インターセックス@米国小児科学会レポート #3:おバカさんな泌尿器科医の発表

10/18/2004 - 2:54 pm | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

レポート第3回は、小児泌尿器科部会初日午後に行われたポスターセッションについて。普通のコンファレンスだとポスターセッションというのは、発表者が壇上に立つ代わりに自分の研究の重要な部分について書かれたポスターを貼り出してその前に立ち、ポスターを見た参加者の質問に答えるという形式のことなんだけれど、このコンファレンスはどこか違う。ポスターは貼り出されているけれど、発表者はそこにいない… というか、何故か壇上で何やら発表している。普通の発表にポスター展示を追加したような形式でやっているようだ。今回レポートしたいのは、そのポスターセッションにおいて、いかにバカな発表がなされたかという話。

OUTCOME AMONG ADULT MALES DIAGNOSED BEFORE PUBERTY WITH MICROPENIS.
P.A. Lee, C.P. Houk. Pediatrics, Penn State College of Medicine, Hershey, PA

この Peter Lee という医者とは以前インターセックス医療をめぐって公開討論したことがあるのだけれど、今回のコンファレンスで見かけたら向こうから「やあ、覚えている?」って寄ってきたうえに、他のお医者さんにまで紹介してくれた。インターセックス医療についてはもともと保守派(外科手術による身体改造支持)だったんだけど、ここ数年かなり改革派に歩み寄っている人で、かつての公開討論でわたしが少しは影響を及ぼしたのだとしたら嬉しい。

この研究も、結論だけを見ると改革派にとってかなり都合がいい内容。ちょっと前まで、ペニスがかなり小さい症状(マイクロペニス)の男の子が生まれたとき、「こんな小さなペニスではかわいそう」とばかりに手術で「女の子」に作り替えて女性として育てるという方針がスタンダードだったのだけれど、中には男のまま育てられた人も少数いて、そういう人たちが大人になってどうしているかというのを調べたのがこの調査。

それによると、マイクロペニスであるかどうかに関わらず多くの男性は「自分のペニスは小さ過ぎる」と思っているらしく(笑)、マイクロペニスだからといって余計に苦しんでいるというわけではない様子。さらに、性的な経験が少なかったり、同性愛になる確率が高かったりすることもなく、ごく平均的な男性としてフツーに暮らしているというのがこの研究の結論。だったら、手術で無理矢理「女の子」にする必要はないじゃないかということで、手術に批判的な立場に立つわたしとしては、この研究は歓迎したいところ。

そう大々的に宣伝したいところなんだけれど、困った事にこの調査の手法には大きな問題がある。この調査では研究対象である12人のマイクロペニスを持つ男性(年齢18〜28歳)と、同じ年齢層の「普通の男性」12人を比べているのだけれど、後者のグループを選ぶにあたって年齢をマッチさせた以外に何も注意を払っていないので、どの12人が選ばれたかによって結論が全然違ってしまう。人数が多ければある程度統計学的な手法で偶発的な偏りを補正できるけれど、たった12人の男性に「普通の男性」を代表させてしまうのは非常に問題がありそうだ。

案の定、よく研究報告を読んでみると18〜28歳という年齢の12人の「普通の男性」のうち、なんと5人しか性体験がないと書かれている。過半数の7人もが童貞だったということ。年齢から考えて、どう見ても平均的な「普通の男性」のサンプルではなく、偏っている。それに気付いた参加者の一人が「こんな偏ったサンプル、どこから取ってきたんだ?」と聞いたところ、発表者はしぶしぶサンプルが「男子学生」であり、しかもその学生たちは「保守的なキリスト教系の大学に通っている」人たちだと認めた。

さまざまな研究において、標準的なサンプルの代わりに研究者の目の前にいる学生を対象に研究するのは良くある事だが、性に関する問題について、「結婚するまでセックスしてはいけない」と教えるような学校の学生をサンプルとしてしまうのは乱暴過ぎる。「マイクロペニスの男性」について研究するはずが、結果的に「保守派キリスト教系の学校の学生」について調査してしまっては意味がない。せっかく結論は良い事言っているのに、これじゃ参考にならないじゃないのー。

IS THE INCIDENCE OF CONGENITAL PENILE ANOMALIES INCREASING?
C.P. Nelson, J.M. Park, J. Wan, D.A. Bloom, J.T. Wei. Urology, University of Michigan, Ann Arbor, MI

上の研究に輪をかけておバカさんな発表。というか、正しく解釈すれば画期的な発表だと思うのだけれど、解釈できてないところがおバカさんなのね。

この研究では、「ペニスの異常は増えているのか?」という問題について調査するためにさまざまな資料にあたっているのだけれど、その途中経過で見つかった事実が面白い。ペニスの異常というのは、約7割までが尿道下裂であり、残り3割が他のさまざまな状態なのだけれど、「ペニスの異常」の発生率と一番関係があるのが、「医療保険の有無」だった(笑) 他に発生率と強く関連づけられる要素には、「収入が多いこと」「白人であること」「東部に住んでいること」などが挙げられている。

これは、どういう事か? 普通に考えれば分かることだが、ここで問題となっているのは「ペニスの異常の発生率」そのものではなく、「ペニスが異常であると診断される確率」であるはず。要するに、患者に保険があったり収入が多かったりして医療代金を払える場合、特に異常と診断する必要がないケースでも無理矢理「異常」とされて医療サービスを受ける一方、貧しかったり保険のない患者は治療を受けていない、という現状が浮き彫りにされる。これは、貧富の差や米国の保険行政の失敗が医療にどれだけ大きな影響を与えているかという事実を示す、画期的な発見だと思わない?

でも、この研究者たちはそうは考えず、中流家庭と貧困家庭のあいだで事実として「ペニスの異常の発生率」が違うと本気で思っているのです。バカみたいでしょ? そう彼らが考えているのは、やっぱり泌尿器科の専門医として毎日仕事をするうちに、どんな現象を見ても泌尿器科の内側で理解するようになってしまったからじゃないかなぁと思います。

インターセックスの医療についても似たようなことがあって、泌尿器科のお医者さん大勢に囲まれてはじめて実感したことなんだけれど、わたしたちが「医学的に不必要な形成手術はやめて、インターセックスの子どもとその親にカウンセリングや自助グループを提供せよ」と要求すると、泌尿器科の医者はまるで「お前達は役立たずだ」と言われたかのような無力感を感じるんじゃないかと思う。だからこそ、「これまでの結果を見る限り、形成手術は被害の方が大きかった」という事実を受け入れた泌尿器科医は、「だから今後は手術をやめよう」ではなく、「もっと優れた手術技術を確立しよう」という方向に考えが進むんじゃないかな。

つまり、彼らは本当にバカなんじゃなくて、専門バカ。専門家として毎日仕事をした結果、一般の人にとって明白なことがよく分からなくなってしまったという感じ。ということは、インターセックスの問題にとどまらず、医療全体においてより様々な専門の医者同士がコミュニケーションするような状態を作ることが必要だよね、という話を、サンフランシスコからの帰りの長距離バスで隣合わせになったイギリス人医学生と一緒に話しました(笑)

2-STAGE STAGE REPAIR IN INFANCY FOR SEVERE HYPOSPADIAS WITH CHORDEE: LONG TERM RESULTS AFTER PUBERTY.
P.N. Lam, P. Williot, S.P. Greenfield. Pediatric Urology, Childrens Hospital of Buffalo, Buffalo, NY

この発表はバカではない。尿道下裂の比較的新しい手術テクニックについて、こんなに素晴らしいんだと主張する内容だけれど、調査内容に性的な感覚など重要な項目が含まれておらず不満が残る。でも、わたしが紹介したいのはそんな事じゃない。

この発表者は、自分たちのテクニックはこんなに素晴らしいんだと数字を挙げて主張していたのだけれど、その中で「わたしたちが調査した患者の100%が射精できます…ただし、そのうち38%は****しなくちゃいけなかったけどね」というのがあって、注目したいのはその「****」の部分。日本語で何と書いて良いのか分からないけれど、英語だと「38% of our patients had to milk their ejaculation」。射精を「ミルクする」ってそれどういう意味じゃーっ! 「ミルク」を動詞で使う場合、例えば乳牛の乳房を絞って牛乳を出すといった意味だけど、それを射精に適応したシーンを頭の中で想像して「げげげげげ〜っ」と感じてしまいました。「手を使って出す」とでも何とでも言い換えできそうなものなのに、あえて「ミルク」という単語を使った発表者の表現力の豊かさに感動せざるをえません(笑)

と、気持ち悪くなったところで第4回に続く。

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