アメリカ大統領選挙がわかるようになる「10の地域」マップ

7/1/2006 - 2:37 am | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

今回紹介するのは Massachusetts Institute for a New Commonwealth (MassINC) という政策研究機関が作成した「10の地域」という米国政治情勢マップ。かなり前に米国で話題になったのだけれど、日本語圏ではまだ紹介されていないようだし、最近ある人とチャットしていた時に話題にしたら「それはブログで紹介したら」と言われたのでそうしようと思う。少し古くなっているけれど、「南部と北部」とか「都市部と田舎」程度の分類では分かりにくい地域ごとの政治の動きがよく分かるマップなので、参考にして損はないと思う。

このマップは、人種や年齢別の人口構成や4年ごとの大統領選挙での投票行動を元にアメリカ全体をほぼ人口が同じになるような10の地域に分割したもの。地域といっても地理的にひとつにまとまった形にすることは意識されていなくて、例えば Upper Coasts と呼ばれる地域は西海岸と東海岸の北部に分かれている。

このマップの作成上特に重視されているのが、大統領選挙の本戦の前に民主党・共和党それぞれの政党内で候補指名をかけて争われる予備選挙。というのも、いざ本戦となればよほど気に触ることがない限り民主党支持者はみんな民主党候補に、共和党支持者は共和党候補に入れてしまうので、その州の住民が本当にその候補の政策を支持しているのかどうか分からない。相手候補よりはマシだから、というだけかもしれないもんね。でも予備選挙なら、例えば民主党なら労組系かマイノリティ重視か反戦派か、共和党ならビジネス重視か宗教右派かリバタリアンか、みたいな形でその州の住民の好き嫌いがはっきり表われる。そういう様々なデータを利用して作成されたのが、以下のマップだ。

10 Regions of the U.S.

ここに登場する10の地域を、元記事(こちら)も参考にしながらわたしなりのコメントを添えて以下に解説する。

1)
地域名:Upper Coasts
政党の勢力:民主党優位
キーワード:第三政党

東西両海岸の北部にまたがる地域。10の地域のうち最もリベラルな傾向があり全体的には民主党優勢であるものの、民主党エスタブリッシュメントに反発して無所属・第三政党や党内反主流派、さらには共和党改革派の人気も高いため、必ずしも民主党安泰ではない。またこの地域から選出される共和党はほとんど全員中道派として知られており、保守化する共和党内で活動が難しくなった結果無所属に転じる例もある。この地域を代表する政治家としては2004年の大統領選挙で旋風を巻き起こしたハワード・ディーン元知事(ヴァーモント州、現民主党全国委員長)があげられる。(個人的には現在そのディーン知事の元選挙参謀とともに健康保険改革を推進する政治団体をやっているオレゴン州のジョン・キッツハバー元知事をプッシュしたいところだけど。)

2)
地域名:El Norte
政党の勢力:均衡
キーワード:ラティーノ

カリフォルニア南部からアリゾナ・ニューメキシコを通りテキサス南部にまたがる地域。ハワイ・フロリダ州の南端のあたりも飛び地としてこの地域に含まれる。名前の通りラティーノ(ヒスパニック)系移民が増えている地域で(ハワイはアジア系)、政治的にはマイノリティや底辺労働者としての立場を重視して民主党に入れる人とカトリック教徒として宗教的価値観から共和党に入れる人が均衡している。この地域に州全域が含まれる州がなく、選挙における影響力は人口の割には小さいけれども、今後拡大が予測されるだけにラティーノの支持をどちらの政党が集めるか注目される。この地域を代表する政治家は次期大統領選挙へ出馬するとみられる民主党のリチャードソン知事(ニューメキシコ州)。

3)
地域名:Southern Comfort
政党の勢力:共和党優位
キーワード:宗教右派

テキサス東部からオクラホマ・アーカンソー・ミズーリの一部と南部諸州の海岸線を沿ってフロリダ州西岸を含む地域。宗教右派が大勢力を占め、ビジネスとしては石油産業が代表的。かつては民主党の安定した地盤だったこの地域が、いまでは完全に共和党の地盤と化している。この地域を代表する政治家は、もちろんジョージ・W・ブッシュ大統領とジェブ・ブッシュ知事(フロリダ州)のブッシュ兄弟。

4)
地域名:Southern Lowlands
政党の勢力:共和党優位
キーワード:人種

南東地方の内陸部から東海岸に広がる地域。白人と黒人のあいだの人種対立が最も深刻に残る地域。民主党が確実に黒人候補に議席を与えるために作った(黒人の多い地区ばかり集めた)細長い選挙区は、結果的にそれ以外の地域でより過激な人種差別主義者の当選を許すことになってしまった。白人貧困層と黒人をまとめあげることができれば民主党にもチャンスはある。過去の人だけれども、それに成功した政治家としてジミー・カーター元大統領をこの地域の代表的政治家にあげておきたい。また2008年の選挙ではニュート・ギングリッチ元下院議長の動向が注目される。

5)
地域名:Appalachia
政党の勢力:共和党優位
キーワード:公共事業

完全に内陸部だけでできた、13州にまたがる東部山岳地帯。最も貧しく、大恐慌のときに巨大なダムを作る一大公共事業で救われて以来、福祉と公共事業に依存したまま。政治的には保守的ながら「大きな政府」主義であるという点でこの地域の政治家は民主党も共和党も同じ。そのためかこの地域に大統領を狙えるタイプの政治家はあまりいないが、2008年の大統領選挙ではビル・フリスト上院院内総務(テネシー州)が出馬するとみられている。

6)
地域名:Northeast Corridor
政党の勢力:民主党優位
キーワード:大都市

ニューヨークと首都ワシントンを中心とした東部の小さな地域。大都市が多いためもっとも人口密度が高く、平均所得も高い。もともと民主党が優勢だったのが、近年共和党の右傾化によってさらに民主党に支持があつまっている。一方首長選挙ではニューヨークのマイケル・ブルームバーグ市長ら共和党籍の中道候補を選ぶしたたかさも。代表的な政治家と言えばもちろんエドワード・ケネディ上院議員(マサチューセッツ州)だけれども、ここはあえてヒラリー・クリントン上院議員(ニューヨーク州)の名前も挙げてみるか。

7)
地域名:Great Lakes
政党の勢力:民主党優位
キーワード:労組

名前の通り五大湖沿岸のシカゴ、ミルウォーキー、デトロイト、クリーヴランドといった都市を含む地域。自動車産業で知られていたデトロイトをはじめ、かつての重工業地帯は工場の国外移転による閉鎖などで衰退が激しい。ここで通商政策や医療保険改革で労組の支持を得た民主党候補が指名に一歩近づく。これといって大統領の座に近い政治家はいないものの、将来への期待をかけてバラック・オバマ上院議員(イリノイ州)をここでは挙げておく。

8)
地域名:Big River
政党の勢力:均衡
キーワード:激戦地

北はミシガン・ミネソタからはじまりアイオワ・イリノイ・ミズーリ・アーカンソー・ケンタッキー・テネシーの一部を含むミシシッピ川沿岸の地域。ここ20年ほどの大統領選挙の最激戦地であり、この地域を制する候補が大統領の座を射止めると言っても言い過ぎではない。ラティーノの人口が少ないことを除けば、人口構成はアメリカ全土の平均にかなり近い。ビル・クリントン元大統領を含め、多くの大統領候補を輩出している。次期大統領選挙で注目すべきはアーカンソー州のマイク・ハッカビー州知事(共和党)。知事に就任した時には巨漢だったのに健康な食生活と運動で50キロの減量に成功したことは周囲を驚かせ、かれの政治にかける意志の固さを見せつけた。

9)
地域名:Farm Belt
政党の勢力:共和党優位
キーワード:地域社会

Big River を東西からはさむようにして広がる内陸農業地帯。すべての地域のうち、最も白人の割合が高い。地域社会を重視し「大きな政府」を嫌う。共和党の最も古い地盤だが、近年有力な大統領候補をあまり生み出していない。2008年はエリザベス・ドール上院議員(ノースカロライナ州)の二度目の挑戦に期待か。

10)
地域名:Sagebrush
政党の勢力:やや共和党優位
キーワード:リバタリアン

海岸沿いを除くアメリカ西部の大半と、メイン州の非都市部、アラスカを含む巨大な地域。人口密度が低く、山岳地帯や砂漠地帯などが多く含まれている。連邦政府に反発するリバアリアンの風潮が強く、共和党の支持が強いもののキリスト教の信仰を押し付ける宗教右派とは対立する。モンタナ・コロラド両州などで、宗教右派への嫌悪から民主党に支持者が鞍替えする傾向が近年強まっている。いわゆる「リバタリアン系民主党員」の代表として、共和党支持派多数のモンタナ州で絶大な人気を誇る民主党のブライアン・シュワイツァー知事がいる。

以上、10の地域の解説おわり。やや古いものの、もっと詳しい話や具体的なデータは MassINC のサイトに載っています。

こう見ると、民主党の安定地盤は

* Upper Coasts
* Northeast Corridor
* Great Lakes

の3つ、それに対し共和党の安定地盤は

* Southern Comfort
* Southern Lowlands
* Appalachia
* Farm Belt

と4つあることがわかる。さらに Sagebrush も現時点では共和党寄りということは、民主党は残りの2つのうち1つでも落としたら敗北決定ということに。そして実際、ここ20年くらいの選挙はまったくその通りになっている。特に Big River は重要で、1992年・1996年のクリントンも、2000年・2004年のブッシュもこの地域をごっそり取ることで勝っている。民主党にとって期待できるのは、Sagebrush が民主党に動いていることと、あまりに激しい移民バッシングの結果、共和党がラティーノに嫌われて El Norte が民主党の地盤になる可能性があること。

これは大統領候補の選択にも大きく関わってくる。民主党が本気でホワイトハウス奪還を狙うなら、Northeast Corridor や Upper Coasts 出身の政治家はそれだけでアウト。具体的にはヒラリー・クリントン上院議員(ニューヨーク州)やジョン・ケリー上院議員(マサチューセッツ州)といった連中は全員辞退してほしい。 El Norte 出身のビル・リチャードソン知事(ニューメキシコ州)、Southern Lowlands 出身のジョン・エドワーズ元上院議員(ノースカロライナ州)、あとは個人的には好きじゃないけど同じく Southern Lowlands のマーク・ワーナー知事(ヴァージニア州)か Big River 出身のラス・ファインゴールド上院議員(ウィスコンシン州)あたりが狙い目か。

共和党側は、地区と言うより宗教右派との距離がポイントになりそう。党内の指名選挙を勝つためには宗教右派の支持を受けることが必要だけれども、あまりに宗教右派ベッタリだと本選挙でボロ負けしてしまう。ビル・フリスト上院議員(テネシー州)やサム・ブラウンバック上院議員(カンザス州)のような宗教右派にベッタリだけの人物はその点で失格。かといって本当に共和党員かどうかもあやしいようなルーディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長やその後任のマイケル・ブルームバーグ市長のようなリベラル寄りの候補が党指名を取れるとは思えないし、いまさら宗教右派に擦り寄ってもジョン・マケイン議員(アリゾナ州)がかれらに受け入れられるとも思えない。宗教右派の支持を得られ、なおかつそれ以外の人にもアピールする政治家といえば、やはりアーカンソー州のマイク・ハッカビー知事くらいか。

以上、アメリカ政治「10の地域」をお届けしました。このマップさえあれば、2008年の大統領選挙の進展がよく分かるかもしれません。

4 Responses - “アメリカ大統領選挙がわかるようになる「10の地域」マップ”

  1. lakehill Says:

    >>2008年の選挙ではニュート・ギングリッチ元下院議長の動向が注目される。
    この人って過去の人という印象があるんですが、違うのですか?

  2. macska Says:

    たしかにちょっと過去の人っぽいイメージがありますが、2008年に大統領選挙に出るための準備をしているみたいです。ヒラリー・クリントンと和解を演出してみせたのも、お互いに90年代のイメージから脱却して中道っぽいイメージを醸し出すための取り引きでしょう。

    実はわたし、ギングリッチ議長は敵ながら(というのも変ですが)信念を持った政治家としてかなり評価しています。もともと歴史学者であり、歴史観を決定的に欠如したブッシュやネオコン連中とは政治家としての格が全然違います。もちろんわたしと政治的立場は違うので実際に政界復帰すれば批判の対象となるでしょうけどね。

  3. DQN日記(++) Says:

    まずは一読を

    [politics]アメリカ政治地図よく考えてみれば再来年はもう大統領選挙、なんですね。。。(最近ヒラリーの露出も多い感じだし)
    charlieのmixi日記経由でたどり着いたmacska dot orgさんのエントリー。これ、非常に有用なので、とりあえずリンク。

    アメリカ大統領選挙が…

  4. 降龍十八掌 Says:

    はじめまして。とても参考になります。TBさせていただきます。

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