改革派と急進派の抗争@リバタリアン党全国大会

2008年5月23日 - 10:29 PM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

長く続いた民主党の大統領候補指名獲得競争も実質的に終わり(クリントンはまだ1ヶ月でも3ヶ月でも続けそうだけど)、民主・共和両党とも副大統領候補の選択が注目されている中、いま一番おもしろいのは今週末にコロラド州デンバーで開催中のリバタリアン党全国集会だ。というか、何より面白いのは、リバタリアンについて主要メディアがいかにテキトーな報道をしているかという点なんだけど。
一応解説しておくと、リバタリアンとは社会的・経済的の両側面において個人の生活への政府の関与を最小にとどめようとする政治的立場であり、そうした政治的立場を表明する政党としても存在する。治安維持や安全保障のための政府の役割は肯定するが、福祉国家による再分配政策にも宗教右派的なモラルの押し付けにも反対する立場。
ネオリベラリズムとどう違うのかと思う人もいるかもしれないけど、わたしの考えではリバタリアニズムはあくまで政府の干渉の外側に豊かな公共空間を期待する理想主義であるのに対し、ネオリベラリズムはあくまで個人主義あるいは核家族主義の枠を出ないシニシズムである点が違うように思う。もっと思想的にあるいは政治理論的に分析も可能なのだけれど、とりあえずの印象としてはそこが重要な違いじゃないかな。
で、党大会の話。主要メディア的にはリバタリアン党の有名人は二人いて、以前は共和党の下院議員をやっていたボブ・バーと、今回の大統領選挙でオバマやクリントンと民主党の指名を争ったマイク・グラベル元上院議員。両者ともリバタリアンの大統領候補として党指名獲得を目指しているのだけれど、とくにバーは数年前に共和党から移籍して以来リバタリアンとしてブッシュ政権における市民の自由への侵害を批判してきた実績があるので、主要メディアではほとんどバーが最有力候補で副大統領候補はグラベルか?、みたいな扱いを受けている。
でもバーはもともと保守政治家をやってきた人だから、同性愛や妊娠中絶の問題でリバタリアンの大多数とは違った意見の持ち主だし、共和党がバーを利用してリバタリアンを保守運動の側に取り込もうとしているのではないか、と疑っている人も多い。かれらはそもそも、政府の動きに神経質になる、被害妄想しやすい傾向の人だからこそリバタリアンになっているわけだし。
はっきりしているのは、要するに主要メディアはリバタリアンの指導者が誰だとか、リバタリアン党の中で誰が人気を得ているのかなんて全然分かっていないということ。まぁ、複雑な取り引きや駆け引きの結果、一番選挙慣れしているバーが大統領候補に選ばれる可能性もなくはないけど、少なくとも現時点で最有力候補ではないはず。
大統領候補指名とならぶ党大会のもう一つの目玉は、党政策綱領がどうなるかという点。前回2006年の党大会は大統領選挙の年でないため静かな大会になると思われていたのだけれど、リバタリアン改革派と名乗る一派閥が事前に綿密な準備と根回しによって政策綱領をそれまでの61項目から一気に15項目に縮小させることに成功した。
改革派の主張は、大きくわけて二つある。まず第一に、リバタリアン党は全てのリバタリアン市民が支持できるような「大きなテント」であるべきで、リバタリアン同士で意見が分かれるような論点については極力どちらか一方の立場を政策綱領に書き込むべきではない。これには、たとえば子どもの性的自己決定をどこまで認めるべきかという問題がある。
第二の主張は、伝統的に民主党や共和党を支持してきた人たちも味方に付けるために、現状からの急激な変革ではなく、漸進的に市民の自由を広げていく方針を掲げるべきだというもの。たとえばリバタリアンの多くは市民の相互扶助による弱者救済を信じているけれども、福祉制度をいきなり全廃してもそういった自律的な仕組みがすぐにとって代わることができるわけがない。政府から民間へと緩やかに役割を受け渡していくべきだと考える点が、この派閥の特徴だ。
こうした政策綱領の転換を「改革派による乗っ取り」と受け止めているのが、党内急進派のグループだ。かれらは、バーやグラベルによる「主要政党による乗っ取り」に抵抗すると同時に、改革派によって「乗っ取られた」政策綱領をもとのような包括的なものに戻すことも目標としている。
小政党では、党大会のたびに「誰が参加しているか」によって突然の変化や転換が起きることがめずらしくない。今回の党大会は来週の月曜日まで続くが、いまの段階ではまだ誰が大統領候補になるかも、どのような政策綱領が採択されるかも不透明だ。
もし主要メディアの言うようにバーが大統領候補となったら、マケインに不満を抱く人の多い共和党保守派の票が割れる可能性もあるので、主要メディアではその点ばかりが報道されているが、リバタリアン党内のさまざまな抗争もそれなりに面白いので、あと数日のあいだに何が起きるか注目していきたい。

One Response - “改革派と急進派の抗争@リバタリアン党全国大会”

  1. 田山 Says:

    とても興味ぶかいと思います。今私は,リバタリアンの論文を書いていてと、とても参考になりました。

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