ヒラリー・ローゼンの人間性

12/18/2004 - 4:02 pm | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

少し前の話になるけれど、先の選挙における同性結婚支持派の大敗の責任を取らされるようにして、ゲイ&レズビアン市民権団体として最大手であるヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)の代表が辞任した。HRCと言えば、他の性的少数者のための全国団体に比べてより保守的あるいは(異性愛文化に)同化主義的なことで知られていて、わたしの周囲では圧倒的に評判が悪いのだが(そういえば今年の Creating Change ではHRCと GenderPAC が揃って欠席してたけれど、どうしたんだろう?)、保守的であるからこそ他の性的少数者よりずっと「結婚の権利」に執着しているメンバーが多く、選挙での同性婚の敗北を受けて責任を問う声が強くなっていた。でも、わたしがここで取り上げたいのはそんな話じゃない。

わたしが取り上げたいのは、辞任した代表に代わって新しい代表が選ばれるまでのあいだ、暫定的にHRCの運営を任されたヒラリー・ローゼンというロビイストの事だ。ヒラリー・ローゼン? ネット界隈では悪の権化に近い扱いを受けているこの人名を思いがけない場面で聞いて驚いたのはわたしだけではないと思う。ローゼンと言えば、著作権マフィアの一角であり、音楽産業の利益団体・全米レコーディング産業会の会長として一般消費者の公正利用の権利を大きく犠牲とするような形で著作権保持者の権利を拡張する法改正を実現させただけでなく、P2Pネットワークを提供する企業やP2Pソフトを使ってインターネットでカジュアルに音楽をコピーしていたとされる人を子どもからお年寄りまで何千人という単位で民事裁判に訴えた、その責任者だ。もちろん、音楽業界の著作権は守られるべきだが、そもそもここまで違法な音楽コピーが広まった理由の1つは、音楽業界自身がインターネットの発展に乗り遅れ、消費者が望む形で商品を提供できなかったことであり、旧態依然とした業務形態を放置したまま過剰な法改正やら裁判に頼る姿勢によって、音楽産業は批判されてきたのだ。

でも、どうしてローゼンが? 調べてみたところ、ローゼンは辞任した代表のそのまた前の代表であるエリザベス・バーチのパートナーだったらしい。うーん、どうしてこんなに美味しい業界ゴシップを最近までわたしが知らなかったのだろうか。いくらHRCに関心が無かったとはいえ、許されない。反省します。

冗談は抜きにして、昨年ローゼンが全米レコーディング産業会の会長を辞任した後の彼女の発言を辿ってみると、さすがにかつての自分の行動を自己批判したりはしないけれども、会長であった頃と比べて柔軟な発言が多くなっている。音楽産業が時代に乗り遅れているとは言わないものの、音楽産業における変化が遅すぎたという事は認めるようになっているし、先月の Wired 誌に載っていた「How I Learned to Love Larry」というエッセイでは、著作権を巡って長年敵対してきたローレンス・レッシグとの和解の姿勢すら見せている。ローゼンがレズビアンであると知った途端、人間としての彼女に興味を持ってしまうわたしも変だけれど、17年間も音楽業界のロビイストとして活動しているなかで、ローゼン自身の考え方と音楽産業の考え方が衝突したことだってあったはずだ。仕事として音楽産業の代弁をしているうちにそうした認知不一致は解消してしまったのか、そしてロビイストを辞めたあとそれはどうなったのか、本でも出してくれないかな。

ローゼンについて考えていて思い出したのが、以前ここでも名前を出したことがある民主党のパトリシア・シュローダー元下院議員。コロラド州選出のシュローダー議員は、26年に及ぶ議員生活のあいだ自他ともに認める「議会のフェミニスト」として頭角を現し、市民権の問題やら妊娠中絶の権利まで女性と少数者の問題にかけてのエキスパートとして尊敬されていた。中でも最大の功績と言えるのが、当初まったく成立する見込みがないと言われていたにも関わらず成立させた1994年の「女性に対する暴力対策法」だ。そのシュローダーが議員引退後、何をやっているのかしばらくわたしは知らなかったのだけれど、今年ある論争に関連して知ることになった。

その論争とは、米政府が出資する医学研究について、研究の結果が有償の医学学術誌においてのみ公表されるのはおかしいのではないかという議論。研究の為の資金は国民が税金として払っているのに、その結果すら大金を払わないと見る権利がないのはおかしいに決まっている。昔からこういう議論はずっとあったのだが、インターネットの発達によって、「無償で大量の研究をインターネット上で提供する」という事が比較的低いコストで可能となったため、最近いっそう「研究結果を公表せよ」という圧力が強まった。それに対し、唯一反対の立場を取る団体が、300以上の出版社を代表する出版業界のロビイスト団体・全米出版社会であり、「政府が出資する重要な研究の結果を全て無償で公開されてしまっては、大学図書館が有償の学術誌を購読しなくなり、学術誌の経営が成り立たなくなる」と主張している。

こうした全米出版社会の主張、レコード業界のそれと似ていないだろうか? 紙に印刷された学術誌を全国の大学に購読させるという経営モデル自体、どう考えても時代に乗り遅れている。もともと学術論文、特に医学関係のそれは、できるだけ多くの人が無償で触れることができるようにする(オープン・アクセス)のが公益にかなっているはずであり、研究資金が税金によって負担されているのであればなおさらそうすべきだ。歴史上はじめてオープン・アクセスの実現が可能な技術的環境が整っているというのに、時代に乗り遅れそこねた出版業界が足を引っ張るのは困ったものだ。レッシグ教授らが推進する Public Library of Science という学術誌群では、論文の著者が払う「出版料」によって学術誌運営の資金を調達することで、完全なオープン・アクセスを実現している。(一般の学術誌も「出版料」は取るのが慣例となっており、それは必要経費として研究費用に含まれる。また、個人的な研究などで執筆者が出版料を払えない場合は免除する制度もある。)

話が逸れかけてきたけれど、そうした時代遅れの全米出版社会の会長として現在活発にロビー活動しているのが、実はわたしが尊敬するシュローダー元下院議員その人なのだ。「研究資金を税金によって賄った研究の結果は、国民すべての共有財産として公開すべきだ」というごく当たり前の提案に激しく抵抗しているシュローダー元議員を見ると、彼女の議員時代の業績が素晴らしいものであるからこそ、とても悲しい。かつて議会随一のフェミニストとして、保守派からどんな罵声を浴びても動じなかったシュローダー議員が、今では著作権マフィアの代弁者としてかつての名声を切り崩しているのだから。

こうなったら、コロラドの有権者にお願いして、州知事でも上院議員でも何でもいいからシュローダー元議員を政界に呼び戻して欲しいところだ。出版業界の利益代弁者は他にいくらでも見つかるだろうけれど、市民派でありながら実力もある女性政治家は他に代わりがきかないんだからさ。

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