政権交代、米国オバマ大統領の場合 (αシノドス36号配信記事)

2009年10月9日 - 12:41 PM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

おともだちの荻上チキさんが編集しているメルマガ「α-Synodos」の36号(9月1日配信)に掲載された「『政権交代』は日本に何をもたらすのか!?−−『民主党圧勝/自民党惨敗』を分析する」という特集において、シノドス代表の芹沢一也さんから「アメリカ目線で何か書いて」というお題をいただいたので、寄稿させてもらいました。
とはいえ、アメリカ目線で言うなら「何それ、そんな外国の政権交代なんて興味ねーよ」で終わりになってしまうので、米国における共和党から民主党への政権交代について書くことで、日本の読者に「米国では政権が変わってこうなっているんだ」というのを説明しよう、と思い、「200字以上でアンケートにお応えください」という注文にその10倍くらいの文字数で書いてしまいました。あー雑誌じゃなくてメルマガで良かった。
で、書いておいて言うのもなんだけど、これってわたしの専門でも何でもなくて、ただアメリカに住んでいるだけの人がアメリカに住んでいるというだけで書きました、みたいな感じの文章で、はっきり言って恥ずかしいです。プロのライターでもないのに、自分が書きたい内容ではなく注文された内容で(って実はかなり違っているけど)無理矢理書いてみました、なんてのはどうかと思うんだけど、チキさんが「これでいい」って言うから掲載してもらいました。で、恥ずかしいついでなので、ここにも載せておきます。ほかに書きたいこともあるんだけど、最近忙しくて新しい記事書けないし。
ちなみに、同じ特集で同じように「200字以上」という注文を受けた宮台真司さんは、わたしよりさらに倍以上書いてた。わたしみたいな素人ならともかく、あれだけ文章を書き慣れている人がそれはどうかと思う。まあいつものことらしいけど。
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「変革」への期待を受けて米国大統領に当選したバラック・オバマが就任してから八ヶ月、日本の政治にも変革が訪れた。鳩山新政権がこれから取り組む政治課題については他の論者に論じてもらうとして、この時点でこれまでのオバマ政権の軌跡をおさらいしておこう。
オバマが大統領に就任してまず最初にしたことは、米国政府からの助成金を得ている国際援助団体が途上国での活動をするにあたって妊娠中絶についての情報提供を禁じるブッシュ政権時代の規則の撤廃だった。続いて、不法な勾留や囚人虐待が問題となっていたグアンタナモ収容施設を閉鎖するという決定が発表され、既に収容されている囚人たちの処遇が問題となった。
未曾有の危機的状態で引き継いだ経済においては、前政権ではじまった巨額の公的資金投入を継続せざるを得なかった。その過程、破綻寸前に陥った自動車会社を実質的に国有化した。そして満を持してはじめた健康保険改革の議論では、野党共和党や産業界の意見を取り入れて超党派で実現しようと試みるも、一部の保守論客による「オバマの医療改革はお年寄りを本人の意志に反して安楽死させようとしている」などといった荒唐無稽なデマ宣伝に苦しめられ、有意義な改革が実現するか不透明になってきた。
オバマは昨年の選挙戦において、九十年代から続く民主・共和両党の不毛な罵り合いからの脱却を訴え、それをかれの目指す「変革」の中心に据えた。党内の対立候補だったヒラリー・クリントン議員(現国務長官)が「ブッシュ政権・共和党政権からの変革」だけを唱えていた−−ブッシュ以前の政治のあり方を否定したら、夫のクリントン大統領時代まで否定することになってしまう−−こととは対照的であり、それが共和党員や無党派にまで支持を広げる要因となった。
ところが、いざ大統領となってその信念のままに行動したところ、交渉相手の共和党や党内の保守系議員らは大統領に際限なく譲歩ばかりを求めるし、それに応じているうちにこんどはリベラル派が離れていってしまう。たとえば捕虜虐待は国際法違反だったと認めておきながら、それを指示した前政権高官は追求しないと言明してしまったり、イラク戦争からの撤退を示唆しつつアフガニスタンにおける戦争への増派を決めたり、同性愛者に対する差別はいけないと言いながら同性婚には反対するなどだ。
かつてクリントン大統領は共和党の政策のうち人気のあるものを片っ端から「いいとこ取り」して高い支持率を維持したが、当時より現在のほうが保守派とリベラル派の溝が広がっている。選挙でオバマ大統領と民主党議会を大勝させたのに、選挙中に民主党が掲げていた政策が実現されずに、ずるずると譲歩を重ねる大統領の姿勢に、リベラル派が失望を深めているというのが現状だ。徐々にオバマ大統領の支持率が下がっているというが、共和党の支持率がそれほどあがっていない点からも、いま不支持に回っているのは主にリベラル派であることが分かる。
オバマが目指した「熟議的民主主義」が空回りしている大きな要因として、やはりかれが大統領になるのが早過ぎたという点があると思う。議会というのはある意味「仲良しクラブ」的な共同体であり、政治思想的な対立や連帯とは別に、人間同士の付き合いがある。仮に政治的にまったく相容れない相手でも、どういう場合ならこの人は本気だとか、精一杯譲歩してくれているとお互い了解しあっているからこそ、妥協が可能になることだってある。オバマはクラブの最も新しいメンバーの一人でありながら、十分に信頼関係を築かないうちに大きな地位についてしまった。ゲーム理論的に言っても、プレイヤ同士に信頼がないところでは協調関係は成り立ちにくく、目先の利益に振り回されてしまう。
日本に話を戻すと、鳩山新政権には党内外からさっそくこの公約を実現しろとか、この仕組みを変革してくれという要望が殺到するだろう。長期に渡って政党間の政権交代がほとんど起きなかった日本では、とにかく何であっても「政権交代によって何か変わった」という事実を残すことだけでも有益かもしれない。それが単なるクリントン的なトライアンギュレーション(人気取りのための中間的な路線)や、オバマ的な空回りに終わらないためには、どれだけ信頼関係のネットワークを展開できるかという点も重要になってくるのではないか。理念がなく議会対策だけがうまいクリントンも、理念先行で議会対策が甘いオバマも、モデルにはならない。
とは言っても突然いまから信頼関係を作れるものではないし、大量に入ってくる新人議員にそんな関係があることも期待できないから、もしかしたら無理な相談かもしれない。もし熟議が無理であるなら、オバマと同じような膠着状態に陥らないように、覚悟を決めて一気に民主党のアジェンダを行けるところまで推し進めてしまうのもいいかもしれない。失敗するなら失敗するで、次の選挙までに有権者が民主党を大勝させたことを深く反省できるような失敗をしなければいけない。(ということを、本当はオバマに言いたいんだが。)
【α-Synodos 第36号 (2009年9月1日配信) 掲載】

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