米司法省「DV加害者プログラムは効かない」

2004年6月23日 - 6:54 PM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

ドメスティック・バイオレンス(DV)の加害者を対象に行われる更生プログラムに関して、DV産業(と自戒を込めて呼んでいる)現場で働いている人にとっては「全然効果ないでしょ」ってのが常識だったわけで、わたし自身方々でそう言い続けてきたのだけれど、このたびようやく米連邦司法省が行った2つの大規模な調査の結果をまとめた報告書でも同じ結論が認められた様子。

Batterer intervention programs do not change batterers’ attitudes and may have only minor effects on behavior, according to these studies. […] In New York, batterers in a 26-week program were less likely to reoffend than those in an 8-week program, but neither group showed any change in attitudes toward women or domestic violence.

加害者更生プログラムは女性やDVに関する加害者の態度を変える事はできないだけでなく、行動に対する影響も少ない、というのがこの報告書の結論。8週間のプログラムに比べると26週間のプログラムの方が再犯率は低くなるというけれど、この再犯率というのが曲者で、要するに逮捕されなければ再犯にはカウントされない。結局、プログラムを通じて「こういう行為(殴る、蹴るなど)をすれば捕まるのか」と学習した加害者は、逮捕される恐れの無い精神的・経済的な虐待に移行するだけというのが現場の経験。
わたしの経験で言うと、そもそも加害者更生プログラムに関わる人材が酷すぎる。考えてみると、普通のメンタリティの持ち主にとって加害者と正面から向き合っているのは辛いわけで、そういう仕事を進んでやりたいと思う人は少ないし、使命感を持ってやろうにも長続きさせるのは難しい。続くとしたら、ある程度鈍感な人か加害者に共感しやすい人しかいないわけで、そうした人がやるカウンセリングにあんまり効果がないのはある意味当たり前。社会から必要とされている仕事なのに、優秀な人材がその分野に進もうとする動機が今の社会ではないもの(さらに言うと、被害者支援の人材だって似た理由でダメなんだけど、それはまた別の機会で)。
以前、加害者カウンセリングをやっている人と知り合って、「本当にそれは効くのか」と聞いてみたところ、「確かにほとんど効果はないけれど、裁判所の命令でカウンセリングを受けさせてその実費を本人負担にすれば、金銭的な理由から多少はDVが減るのではないか」と答えていた。つまり、罰金程度の抑止効果しかないってカウンセラー本人が認めている。 だったら、何の意味もないカウンセラーにそのお金を与えるかわりに、被害者のための基金あたりに払わせて欲しいところ。
わたしの考えでは、裁判所による命令で刑罰の代わりにカウンセリングを受けさせたり、カウンセリングを受けることで刑罰が軽くなったりする慣例自体が加害者更生カウンセリングを腐らせていると思う。そもそもカウンセリングというのはカウンセラーの意志とクライアントの意志が合致してこそ効果があるはずで、本心から「変わりたい」と思っていない加害者を外から「変えよう」としたって効くわけがないじゃん。司法は司法で粛々と刑罰を執行して、カウンセリングはそれとは無関係に受けたい人だけが受けるようにすれば多少は効率が上がるはず。特にグループカウンセリングでは、中に1人でも「本当はカウンセリングなんて受けたくないけれど、仕方が無くやっている」人がいれば、真面目に加害者であることを止めたいと思っている他の参加者に大きな迷惑。
今回の話、半分以上は以前別のところで書いた文のリサイクルだったり…

3 Responses - “米司法省「DV加害者プログラムは効かない」”

  1. マツウラ Says:

    リサイクル大歓迎。書いてくださって本当にありがとう。まちゅかさんの文章をもとにみんなで勉強会したいくらいです。少なくとも私の身近なDV産業の方々はこんなことぜんっぜんしりませんから。たぶん身近な人以外もみんなしらないから。
    まちゅかさんの
    >続くとしたら、ある程度鈍感な人か加害者に共感しやすい人しかいないわけで、そうした人がやるカウンセリングにあんまり効果がないのはある意味当たり前
    っていうところはまじ名言です。そうか、そりゃそうだよねとぽんとひざをたたきました。またお願いします。DV関連のこと。

  2. Macska Says:

    コメントありがとうございます。
    DV関係の話は、また何かきっかけがあれば書いていきます。

  3. fa Says:

    なるほど、納得。貴重な情報ありがとうございました。

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