スピン・コントロールとしてのアサンジ擁護論(週刊『SPA!』二月八日号掲載)

2011年2月7日 - 5:00 PM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

以下に掲載するのは、扶桑社・週刊『SPA!』二〇一一年二月八日号(一月二五日発売)の「週刊チキーーダ!」コーナー内において掲載された短いコラムです。文字数制限が厳しいと、どうしても歯切れよく批判するだけの記事になってしまいがちなので、苦労しました。企画・編集で助けてくれた荻上チキさんに感謝します。また、同じテーマでシノドスにより本格的な記事(「ウィキリークスのジュリアン・アサンジ逮捕をめぐる流言、そして「強姦」と「『強姦』」のあいだ」)を寄稿しているので、そちらもご参照ください。
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ジュリアン・アサンジが英国で逮捕されて二か月近くたった。既報のとおり、彼の逮捕容疑はウィキリークスの活動とは表向き関係なく、講演のため訪れたスウェーデンで複数の女性に性的暴行をはたらいたというものだ。
アサンジの罪状は、レイプ・性的暴行・不法な性行為の強要の三つ。このなかには、相手が寝ているあいだに無理やりセックスした、抵抗ができないよう上から押さえつけてセックスを強要した、という容疑も含まれる。が、ウィキリークスの活動を支持する一部の論者らは、アサンジを擁護しようとするあまり、彼にかけられた容疑の深刻さを誤魔化すような言論を展開してしまっている。もちろん日本においても同様で、その影響力の大きさを考え、ここではジャーナリスト上杉隆氏の発言について指摘させていただきたい。
上杉氏は本誌12月28日号で「この暴行容疑は同意があってもコンドームを使わない性交は違法とするスウェーデンの法律によるもので、レイプとは言いがたい」と解説している。また、週刊ポスト12月24日号に「実際には『コンドームをつけずにセックスした容疑』である」、週刊文春12月23日号に「性行為の最中に避妊具が破れたというもの」「もうひとりは、性行為の時にコンドームを使わなかったというもの」と書き、テレビ朝日「朝まで生テレビ!元旦スペシャル」でも同様の発言をしている。だが先に指摘したとおり、アサンジにかけられた容疑を単に「コンドームを使わない性交」と紹介するのは誤りだ。
また、氏はダイヤモンド・オンラインのコラム「週刊・上杉隆」十二月一六日付の記事において、「コンドームが破れただけ」という指摘に加え、「そもそもジュリアン・アサーンジが犯した『強姦罪』とは(中略)セックスの最中に女性に体重をかけ過ぎた程度」とも書いている。抵抗できないように上から抑えつけ性行為を強いたという訴えを、「体重をかけ過ぎた程度」と言い換えるのは、アサンジを擁護し、日本の既存メディアを批判したいという目的のために訴えの内容をねじ曲げる行為であり、上杉氏が常に批判してきたような、「スピン」をかける行為にあたるのではないか。
もちろん、これらの容疑は「そういう訴えがあった」という話であり、「事実」かどうかは今後の裁判で争われるもの。アサンジは「事実無根だ」と主張しており、彼には公正な裁判を受ける権利があるし、上杉氏がその言い分を信じるのも自由だ。だが、アサンジを支持するからといって、訴えの内容を矮小化するのは間違っている。
しかもそれは、一見「反体制的」なポーズを取りながら、性暴力の訴えを矮小化し、被害者を貶め、「より重要なこと」のために泣き寝入りを強いるという、性暴力問題にごくありふれた悪しきパターンをも反復してしまう。
権力の暴走を批判し、公正な報道を求めるためにウィキリークスの活動を支持する者が、ウィキリークスにまつわる不都合な情報を否定したいがため、「信じたい主張」だけに耳をかたむけるのは本末転倒。よりすぐれた報道を可能にするため、自らの持つバイアスにも自覚的になってほしい。
【追記】
この記事が出版されたあと、資料を整理していて、文中に引用した週刊ポストの記事が上杉隆さんのものではないことに気づきました。じつは、この記事を準備中に、上杉さんの記事をはじめさまざまな媒体に掲載されたアサンジ擁護の記事を収集していたのですが、手違いにより週刊ポストの無記名の記事が上杉さんの記事を集めたファイルに入ってしまい、そのまま気づかずに上杉さんのものとして引用してしまったようです。この件に関して、上杉隆さん、週刊ポストさん、その他関係者のみなさんと読者のみなさんに謝罪します。

4 Responses - “スピン・コントロールとしてのアサンジ擁護論(週刊『SPA!』二月八日号掲載)”

  1. wqwq Says:

    お前の言ってる事は自民擁護じゃ!!!!

  2. macska Says:

    wqwqさん、
    言っている意味がよく分からないので、もうちょっとマトモなコメントをお願いします。
    こんな記事書かれても、自民党はべつに嬉しくもなんともないと思うし。

  3. Tweets that mention macska dot org » スピン・コントロールとしてのアサンジ擁護論(週刊『SPA!』二月八日号掲載) -- Topsy.com Says:

    […] This post was mentioned on Twitter by Emi Koyama, Emi Koyama. Emi Koyama said: @yk7011 ちなみに、「裏側」ではないと思っていたので、自分のサイトに転載する際は自分で付けたタイトルで掲載しました。 ht […]

  4. kawasy Says:

    時の体制や権力に批判の目を向けるのもジャーナリストの重要な職務だとは思いますが、
    それに溺れてしまっている方々が上杉さんをはじめ、とても多い様に感じます。
    Journalism’s first obligation is to the truth.
    まず、真実に忠を尽くすのがジャーナリストの本分だと思うのですが。

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