党には何の関係もない話だ。
それなのにカカシさんは民主党のことを「ブッシュをヒットラーとなぞらえるような選挙運動やってた党」と言うが、実際カカシさんは民主党がそのような運動をやっているのを観たことがあるのだろうか? 保守ブログや保守メディアが「民主党がそういう選挙運動をやっている」と宣伝しているのを聞いただけじゃないかと思うんだけど。
ま、とにかくいつ米国に帰ってくるのか分かりませんが、クレタ島での残る時間を有意義にお過ごしください。
邪魔しちゃ悪いので、トラックバックはやめとこう。

3 Responses - “クレタ島でのバケーションが超うらやましいカカシさんへ”

  1. 一宿一飯 Says:

    macska様、お久しぶりです。
    お忘れの事とは思いますが、以前にお邪魔させていただいた者です。
    再びのお目汚し、御容赦下さい。
    苺畑氏の御姿勢はどうも「相変わらず」と言うよりある意味その偏り、現実忌避に関してより深刻さを増している様にも感じるのですが、氏の様な御考えと言うものはアメリカに置いては
    「ある種のドグマの様なものに基づく特定思想のグループ」
    の中で共有されているのでしょうか?それとも単に日本におけるネット状況の如く、漠然とマスメディアやブログ『論壇』?の様な物の中で醸成され、国粋的・排他的・保守的、と言う様な曖昧な括りの中で
    「実は基盤となっている程のイデオロギーは無く、単に全体状況に流されるままに過激化」
    している、言ってみれば「空気」の様な物なのでしょうか?異国の話ゆえ、その辺りはどうも漠然として解りかねる所があるのです。苺畑氏の、例えば「クロナラ暴動を正当化する」類の過剰なレイシズムやイスラムフォビアは、前は「一応ご自身では否定されていた」様に思うのですが、最近のご発言を見ますと最早「隠し様も無く悪化している」様に思います。
    日本でも最近の所謂「保守言論」には残念ながら核となるほどの思想は体系化され得ぬ侭に、どちらかと言えば迷走・自壊の傾向が見られます。所詮「空気」に浮かれ確たる考えも無く流された結果の顛末とも言えますが、アメリカにおける苺畑氏の様な「過激な排他主義」に関してはどういう捉え方をすれば良いのか聊か悩みます。
    自由貿易と小さな政府を希求する保守派にせよ、社会保障を重視するリベラルにせよ、現代アメリカにおいて、「むき出しのレイシズムや宗教憎悪、人権の否定」が受け入れられるとは到底思えませんし、現実的に見ても「トルコや親米アラブ諸国を初めとする、大半のイスラム世界」に対してまで敵対的、侮蔑的な態度を取り続けてアメリカの国家戦略が立ち行くとは到底思えないのです。
    一方で、マケイン等共和党議員が本来、彼等こそ「イスラム共和制の本流」であるイラン改革派への「支持」とも取れる態度を示し、寧ろ「世俗的な大衆国粋主義にして自由経済論者」の傾向が強いアフマディネジャドを攻撃する、と言う状態にも何かねじれを感じます。
    どうも、アメリカの保守主義は現実乖離・支離滅裂の傾向が見られ始めているように思うのですが、「それはこう言う事だ」と言うご教示を簡単に頂けたら非常に嬉しく思います。
    厚かましい事を申し上げました。先ずはお詫び申し上げます。

  2. 一宿一飯 Says:

    蛇足です。
    先日、日本における自称「保守派」ブロガーの方とカーティス・ルメイの叙勲」に付いて議論したのですが、その方曰く
    「ルメイの日本に対する戦略爆撃計画の責任は指導者(ルーズベルト?トルーマン?)にあり、ルメイは単に優秀な軍人であっただけである。其の後の冷戦期に於ける日本の防空体制確立に関しては叙勲に相応しい功績があった。むしろ戦中日本にルメイに匹敵する人物があれば見す見す焦土にはならなかったというだけの事だ」
    と言われた訳です。「水ぜめ」議論に付いてそれを思い出しました。
    小生は「この人は保守と名乗りつつ保守ではない。只の自由経済論と専制国家主義のキメラに過ぎない」と感じ、それ以上の議論は行いませんでしたが、
    「職業軍人がたとえ第三者視点から見て大量虐殺者であったとしても、確かに当該国家の利益に基づき国家からの命令に基づいてそれを行ったならば、単純に糾弾は出来ないだろう。だがそれはその国家内での話であり、虐殺を受けた国・民族がその事情を尊宅する筋合いの問題ではない。」
    「ましてや、天皇から勲章を授けるという行為は、少なくとも保守派にとり単に『労に対し報酬を与える』と言う意味には留まらない。天皇のオーソリティとは民族や国家の歴史の蓄積の上に立ちそれを象徴するものである以上、過去の日本国民が蒙った苦難や、掃った犠牲や努力の「記憶」とそれに基づく「国民の意識」を体現すべきことは言うまでも無い筈である。」
    「ならば、天皇から史上最も大規模な日本民族殺害と国土破壊を指揮した他国軍人に対し、しかもその人物は単に自国の国益に基づく国家の命令で職業的に任務に従事したに過ぎぬにも関らぬのに、勲章を授与するなど国辱以外の何であるのか」
    と言う最も基本的と考えられる部分が欠落していると感じた訳です。
    彼等が好き好む「米国保守派」であれば、同様の「国辱」は恐らく受け入れることは考えられないと思うのですが。
    それと同じ「保守と称しつつ、それと矛盾したメンタリティ」と言う者が苺畑氏にも在るのではないかとも感じました。

  3. 苺畑カカシ Says:

    一宿一飯さん、私の書いていることのどこにあからさまな人種差別を感じるのですか?私の保守と矛盾したメンタリティって何ですか?よそ様のブログで私を批判しないで、私のブログに来て直接挑戦なさってはいかが?

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