米国における障害者のためのパーソナル・ケア・アテンダント制度の問題点

2006年10月21日 - 12:27 PM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

前回に引き続き、過去にメーリングリストに流した文章の使い回しです。今回掲載するのは、米国の一部の州における障害者介護のためのパーソナル・ケア・アテンダント制度の現状について。アテンダントというのは障害者の身の回りの事を手伝う仕事をする人のことだが、バークレーで発足した自立生活センター (Center for Independent Living) からはじまった取り組みでは、政府から支給される資金を使ってサービスを受ける側のクライアントが自分に合ったアテンダントを選んで「雇う」ことができるという点が日本でも好意的に紹介されることがある。
しかし一方で、その利点が過大に解釈されて「アメリカにはこんなに素晴らしい制度がある」的に宣伝されることにも疑問を感じるので、わたしが身近で見聞きする問題点を挙げてみた。ただし、わたしはこの制度は基本的に良いと思っているので、その点は誤解のないように。日本での障害者自立のための取り組みへの参考とするのであれば、問題点も理解したうえでより優れた制度を作る方向に議論が進む事を望みます。
以下が本文。書いたのは2005年の5月でした。
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こんにちは。
米国のパーソナルアテンダント制度について、紹介された記事を読むと希望を感じるのはよく理解できるのですが、現実にはいろいろ問題が多い(特に精神障害・知能障害では)です。わたしが住んでいるのはオレゴン州なのでわたしが知るのはオレゴン州の制度だけですが、以下はわたしが見聞きした実例です:
・自分の望みの人を選んで雇うことができるといっても実際のところ当事者ではなく親や代理人が決定権を持っていることが多い。当事者が不満を表明しても、親とアテンダントが屈託して握りつぶす。重要な決定について、アテンダントが当事者とは相談せずに親と相談して結論だけ伝えるというケースも多い。
・アテンダントが障害者の生活を極端に管理している。例えば、自分が担当するクライアントが太っていると勝手に決めつけて、食べるものを完全に管理している例。あるいは、買い物のレシートを一々チェックしては1セントに至るまでクライアントの手持ちの現金を完全に管理する。これらのクライアントは、障害が理由で自分では食事管理や金銭管理ができないというわけではない。
・選挙の際、特定の候補に入れよとアテンダントに指示される。アテンダントが気に入らない候補に投票しないよう圧力を受ける。オレゴン州は郵便投票なので、署名だけ本人がすれば残りは他人が記入することも可能。
・古い新聞や雑誌を溜め込んでいて部屋を汚くしているクライアントに対し、勝手に部屋を掃除して邪魔と判断した物を捨て去った例。
・ある例では、アテンダントが金銭管理を引き受けておきながら、本来なら免除されているはずの公共料金を数年に渡って払い続けた結果、巨額の損害を出した。
・「役に立たない介助者をクビにできる」とは言っても、何度かそれを繰り返したらアテンダント派遣団体から「トラブル・ケース」と認識されてしまい、キャリアのある人は引き受けたがらないようになるので、次から次へと新人アテンダントを押し付けられる。そういうことの繰り返しで、最終的に「なんとか我慢できる相手」で我慢しているのが大半の当事者の実情。本当に気に入った相手に巡り会うことなんて滅多にない。
・労働条件が悪いため、アテンダントの回転が早い。そのため、仮に気に入った相手が見つかってもすぐに止めてしまうことが多く、一から新しい人を訓練し直さなければいけなくなる。
・クライアントがサービスを受けられるのは週に○時間という形で決められているけれど、少なくともポートランドでは実際にサービスを受けられるのはその1〜3割引きというのが業界標準。アテンダントは過剰にクライアントを抱えさせられているので、実のところそうしなければ絶対に仕事として続けられない。
・また、クライアントによっては外出や娯楽に使える予算も月に○ドルという形で公費で計上されているのだけれど、アテンダントが面倒だと思えば使われないまま放置される。その場合、使われなかったお金は繰り越されることはなく、州の財政に戻る。昨年、こうして障害者からかすめ取られたお金で、州政府の担当部門が新しいオフィスを建てた。
・お金のことについてついでに言うと、政府がアテンダント制度のために支出しているお金のうち、直接障害者の手元に入るか障害者に直接サービスするアテンダントの給料になるのは4分の1以下。残りは、ブローカーやアテンダントを派遣する団体の運営費に消えていく。
上から分かるとおり、特に精神障害や知能障害を持つ人にとっては現行のパーソナルケアアテンダント制度はこれまでの他の制度と同様の問題を抱えていますが、こうした問題の大部分は、アテンダントの労働条件が劣悪であることに関係しています。はっきり言ってアテンダントとして働いている人たちは、クライアントがサービスを受けるためにお金を払ったはずの時間を簒奪しなければまともな睡眠時間すら確保できません。
また、より社会的弱者である障害者の生活を管理することで、追いつめられたアテンダントが精神的な埋め合わせをしているという様子も良く分かります。労働条件を改善し、より有能な人材が介助の仕事を続けるインセンティヴを増やすとともに、当事者が選択権を行使するに足る市場競争を起こすことで改善できるんじゃないかと思いますが、現状では「自分でアテンダントを選べる」と言っても建前に過ぎません。
批判ばかりしても仕方がないので1つだけ良い話をして終わります。わたしの知るある軽度知能障害&身体障害のある女性は、アテンダント制度を利用してアテンダントと一緒に「男性ストリップショー」を観に行ったそうです。彼女自身の入場料は自己負担したけれど、アテンダントの人のための入場料は必要経費として公費から出ているはず。そういう話を聞くと、いろいろ問題はあるとはいえ、なるほど伝統的な介助制度に比べると一歩前進だなと思いました。

3 Responses - “米国における障害者のためのパーソナル・ケア・アテンダント制度の問題点”

  1. yuppy♪ Says:

    はじめまして、北海道教育大学で卒業論文研究を製作しております。女性障害者の性についてをテーマにしておりまして、こちらのブログを拝見させていただきました。
    >>彼女自身の入場料は自己負担したけれど、アテンダントの人のための入場料は必要経費として公費から出ているはず。
    上記の点について、公費から出ているということがわかる文献や何か資料などはございますのでしょうか。差し支えなければお教えお願いいたします。

  2. macska Says:

    > 公費から出ているということがわかる文献や何か資料
    書類はあるでしょうが、公開文書ではないと思います。
    ある一人のクライアントが自分にあてがわれたお金をどう使ったかという話ですから。

  3. misc. Says:

    あるパーソナル・アテンダント事情…
    オレゴン州のパーソナルアテンダント事情について書かれている記事があった。 →米国 (more…)

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