同性婚バックラッシュ/民主党内革命の希望

11/23/2004 - 11:16 am | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

今月2日の大統領選挙からもう3週間になる。大統領・上院・下院・州知事の全ての選挙で共和党が勝利したばかりか11州で同性婚禁止の憲法修正案が成立するなどあまりに悲惨な結果を受けて落ち込んでいたわけではないけれど、LGBT系コンファレンスに参加するため旅行したり久しぶりにポートランドを訪れた友人をもてなしたりしているうちにしばらく時間が取れなかった。あれだけケリーを応援してきた以上は何か書かないといけないなと思いつつ、今さら何だという感じもするけれど、コンファレンスの話も絡めて、取りあえず何か書いておこうと思う。

ケリーが敗北を受け入れてしばらくしても、いまだに「前回に続いて今回もブッシュが不正に選挙結果を操作した」と主張する人がわたしの周囲には多い。例えば今回の選挙を決したとされるオハイオ州の民主党が強い地域でこんなにもたくさんの無効票が出ていて不自然だとか、フロリダ州では特定の電子投票機を採用した地域において出口調査と比べて不自然にブッシュの得票が多いとか、そういう話。もしかしたらそれは真実なのかも知れないけれど、究明しようがない。わたし自身、以前「自分はブッシュを大統領とは認めない」という意味の事を書いたことがあるけれど、いくら「ブッシュが選挙で不正を働いた」「ブッシュは正統な大統領ではない」といくら騒いでも何の意味もないことは過去4年間で証明されている。選挙結果に疑惑は感じるけれども、「ブッシュの当選は間違いだ」と主張することに固執するよりは、良心的な共和党支持者たちにも「あなたたちだって、せっかく当選させた大統領の正統性が疑われるのは嫌だろう」と呼びかけて、次回の選挙までに有権者が信頼できるような選挙制度改革を進める方向にエネルギーを使いたい。

ニュースを見ていると、今回の選挙で決め手となったのは「道徳」だったと言われている。道徳問題と言えば「同性愛者の権利」の他にも「妊娠中絶」だとか「ES細胞研究」なども挙げられているけれど、中絶絶対反対を主張する人はそれほど多くないし、ES細胞研究に至っては共和党支持者も含めた大多数が支持しているくらいなので、ここで「道徳」というのはすなわち「同性愛」の問題に決まっている。さらに言うと、表立って同性愛者に対する差別を肯定する人だって実はそんなに多くないわけで、同性愛者の権利一般について票が大きく動くという事は有り得ない。もし多くの票が動いたとするならば、これまで「道徳」を投票の動機にしてこなかったような「中間派」の有権者が、今回の選挙に限って「同性結婚」に対する候補者の立場を重視してブッシュ大統領の側に流れたという事だろう。

ここ数年のあいだ一般支持者から激しく乖離していた民主党全国委員会はともかくとして、ケリーを支持する側の草の根運動も間違ってはいなかった。これまで投票に行かなかった若い人が大挙して有権者登録を行い投票に行ったのは事実だし、それぞれ得意分野を持った労組・市民権団体・環境団体・インターネット上のリベラル活動家団体などによる連携は、前回紹介した通り、これまでなかった程うまく噛み合っていた。選挙の終盤、新たな有権者の発掘に賭けたケリーの側の戦略とは対照的に、共和党は伝統的な支持層からの取りこぼしを防ぐ戦略を取り、結果的には残念ながら後者の方がうまくいったのだけれど、将来に希望の持てる敗北だったと思う。ただし、今回実現したリベラル陣営の大連合が今後崩壊しなければ、の話だけれど。

リベラル大連合の今後にとって重要なのは、「道徳」問題に民主党がどう対処するかという問題だ。民主党内の一部では既に「同性婚のせいでケリーは負けたんだ、もう同性愛活動家とは一緒にやっていけない」という具合に同性婚に対するバックラッシュが起きているが、もし民主党全国委員会が「道徳」において共和党に擦り寄るような路線を採用するようなことがあれば、リベラル大連合は瓦解するだろう(そして、それを承知の上で、外部の市民団体からリベラル陣営の主導権を奪い返すためにそういう路線を取りかねないくらい、民主党全国委員会は腐っている)。

民主党が取り得る、より望ましい選択肢は、「道徳」問題を再定義することだと言われている。選挙戦を振り返ると、ケリー議員はあらゆる課題について「より優れた政策」を主張し続けてきたが、「道徳」は主張しなかった。だから、テロとの闘いは正義である、という単純な「道徳」を振り回すブッシュ大統領と比べて、ケリーは優等生的な答えをするばかりで言うことに信念が感じられないというイメージが出来てしまった。「イラクが大量破壊兵器を保有しており、アルカイダと協力関係にある」と国民を騙して侵略戦争を始めることや、将来の世代に大きな負担をかけてまで金持ち優遇の減税をすることを「誤った政策」として批判するだけでなく、「道徳的な過ち」としてもっとケリーは批判すべきだった、という反省がよく聞かれる。わたしは政治家は道徳ではなく政策を語るべきだと思っているのでこうした主張に必ずしも同意しないけれど、確かにケリーは世論の受けを追い求めすぎて自らの信念を語っていないという印象はあったように思う。

同性婚の問題だってそうだった。公の場で「同性婚には反対、ただし同性婚禁止の憲法修正にも反対」と主張していたケリーが、本心では同性愛者の味方であることは彼の実績からも明らかだし、知り合いのロビイストから聞いた話でも彼の「同性婚反対」は本音でないと感じている。でも、「シビル・ユニオンなら良いけれど、同性婚には反対」というのが世論の大半だから、当選するためには本音は言えない。と同時に、同性愛者団体やそのシンパの支持も失いたくないから中途半端なスタンスになる。その結果、ケリーも負け、同性婚も否定されるという結末になったのだ。

考えてみて欲しい。ここオレゴン州では、ケリーの得票率は55%程度であり、同性婚禁止に賛成したのも約55%。つまり、有権者の10%程度の人が「大統領にはケリー、同性婚には反対」という立場を示したわけだ。もしケリーはじめ民主党の政治家が一時的なバックラッシュを恐れずに信念を持って「同性婚は認めるべきだ、何故なら〜というわけだ」と主張していれば、この10%のうちのいくらかは同性婚に賛成の票を入れたはずだろう。他の州はともかく、オレゴンでは同性婚禁止は否決するチャンスがあったはずなのに、ケリーはじめ民主党の政治家が信念を語らないから可決されてしまったのだと思う。

同性婚へのバックラッシュと言えば、ミズーリ州セントルイスで参加したLGBT系コンファレンス「Creating Change」では、別の方向からの「同性婚」路線への批判が噴出していた。すなわち、前回のコンファレンスが行われた昨年11月以来、セクシュアル・マイノリティの運動の中で「同性婚」だけが中心的な地位を占めてしまい、全ての人的・経済的リソースがその問題だけに集中されてしまったことへの批判である。

同性婚第一主義の一番の犠牲となったのは、まずトランスジェンダーの人たちの権利だ。例えば、2003年はトランスジェンダーの運動にとって最も収穫のあった一年間であり、その年だけでトランスジェンダーへの差別を禁止する条例のある街や州は倍増したのに、2004年の一年間では微増しただけに終わった。LGBT団体が同性婚に集中するあまりトランスジェンダーの権利を軽視しただけでなく、同性婚論争があまりに高まってしまったために反対派を刺激することを恐れた政治家がセクシュアル・マイノリティの問題に関わることを避けたのだ。

あるいは、80年代から90年代にかけてあれだけの犠牲を出しながらLGBT活動家が勝ち取ったはずのHIV/エイズ対策がブッシュ政権の元で大幅に後退しているのに、それに対してLGBT団体は何ら有効な対策を取れていない。これでまた、どれだけの若いクィア(だけでなく、異性愛者だってそうだけど、プログラムの削減は特にクィア関係に多い)たちが殺されることになるのか、想像も付かない。既に勝ったはずの闘いを後から取り消されているようなものだ。

「レズビアンとHIV」「クィアの老後」といった問題で中心的な役割を果たしていて、わたしの大好きな活動家の一人でもあるアンバー・ホリバー氏は、クィアたちは老後一人暮らしをする確率がその他の人と比べて圧倒的に高いという統計を挙げ、老後の安心のために「同性婚」を推進するような戦略は、ほとんどのクィアたちにとって役に立たないと指摘していた。同性婚は結構だが、同性婚を実現するためにそれ以外の全てを犠牲にしてもいいだなんて決定に同意した覚えはないはずだ、と指摘していたのはトランスジェンダー活動家のマラ・キースリング氏だが、まったくその通りだ。

トランスジェンダーの話と言えば、先週末にはヘイト・クライムの犠牲となって死亡したトランスジェンダーの人たちを追悼する毎年恒例のイベント、Day of Remembrance に参加してきた。報道されたケースだけでも毎月1〜2人は殺されており、その殺害方法も20発以上の弾丸を撃ち込まれたり性器や胸を切り刻まれたりと、その過剰さからトランスジェンダーへの憎悪の激しさ(それは、おそらく犯人自身の男性性への不安の裏返しなのだろうけれど)を感じる。

とはいえ、このイベント、どうも納得できない点が多いのだ。これだけの人たちが「トランスジェンダーであるというだけの理由で」殺された、と言うが、読み上げられる名前を聞いていると半数以上がラティーノ/ラティーナであったり、アフリカ風であったりする。実際彼らの殺された状況を調べてみると、大半の犠牲者は黒人・ラティーノ・ネイティヴアメリカンなど人種的少数者であり、MTFの若い女性たちであり、ホームレスの人や売春していた人が多い。かれらは「トランスジェンダーであるというだけの理由で」殺されたのではなく、「トランスジェンダーであり」「人種的少数者であり」「貧しかったりホームレスであり」「若い女性であり」「売春者であった」からこそ殺されたのだ。

だいたい、トランスジェンダーの運動の中で、トランスジェンダーの人種的少数者やホームレスや売春者たちがどれだけの発言権を与えられているというのだろうか? たまに彼らがメディアで取り上げられたりすると、「トランスジェンダーに悪いイメージを持たれる」とかいって抗議するような白人・中流階級のトランスジェンダー活動家だっているくらいだ。結局、人種的少数者やホームレスや売春者のトランスジェンダーたちは、彼らメインストリームのトランスジェンダー活動家や団体にとって邪魔でしかないわけで、ヘイト・クライムの被害者となってはじめて利用価値のある「名前」として認知されているのだ。彼らの死が「トランスジェンダーであるというだけの理由」として利用されている限り、そうしたパターンは変わらない。

もし、このイベントが「トランスジェンダーが殺される、たくさんの理由」をきちんと認めるものになったらどうだろう。ヘイト・クライムによって犠牲になるトランスジェンダーよりも、医療が受けられないなど貧困が理由で犠牲になるトランスジェンダーの方がはるかに多いと気付いたら、トランスジェンダーの運動はもっと違ったものにならないだろうか? 生き延びるために売春や麻薬に関わって感染症で殺されるトランスジェンダーたちや、刑務所内で殺されるトランスジェンダーたちや、あるいはそういう世の中に絶望して自殺するトランスジェンダーたちだって、ヘイト・クライムによって殺されたトランスジェンダーたちと同じくらい重要ではないのだろうか?

話がどんどん逸れてしまったので最後に政治の話に戻すと、今後4年間の米政治の方向を占うポイントをいくつか指摘しておく。

まず第一に、新たな民主党全国委員長の選出が非常に重要だ。今回の選挙におけるリベラル陣営の一番の収穫は、旧態依然とした民主党全国委員会を蚊帳の外に置いたまま、党の外側に強力な労組と市民団体のリベラル連合を作り上げたことだと思っているが、今後民主党がどのようにそれらと連携するかというのが重要になる。噂では、今回活躍した市民団体から新たな民主党全国委員長が抜擢される可能性もあるらしく、それが実現すると事実上民主党内部の革命と言っても良い快挙である。トップダウンの司令部としてでなく、緩やかなリベラル連合の一員として民主党全国委員会が対等に参加できるようになれば、4年後に非常に期待が持てる。

第二のポイントは、共和党内部の内紛問題だ。具体的には、上院司法委員会において超保守派のオリン・ハッチ議員(宗教右派が強いユタ州出身)が委員長を降りることになっており、順当に行けば中道派のアーレン・スペクター議員(ペンシルヴァニア州出身)が次期委員長の座に付くはずだが、スペクター議員は妊娠中絶や同性愛者の権利に寛容なため(というのが口実だが、彼がユダヤ人である事も理由の1つだろう)宗教右派から猛烈な反発が起きている。通常、委員長ポストは多数派政党内で年功序列で決められているのだけれど、司法委員会と言えば最高裁判事の承認にも関わるため、確実に保守的な判事を任命させたい宗教右派勢力としては、妊娠中絶容認のスペクター議員には任せられない。ブッシュを勝たせたのは自分たちの手柄なのだから、見返りにスペクター議員の委員長就任を潰せとかれらは主張している。

一方、スペクター議員はじめ共和党内の中道派にとっては、この件にどう決着が付くかによっては共和党内に留まることの意義にも関わる問題だ。かれらは、過去4年間のあいだの宗教右派路線はあくまで共和党政治における一時的な異常だと思っていたはずだが、今後もずっとその路線が続き、年功序列で与えられるはずの地位すら貰えないのであれば、いい加減共和党を離党した方が良いのではないかと考えるだろう。もし、スペクター議員が同僚2人を引き連れて離党し、民主党と連携することになれば、上院では民主党(プラス無所属)が多数派となり、見返りに民主党はスペクター議員に司法委員長の座に与えるはずだ。党への固執とポストへの固執のどちらが上回るか、あるいはそこまでの踏ん切りが付くかどうか、注目に値する。

最後に、これも同じ理由で、ブッシュが近く空席が生まれると思われる最高裁にどういう判事を指名するかが注目される。彼の本心から言えば、宗教右派ベッタリの超保守派判事を任命したいところだろうが、上で述べた通りあまりに宗教右派路線を押し進めれば共和党中道派が離党する危険もある。上院の多数派を民主党に奪われるようなことがあれば、最高裁判事指名だけでなく今後提出する法案の全てにおいて民主党との妥協を迫られることになるので、ギリギリで中道派が納得できる判事を選ぶのではないか。しかし、そうすると今度は宗教右派勢力が黙ってはいない。

民主党の側がリベラル連合を中心に団結してカムバックに備えつつある一方、共和党は選挙に勝利することでさらに宗教右派勢力に手が付けられなくなり、それに反発する中道派が党から分離する危機を迎えている。今回の選挙結果は残念だったし、しばらくは宗教右派の横暴が続きそうだけれど、今後の情勢にはささやかな希望を感じている。

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