ミーガン法にトドメをさす

12/20/2004 - 6:31 pm | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

これだから、もうフェミって嫌。何が嫌って、某フェミ系メーリングリスト上の議論で小児性愛の社会的扱いについてわたしと意見を対立させている人が、わたしがその ML に投稿した記事をここのサイトに転載しているのを見つけたらしくて、「ML の内容が無断転載されている」「倫理的にもとる」って大騒ぎしてるの。アホらし。確かに先にわたしが掲載した記事には他人の発言も引用されてるけど、それは引用って言うんであって無断転載とは言わないの。公の問題を議論するために公に公開されたメーリングリストの内容を、そのメーリングリストの外で議論したからといってどこが悪いわけ? むしろ、そうやって議論の輪がどんどん広まって行くことは歓迎するべきでしょ。もちろん、他者の発言の趣旨を曲げるような形で引用したりするのはフェアじゃないけど、今回の場合そういう問題でもないし。

それはとにかく、ミーガン法について、さらに資料を紹介しようと思う。まず一番大切なのは、ミーガン法は果たして有効なのかというポイント。というのも、米国でも他の国でも、ミーガン法的なものは少数の悲惨な事件に対する感情的な反発として成立しているわけで、具体的にその効果を調査した研究は少ないのね。で、いろいろ探しまわってやっと見つけた有効性の検証は、ワシントン州の Institute for Public Policy がまとめた1995年の報告書 (Schram D, Milloy C. 1995. Community notification: a study of offender characteristics and recidivism. Olympia, WA: Washington State Institute for Public Policy.)及びそのアップデート版 (Matson S, Lieb R. 1997. Megan’s law: a review of state and federal legislation. Olympia, WA: Washington State Institute for Public Policy.) だ。

ワシントン州はミーガン法という言葉が出来るよりずっと前の1989年に全米に先駆けて「特に危険の高い性犯罪者」についての情報の一般告知をはじめているけれど、この調査では一般告知開始後に釈放された(つまり、情報が告知されている)元受刑者のグループと、一般告知が開始される前に釈放された元受刑者のうち彼らと同程度の罪をおかした人たちのグループを比較して、それぞれ出所後54ヶ月のうちに再犯する確率を調べた。結果は、情報告知開始後の方が「やや再犯率が低い」ように見えるものの、統計学的に有意な差は認められなかったという。つまり、ミーガン法によって性犯罪者の再犯率が減るという効果はこの調査からは認められなかった。

面白いことに、再犯率に違いは見られなかったとはいえ、1つだけ両グループには違いがあったとこの報告書は記録している。それは、再犯に至るまでの潜伏期間の違いで、一般告知開始後の方が「より早いうちに」再犯していることが分かった。この報告だけではその理由までは分からないけれど、もともと意志が弱くて再犯の危険が高い人が、一般告知によって精神的に追い込まれて犯行に走ったという説明が取りあえず合理的だと思う。

一方、ミーガン法によって起こされる弊害について詳しく論じているのが、Safer Society Foundation(「より安全な社会」協会)という非営利団体のメンバーでもある Robert Freeman-Longo という研究者だ。Freeman-Longo は1996年に「ミーガン法が間違っている24の理由」を説明した Freeman-Longo. 1996. “Feel good legislation: prevention or calamity.” Child Abuse & Neglect 20(2):95-101. を発表しているが、それをアップデートした形の Revisiting Megan’s Law and Sex Offender Registration: Prevention or Problem という論文を American Probation and Parole Association のウェブサイトに寄稿している。全部とは言わないが、重要そうな問題点を以下に紹介する。論文自体には、具体的なケースがたくさん掲載されている。

【有効性が証明されていない】上記の通り。実際に性犯罪者が逮捕された時、やっぱり周囲は「そんな人とは知らなかった」というのが普通。

【被害者が通報しなくなる】家族内のレイプやインセストの場合、一般告知によって家族全体が苦しむことをおそれて被害者が通報を避けるようになる。あるいは、通報するなという家族内のプレッシャーが強まる。

【経済的格差によるしわ寄せ】情報を調べて反対運動を起こすことのできる比較的裕福なコミュニティだけ安全になるが、結果的に貧しいコミュニティに多数の元受刑者を集中して住ませることになる。

【予算が配分されていない】これは大きな問題で、元受刑者が自宅の住所を登録したところで、それが本当にその本人の住所なのか確認するだけの予算すらない。つまり、嘘の住所を記述した場合、元受刑者本人はスティグマを逃れられるが、全くの他人が「性犯罪者」と決めつけられる危険がある。調査によると、正確な住所を登録している元受刑者は8割に満たない。

【付近住民による暴力】これによって犠牲になるのは元受刑者本人だけでなく、その家族や友人や隣人であったり(放火事件が多い)、あるいは元受刑者によって不正に住所を登録されてしまった赤の他人の場合も多数報告されている。

【被害者についての情報が流れる】特に身内の子どもに対する虐待だった場合など、罪名とともに氏名と住所が告知されれば被害者のプライバシーも侵害される。

【住居や職を奪われる】本来、コミュニティ内にいる元受刑者とどう共存するかという問題であるはずだが、自分たちのコミュニティから出て行けという方向に世論は傾きがち。これにより、真っ当に社会復帰する機会が失われ、最悪の場合自殺に追い込まれる。あるいは、一生名前を変えながら逃げ続けることになる。

【学校における告知の問題】地域に危険な人がいるとして学校で告知するとき、その元受刑者の子どもや親族も学校に通っている場合がある。そうした場合、子どもがいじめにあったりして学校にいられなくなる。

【コスト分配が非効率的】一般的に、問題が起きる前に予防するプログラムに出資するほうが、問題が起きた後に処罰や監視するよりずっとコストが安くつく。ミーガン法は後回りの施策であり、同じ資金を別のプログラムに回した方がより効率的に性犯罪を防ぐことができる可能性が高い。

【誰が危険度を判断するのか?】どの程度の範囲に情報を告知するか決定するために元受刑者の危険度がランク付けされるが、そのランク付けが必ずしも医学的な根拠に基づいていない。黒人や精神障害者への差別的なランク付けが問題視される。

【実際の危険度を過大評価】近所に元受刑者が住んでいると知ると、実際に過去に問題が起きていなくても住民が不安になってしまう。そのため不動産の価格が下がるなどの経済的被害も有り得る。

【偽の安全】嘘の住所を登録する元受刑者が多いというのに、近所に登録された性犯罪者がいないからと安心するのはかえって危険。また、家族や教師といった身近な人が一番虐待の危険が高いという事実を忘れがちになる。

【容疑者による否認が増える】一般的に、性犯罪の立証は他の犯罪に比べて難しい場合が多い。性犯罪の経歴は他の犯罪より強力に一生ついてまわると認識されれば、容疑者が罪を否認する可能性が上昇する。

【本来の意図とは違った方向に運用されている】ミーガン法は特に悲惨なレイプ殺人や幼児虐待をきっかけに提案されたはずだが、登録されている性犯罪者のうちそうしたサディスティックな犯罪をおかした人は3%でしかない。また、他の犯罪にまでミーガン法的な監視体制を拡大しようとする動きもあり、まず売買春で逮捕された人の情報を公開する制度が広まっている。

結論。ミーガン法は悲惨な事件に対して起きる社会的ヒステリアの産物であり、性犯罪を減らすための真面目な政策ではありえない。そもそも有効性が確認されていないばかりか、弊害ばかりたくさん報告されている。犯罪者をバッシングしてストレスなり不全感を解消するのは構わないが、それはあくまで言論というかワイドショー的な世界でやるべきで、実際の社会政策は社会科学的な裏付けを取りながら慎重に立てて行く必要がある。それでもミーガン法をと言うならば、まずミーガン法がどのように犯罪を抑制するのか説明する義務があるし、その上で上記のような弊害を最小限に防ぐための施策もセットで提案するべきだ。

6 Responses - “ミーガン法にトドメをさす”

  1. えむ Says:

    fem-generalから来ました。フリーマン−ロンゴの説を信頼するなら、ミーガン法は実効少なく弊害のみ多いみたいですね。ところで、「これだから、もうフェミって嫌。」ってのは、不適切な一般化でしょう。—気持ちは分りますけど。

  2. Macska Says:

    コメントありがとうございますー。

    で、「もうフェミって嫌」とゆーのは、例の人はこのページ読んでるみたいだからもう一度釣れないかなぁと思って書いてみたんですが、やっぱり釣れませんでした(笑) わたしが思ったほどバカじゃなかったという事かな。

    ま、確かに一般的には不適切に見える発言ですが、ここを見ている人はわたし自身がフェミにどっぷり浸かってしまった人だと分かっているはずなので、大目に見てください。

  3. 試行錯誤の日常-trial and error- Says:

    [Thinking] 優先事項(2)。
     同じく奈良の事件について、警察庁の漆間巌長官が「性犯罪前歴者の居住地を警察が把握できる制度」の導入を検討していることを示唆したそうな(残念ながらまだ警察庁のサイトには情報があがっていないようです)。性犯罪は他の犯罪と比べて再犯率が高いというのが前提の…

  4. jam Says:

    「24の理由」の中にも載っていることかもしれませんが、この法の弊害として、シャバでの生活が刑を終えて出所した者にとって居心地が悪くなる、ってことがありますよね。居心地悪くて自殺してくれるだけなら社会のコストは少なめだけど、彼らが「やっぱムショの中のほうがいいな」って思ったりしたら、ムショに戻るためにまた同じことを繰り返すかもしれない。

  5. 電脳プリオンのウェブログ Says:

    性犯罪対策はミーガン法より厳罰化
    奈良の女児誘拐殺人事件で性犯罪対策としてミーガン法が主張されたりするが、
    そもそも性犯罪に限らず、凶悪犯は社会復帰させるべきではないと思うので、
    釈放後に監視するよりも…

  6. No words, No life. Says:

    ミーガン法を知っていますか?
    ・このblogを読んでいらっしゃる方は、とある事情から小さいお子様をお持ちの方が比較的多い(はず)なんで、今回の話はひょっとしたら「お前、何、甘いこと言ってんだ」と言われる…