「慰安婦」否定論・ホロコースト否定論と、しょーもない現実改竄/家族の絆を守る会&日本近現代史研究会・細谷清氏へのお応え

2016年4月8日 - 9:24 PM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

先日、ニューヨークで開催された国連女性の地位位委員会に関連して開かれたNGOフォーラムで、歴史の真実を求める世界連合(GAHT)代表の目良浩一さん、元衆議院議員の杉田水脈さん、家族の絆を守る会(FAVS)と日本近現代史研究会の細谷清さんが「慰安婦」否定論を宣伝するパネルを開催した。わたしは現地にてパネルに参加した仲間から録音をその日のうちに入手して、その内容をツイッターで紹介したのだが、その内容について発表者の一人である細谷清さんからブログにおいての「反論」があったので、今回はそれにお応えする。

この数年間、米国に進出してきた「慰安婦」否定論者についての記事を自分のブログやその他の媒体に書いてきたけれども、それに対する否定派からのリアクションは、セクシズム(外見やセクシュアリティに対する攻撃)やレイシズム(なんの根拠もなくわたしを韓国人や中国人だと決めつけ攻撃)を丸出しにした人格攻撃・個人攻撃がほとんどだったのに対し、細谷さんは初めて議論の内容についてきちんと反論をしてきた。この点については、細谷さんに感謝したい。もっとも議論に対して議論で応えるというのは当たり前のことであり、そんな当たり前のことをしただけでこちらが感謝したくなるほど、細谷さんのお仲間の言動はこれまで酷かったという意味でもある。

細谷さんのブログ記事「「慰安婦問題」の解決、コヤマエミ氏への反論」の前半分は「慰安婦」問題についての細谷さんの持論が述べられている部分なので、とりあえず飛ばす。ちなみに、わたし自身のこの問題についての基本的な認識は既に過去エントリに書いているのでそちらを参照していただきたい。

では本題の「反論」について。細谷氏による「反論」は、丸数字で①②③に分けられており、その後に(丸数字でない)小見出しの数字で4が出てくるが、小見出しの3は存在しないので、丸数字の④の間違いではないかと思う。4点に渡る「反論」とみなし、順に返答していこう。まずはその①から。

①先ずコヤマ氏のツイッターのタイトルからして間違っています。

「慰安婦否定論者」と断じていますが、正しくは「慰安婦=性奴隷 否定論者」です。言葉は正しく使って欲しいです。頭っから間違った概念で論を展開するのですから、以後めちゃくちゃです。

結論から言うと、言葉も概念も間違ってはいない。「慰安婦否定論」という言葉は、定義が定着している「ホロコースト否定論」という言葉を元とした言葉であり、「ホロコースト否定論」が「ホロコーストそのものを否定する」立場だけでなく「ホロコーストについての重要な歴史的事実を否定する」立場も含めているのと同じく、「慰安婦否定論」とは「慰安婦制度について重要な歴史的事実を否定する」立場を広く含むものだ。

そして、「否定論と呼んでよいのは(慰安婦やホロコーストの存在自体の)全面否定だけである」と矮小化し、自分は慰安婦の存在自体を否定しているわけではないのだから否定論者ではない、と主張する細谷氏のレトリック自体、欧米におけるホロコースト否定論者の論法と酷似している。

たとえば、ホロコースト否定論を宣伝する似非歴史研究団体として知られるInstitute for Historical Reviewの代表を務めるMark Weber氏は、1992年のインタビューで次のように主張している。

もし「ホロコースト」という言葉で、ユダヤ人に対する政治的な迫害や、突発的に起きた殺害、悲惨なことが起きたという意味なら、誰もそれを否定はしていない。しかし「ホロコースト」という言葉で強制収容所における六百万人から八百万人のユダヤ人に対する計画的な抹殺を意味しているなら、われわれはそうした証拠はないと考えている。

また、IHRが機関紙に1993年に掲載した有名な論説「The Holocaust Issue: Three Christian Views」には、次のように書かれている。

多くのユダヤ人が収容所やゲットーに送り込まれたことや、多くのユダヤ人が第二次大戦中に死亡したり殺されたことについては、まったくの異論はない。修正主義派の研究者たちは、ヨーロッパのユダヤ人の抹殺を目指したドイツ政府のプログラムが存在しなかったことや、六百万人のユダヤ人が戦争中に死亡したという概算は無責任な誇張であることを証拠で示し、それに「抹殺派」たちは反論できなかった。

このようにホロコースト否定論者は、ユダヤ人に対する迫害や殺害の事実を認めつつ、意図的なユダヤ人抹殺を目的としたプログラムが存在したこと、政府上層部の指示に基づいていたこと、そしてその犠牲者が数百万人に上ることなど、重要な歴史的事実を否認する。

日本の「慰安婦」否定論者も同じく、日本軍「慰安婦」制度についての重要な歴史的事実、たとえばそれが軍の主導で計画・運営されていたことや、国際法や国内法に違反した強制的な性的搾取を前提としていたことなどを否定している。もしこれを「慰安婦否定論」と呼ばないのであれば、IHRの「自分たちはホロコースト否定論者ではない」という言い分も認めなければならないことになってしまうが、そんなことが認められるはずがない。

ホロコースト否定論と慰安婦否定論の類似をさらに挙げると、「慰安婦問題は中国や北朝鮮による日米韓同盟を分断するための陰謀だ」というのは「ホロコーストはソ連による東欧支配やシオニストによるイスラエル建国の正当化のためのプロパガンダだ」という主張に類似しているし、「慰安婦問題は金目当てだ」というのもホロコースト否定論における「ホロコースト産業」論とよく似ている。

細谷氏による「反論」の第二点に移ろう。

②人種差別論と区別論、背乗り

 「日本人は支那・朝鮮人と文化的に違う」事を話しました。身近な料理法、死生観、人生観、弱者への労り(女性尊重)を旧い言い伝え-諺を使って説明しました。

普段日本人は悪逆・非道な民族だと非難している「彼等」は喜ぶだろうと思いきや、人種差別と言って嫌うのです。えエー?貴方達は日本人と一緒で良いのですか?と質問したいです。

 ここにこの慰安婦問題の本質があると思います。「背乗り」です。「日本人」の良い所は私(支那朝鮮)の物、己の悪い所は「日本人」に被せる手‐講演で言った支那の諺「賊叫捉賊」‐ではないでしょうか。

この点については、細谷氏のフェイスブックページにも釈明があった。

講演はアメリカ人を対象にしていたので、日本が慰安婦問題で誤解されている、日本人は虐殺する文化も奴隷文化もありませんよ、と言いたいが為に冒頭でその聴衆者に「日本、支那、朝鮮の文化の違いが判りますか?」と訊いて、導入として食文化でも火と香辛料で材料を徹底的に替える文化と、自然と共に出来れば自然のままで頂こうとする違いを導入部にし、人生観、死生観、「弱者に対する態度での根本的な違いを極々簡単に話しました。

そこが気に入らなかったようで、人種差別主義者とのレッテル貼りでした。

わたしはツイッターのまとめで、細谷氏が「あなたたちには日本人と韓国人や中国人の区別は付かないだろうが、日本人は弱者をいたわる。韓国人は溝に落ちた犬を叩く文化」と発言した、と紹介したが、細谷氏はこれらの記事で、わたしの紹介がかれの発言から一部分だけ切り取って差別発言に聞こえるように恣意的に引用した、と言いたいようだ。

そこで、もういちど細谷氏の発言の録音を聴き直してみたのだけれど、食文化についての「導入部」など全く発言していない。死生観については、「日本人は遺体を尊重するので掘り起こさない」みたいな発言は確認できた(英語が酷いので実際に何を言いたかったのかは定かではない)けど、それが朝鮮半島や中国の文化とどう違うのかは述べられず、唐突に「韓国人は川に落ちた犬を叩く」(ツイッターでは溝と書いたが、正しくは川と発言していた)、日本人は弱者を労わる、という発言に続いた。

これについては、細谷氏があまりにはっきりとしたウソを書いているので、ウソだと指摘するほか反論のしようもない。もしかしたら細谷氏は普段の講演では食文化を導入とした発言をしていて、当日も同じことを言ったと思い込んでいるのかもしれないが、事実として言っていないのだから仕方がない。とりあえず日本人と韓国・中国の文化的違いについて発言した部分を音声ファイルとして以下に公開する。細谷氏の講演全体のファイルは、かれの許可があれば公開、それまでは検証のために聞きたい人がいれば個人的にシェアします。

なお、「人種差別主義者とのレッテル貼り」された、と細谷氏は書いているが、わたしはかれが人種差別主義者だとは書いていない。そんなこと、わざわざレッテル貼りするまでもなく誰が見ても明らかなので、書く必要すら感じなかったからだ。

第三点。

③講演の主張点と取り違えている、意図的に無視している

 コヤマ氏は『「慰安婦問題は中国と北朝鮮による日韓米分断工作、米国は慰安婦問題の主戦場だ」と、いつも通りのことを主張。』と書いてますが、これも正確には同氏の論点逸らしで、shして間違っています。

この点は主題ではないが序に言いますと、①「日米間分断工作」に対する反論はなく「いつもの通り」スルーです、➁「米国が主戦場だ」とは良く言われていますが、その理由を述べたのは私としては初めてであり、他の人も詳しくはしていないと思います。

 日米分断工作が中国と北朝鮮の目標であり、だから今は米国が主戦場なのです。日本では「慰安婦問題」はほぼ決着が着いて、「肯定派」は白幡を挙げたに等しいでしょう。

 シアトルに住んでいる以上「米国は主戦場でない」と言いたくないのでしょうか。

「米国が主戦場」だから講演で強く主張した点は:

 1)韓国政府には当事者能力が無い。

  理由は国会と憲法裁判所に「性奴隷」を前提とした解決を求められているから。日本政府が「性奴隷」を明確に否定したので、両国間での「最終的・不可逆的な合意‐解決」は幻であり有り得ない。主戦場米国での解決にも全く寄与出来ない

 2)国際司法裁判所への提訴・解決

 この問題で韓国政府がそのクレームを処理できるのは、国際司法裁判所(ICJ)しかないのではないか?何か他の手段・案がありますか?

 韓国が提訴して判決に従う事が最終的かつ不可逆的な解決であり、それ以外に解決の途は無いのでは?

細谷氏が「韓国は国際司法裁判所に提訴しろ」と主張していることは分かっていたけれど、特に取り上げる必要性を感じなかった。なぜなら、昨年末のいわゆる日韓合意によって、両国政府は「今後、国連等国際社会において、本問題(慰安婦問題、引用者注)について互いに非難・批判することは控える」ことを約束しているので、韓国政府に対して「合意に違反しろ」と日本側から要求するというのは、全くもって訳のわからない意味不明な主張だと思ったからだ。ていうか、細谷氏の英語があまりにわかりにくいので(上の音声ファイルを聞けばそれはわかると思う)、それがかれの主張の主題だとまでは理解できなかったし。

「慰安婦」問題をどう解決するかという論点についてのわたしの見解は、わたしはすでにブログの過去記事に書いているが、そもそもわたしは現代社会における性暴力への取り組みを専門としており、「慰安婦」問題については米国に日本の「慰安婦」否定論者が進出してきて騒ぎ出したせいでたまたま対抗せざるをえない立場に置かれただけだ。とうぜん、解決について何か寄与できるような独自の提案は持ち合わせていない。ただただ、否定論を掲げての被害者やサバイバーへの攻撃をやめろ、と主張しているだけだ。

最後に、第四点。

4.コヤマエミ氏の「呟き」とは?

 「呟き」は、間違った前提条件から論を展開し、相手の主張点を論ぜずに、「何時もの主張」で終わって本質を論じていませんが、それでは逃げていませんか。相手の異見を都合の良いように解釈して貶して自己満足するだけでは、知的怠惰です。

 でも、同氏は講演内容は良く聴いています。下手な英語を良く聴いてますし、冊子もよく読んでいます。さすが大学教授(?)

その冊子もその中で主張した点は講演と同じなのですが、重箱の隅は徹底的に突くばかりで、中心点・本質は無視する点では同じです。

 論点・問題の本質・私の主張を意図的と思える程に偏向させ或は避ける姿は、学者・研究者(?)としてのあるべき姿勢でしょうか。害毒だけが撒き散らされ(同氏が何を問題にしているの判りませんが)、私が言う「問題」の最終的な解決を妨げるだけではないでしょうか。

「最終的な解決を妨げる事」だけが目的であれば、事を荒立てて攪乱させ日米間に楔を打ち込みたい中華人民共和国(PROC)と北朝鮮を支援する同志と見做されます。

 ROC(中華民国)に対抗し人民が主とばかりにPを頭に持って来たのが今の中華人民共和国です。それではマズいと最近はPRCと名乗っておるようですが、人民が主で無い事を隠したいのでしょうか?

これはパネルについて書いた部分ではなく、細谷氏らが作成した冊子の内容についてのわたしのツイートについての反論だと思うのだが、細谷氏らの歴史修正主義を「いつもの主張」で片付けて「本質を論じない」のは当然の作法。いちいちホロコースト否定論や慰安婦否定論に付き合って議論ごっこの相手を演じる意味はないもの。あなたたちの議論は「トンデモ」としてウォッチされる対象であって、議論の相手としてみられていないことくらい理解しなさい。もちろん、これまでの議論を知らない人もいるかもしれないので、まっとうな歴史家たちによるサイト「Fight For Justice」の紹介くらいは入れておいても良かったとは思う。

最後のPRCについての部分は、冊子が中華人民共和国 People’s Republic of China のことを「PROC」と記述しているのに対し、普通はPRCと書くのにPROCと書いているのが素人っぽくて親しみを感じる、とわたしがツイートことへの反論らしい。もちろん、かつて中国が自国の略称を「PROC」としていたが近年になって「PRC」に変更したという事実はない。

自分の講演の内容についてウソをついたり、こんなどうでもいい用語についてみっともない言い訳をしてみたりと、歴史修正主義者というのは

5 Responses - “「慰安婦」否定論・ホロコースト否定論と、しょーもない現実改竄/家族の絆を守る会&日本近現代史研究会・細谷清氏へのお応え”

  1. 堀家康弘 (@kounodanwawoma1) Says:

    「ホロコースト否定論」と同じような屁理屈を述べる「慰安婦問題否定論」の細谷氏には勝ち目が無いなあ。

  2. goldbug Says:

    日本には以前、前借金をして、そのお金を返済し終わるまで、または契約で定めた一定の期間働くというシステムがあったわけですね。それは奴隷制ではなくて、年季奉公というれっきとした名前があったわけです。日本人が慰安婦のことを考える時、それは年季奉公であり、奴隷だったわけではないと考えるわけです。
    日本政府は慰安婦が性奴隷であった事実はないと言うのですが、それはこうした日本的な定義に基づいて言っているのか、それとも国際的な定義に照らしても性奴隷というのは不適切だという意味で言っているのか、政府は詳しいことを言わないので、なかなか分かりませんね。あれは年季奉公であって、性奴隷ではないというならその理論は分かりますが、国際的な定義に於いても性奴隷ではないというなら、それはもう少し説明を聞きたいという気にはなりますね。

  3. 堀家康弘 (@kounodanwawoma1) Says:

    細谷氏
    「講演はアメリカ人を対象にしていたので、日本が慰安婦問題で誤解されている、日本人は虐殺する文化も奴隷文化もありませんよ・・・」
    慶長の役の際、臼枡城主太田一吉にくっついて朝鮮半島に渡った僧慶念が書き遺した日記。
    (『文禄・慶長の役における被虜人の研究』東京大学出版社、1976)
    「日本よりもよろずの商人も来たりし中に、人商いせる者来たり。奥陣より後に付き歩き、男女・老若買い取りて、縄にて首をくくり集め、先へ追い立て、歩み候わねば後より杖にて追い立て、打ち走らかす有様は、さながら阿坊羅刹の罪人を責めけるもかくやと思いはべる。・・・・身の業はすける心によりぬれど、よろず商う人の集まり、「かくせい」や「てるま・たるみ」の若童ども、くくり集めて引き立て渡せる。かくの如くに買い集め、例えば猿をくくりて歩くごとくに、牛馬をひかせて荷物持たせなどして、責める躰は、見る目いたわしくてありつる事なり。」

    「かくせい」=女性、「てるま」=召使い、「たるみ」=男性

  4. 堀家康弘 (@kounodanwawoma1) Says:

    「日本人は虐殺する文化も奴隷文化」もあった。
    それを知らないのは勉強不足なだけであって、こういう勉強不足な人が、海外に雄飛して人前で講演なんかするんじゃないよ、恥ずかしい・・・と言いたい。

  5. ペロリンガ Says:

    少し調べれば容易に分かる国際的な性奴隷の定義すら調べずに(わざと?)「性奴隷ではない」って言うんだもんなあ、まあ性奴隷の定義を知ったところでそんなものに日本が従う義理は無いとか、大戦以降に定められた定義で慰安婦制度を批判するなとか、言うんだろうがね。
    それが日本人の人権を守るためにも存在していることを理解せずにさ。
    そういやあの条約、日本は批准してないんだっけか?

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