ホームレス個人情報データベースへの「DV例外規定」は無意味

2004年9月19日 - 7:33 PM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

このサイトでも7月に紹介したように2002年の総会から2年以上もずっと「ホームレス経験のあるDVサバイバーによる共同声明」を無視し続けている「DVに反対する全国連盟」(NCADV) について続報。ここにも掲載した公開書簡をDV問題専門家が集まる某メーリングリストに投稿したところモデレータに配信拒否されちゃったのもショックだったけど(あの公開書簡って、何か問題がある内容ですかぁ?)、それより驚いたことに、先週当の NCADV からわたしあてにメールがあって、ようやくホームレス/サバイバー問題に答えてくれるのかと思ったら、何と「あなたが書いたDV関係の論文を NCADV の出版物に転載したいのだが構わないか」という問い合わせだった。わたしが2年間ずっと訴えていることを無視したまま、そのわたしに向かって別の件で願い事をしてくるなんて、何を考えてるんだ。
コノヤロー! と言いたいところだけれど、2年前の声明への回答を拒否しているのは NCADV の中でも理事会のお偉いさんたちで、出版物なんかを担当している事務の人とは全然別。事務の人は、わたしからの苦情をちゃんと理事に取り次いだ上で「今度こそちゃんと回答があるといいですねー」とか言ってくれている人なので、たまたまメールをくれた担当者に怒っても仕方がない。フェミで反DV団体のくせに階層的かつ官僚的な内部構造自体にも問題ありそうな気がするけど、それを今さら言ってもしかたない。それに、ただ単に論文転載を拒否しても何のプラスにもならないし、「転載しても良いがそれなら…」と取り引きを持ちかけて相手にしてもらえるほどわたしはエラくないので、論文転載の件については承諾した上で、もう一度文句を上部に取り次いでもらうことにした。
今回文句を言ったのは、ホームレス/サバイバー共同声明への回答が遅れている(という表現自体、物凄く好意的な解釈なんだけど)件に加えて、最近 NCADV が米連邦政府による「ホームレス管理情報システム」(HMIS)に関連して「DVシェルターを例外にせよ」と要求して支援者たちに動員をかけている点について。HMISというのは昨年「住宅都市開発省」が発表した制度で、政府の助成金を受けてホームレスの人たちにサービスを提供する公的・民間の団体に、サービス受給者についての情報を政府に提供させて全国的なデータベースを作ろうというもの。
仮にこの制度の目的が「より的確にニーズを把握して柔軟にサービスを提供すること」であったのであれば、必要とされるのは統計情報だけであって受給者の個人情報を集める必要はないはずだけれど、今のブッシュ政権は当然そんな事考えてない。「複数の団体から重複するサービスを受けている悪い奴がいる、そのせいで必要な人に必要なサービスが行き渡らない」という(いかにもブッシュの取り巻きが考えそうな)口実でさまざまな個人情報を集めた全国データベースを作ることになっている。これによって、住所を持たずに州から州へ、街から街へと移動する人を追跡することが可能になるわけで、犯罪捜査に転用されそうな事が明らか。そうでなくても重大なプライバシー侵害だし、またデータベースがある以上、情報が漏れればDVから逃れて暮らしている被害者たちの安全にも関わる事態になる。
1年前にHMISが発表された時点で、NCADV はホームレスの人たちの権利擁護団体と一緒にこうした制度に反対の運動をするべきだったのだけれど、しなかった。というのも、昨年の時点ではDV関連団体を対象に個人情報報告義務を免除する例外規定があったので、NCADV はじめDV団体は無関心だったのね。ところが、今年発表された最終的な実施計画ではその例外規定が削除され、DV団体も他の団体と全く同じ基準に従わなければいけないことになった時点でDV業界はパニックにおちいり、「サバイバーの安全を守るためにDV例外規定を元に戻せ」という運動をはじめたということ。
もし NCADV が2年前の「ホームレス/サバイバー共同声明」に真面目に向き合っていれば、HMISが出来る以前からホームレス権利団体との協力関係を築けたはずだし(それが2項しかない要求項目の1つだった)、1年前にHMISの最初の案が出た時点でDV例外規定があろうとなかろうと反対の立場を取ることができたはず。それなのに、今になってもHMISという制度そのものへの反対を打ち出さずに、DV例外規定だけを訴えるような姿勢では、今後もホームレス権利団体との協力関係は絶対に築けそうにない。
反DV運動がこうしたその場しのぎの対応をするのは今回だけじゃない。1996年に移民法が大きく改正されて、適法であるかどうかを問わずに米国への移住を希望する人たちに厳しい制度が次々と作られた時、反DV運動は「移民たちの権利」を支持せず、「DVの被害を受けているが、移民であるために加害者から逃れられない(離婚すると米国に留まれない)被害者」だけを守るための例外規定を主張した。同じころ、福祉受給者に無償労働を義務づける「福祉改革」が起きたときも、それが実質的には貧しい人たちに最低賃金以下の報酬で働くことを迫る制度であるとして反対する代わりに、「DVから逃れた被害者(あまり過酷な労働を義務づけるとDVから逃げられなくなるそうだ)」だけを対象とした例外規定を「勝ち取った」。
そもそも、DV例外規定というのは本当にサバイバーの安全のためなわけ? 当たり前だけれど、サバイバーは全員がDVシェルターに来るわけでもないし、DV被害者支援団体だけから支援を受けるわけでもない。家族や友人に頼れる人は良いとして、そうでなければかなり多くの人がDV特定の団体だけではなく、一般のホームレス権利団体による支援や、その他の社会福祉・社会サービスを受けているはず。シェルターに来ることを希望する人全員を受け入れられるだけの容量がシェルターにはないし、シェルターだけで被害者が希望する全てのサービスを提供できるわけではないから、多くの被害者たちが別のさまざまな団体から支援を受けているというのは当たり前でしょ。すると、仮にDV特定の団体がHMISから免除されていたとしても、別の団体経由でDVサバイバーの個人情報はHMISに記録されるので、被害者の安全に生じるリスクは例外規定があろうとなかろうと全く変わらない。本当にサバイバーのプライバシーを考えるのであれば、むしろ昨年HMISが発表された時点で「DV団体例外規定なんて意味がない、サバイバーの安全のためにはいかなる形でもHMISは認められない」と批判しておくべきだった。
じゃあ例外規定があったら何が違うかというと、DVシェルターやその他の関連団体が面倒な書類を1つ減らせるという、ただそれだけの話。そこまで来て、なるほど、NCADV というのはサバイバーのための団体じゃなくて、シェルターなどの関連団体や専門家たちの利益・圧力団体なんだと納得できる。
わたしは常々「サバイバーの利害とシェルターの利害は別であり、時には対立するのだから、無理に1つにまとめずに『利害の衝突』の存在を容認した上で、それぞれの利害の間に透明度の高い均衡状態を作り出すべきだ」と主張しているのだけれど、現時点ではサバイバーの利害を代弁して政治に影響を与え得るような全国的な組織はないわけで、NCADV に純然たる関連団体の利害団体となってもらっては困る。実質的にはサービス提供者側の団体だと知りつつも、現状ではサバイバーの利害も NCADV に託すほかないんだから。でも、HMISのような重要な問題において、どうしてもサバイバーの利害を無視し続けるというなら仕方がない。 NCADV がサービス提供者側の団体になっても構わないから、せめて「サバイバーの安全のため」という嘘で自分たちに都合のいい「例外規定」なんか求めるのはやめろて欲しい。
…と、NCADV の事務の方に言っておきましたですー。
ごめんねー、あんたの所のお偉いさんがアホだから、わたしから文句ばっかり届いてしまって。

One Response - “ホームレス個人情報データベースへの「DV例外規定」は無意味”

  1. ばらいろのウェブログ Says:

    国家に頼って性的な暴力はなくせるか?

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