姜尚中編著「ポストコロニアリズム」を読んで反省したこと

2004年8月4日 - 11:17 PM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

サンフランシスコで買ってきた「ポストコロニアリズム 知の攻略」(姜尚中編著)を少しずつ読んでいるところ。わたしはアメリカの女性学で一応ポストコロニアリズムについての英語文献は読んでいるし、それなりに理解したつもりでいろいろ発言したこともあるのだけれど(わたしが関わる分野だと、文化的盗用とか国際養子縁組などの問題の関連ですが)、アイヌモシリ・琉球を含めたアジア各地における日本植民地主義とその傷跡(というか、現在でも血が流れているのだけれど)としてのポストコロニアリティというのについてよく読んだことがなかったので、とっても勉強になっています。欧米で発表された理論が当てはまるところもあれば、かなり独自なところもいろいろあるようでおもしろいです。
まだ途中だけど、読みながら反省したこともいくつか。例えば、戦後民主主義の評価についてナショナリスト的に「いろいろ問題はあったけど、当時の状況から言って最善の選択だったのではないか」的に理解していたのは、その戦後民主主義が、アジア各地の戦争被害だけでなく、日本国内に残された朝鮮半島および台湾出身者や沖縄の人たちを忘却することで成り立っていたことを無視した暴論だと今になって気づいた。「戦後」を仕方がないものとして享受するのではなく、それがコロニアリズムの隠蔽であった事をしっかり認識しなければいけないと感じました。あるいは、掲示板において慰安婦問題について議論したりした時、侵略や植民地支配についてどう評価するかという部分を通り越していきなり細部の事実関係や国際法の議論をしてしまったのは、「日本は悪くない」論者の論点にうまく乗せられてしまったな、とも反省。
日本の責任というと戦争責任、それも南京事件だとか慰安婦問題だとかの問題に矮小化されてしまうというのは、例えばユダヤ人差別というとホロコーストだけの話になってしまうのと同じ。あるいは、世界の歴史が911事件ではじまったかのように感じている(つまり、それ以前にアメリカの外交・経済政策が世界中に作り出した怨念の存在を無視している)アメリカ人たちに対して、それではいけないという論理をわたしは常に主張しているはずなのに、日本に関しては論理を徹底していなかった。戦争責任とか戦争犯罪というだけの話ではなくて、植民地主義の責任・宗主国としての責任・占領者としての責任というものを考えないといけないし、過去の行為の反省ではなくて現在続く状況にどうコミットするかという次元で話さなければいけないと思った。言われてみれば当たり前なのだけれど、それを言う人があまりいないのよね。
わたしの場合、日本語で本を一冊読むのはツラいんですけど、面白いので常に鞄に入れてバスに乗っている時に少しずつ読んでいます。でも、こんなに面白いのに何故か他人の感想文とか検索しても見つからないですねぇ… もしかしてあんまり的外れな事を言っていたら恥ずかしいからちょっと他人の感想を見てから掲載しようと思ったのに、ダメでした(笑)

5 Responses - “姜尚中編著「ポストコロニアリズム」を読んで反省したこと”

  1. Yoko Says:

    いまpost-colonialismに関連して、大きな問題になってるのがこれですね。
    Bad blood threatens China-Japan clash
    http://cnn.com/2004/SPORT/football/08/05/football.china/

  2. マツウラ Says:

    Macskaさんみなさんこにゃにゃちわ!!
    あの本の中ではわたしは島袋まりあさんと野村浩也さんと鄭暎恵さんがすきですがあとは…。第3部の座談会なんてちょっとひどいような気がしました。

  3. Macska Says:

    こんにちはですー。そうですね、わたし的にも島袋さんと野村さんの文章が特におもしろかったです。鄭暎恵さんも、ひびのさんに紹介してもらっていろいろ読んで大好きなんですけれど、彼女がこの本で扱っている内容はわたしの興味とは違うなぁと。 transcultural psychiatry というコンセプトは分かるのですが、精神医学による越権行為というかそれこそ帝国主義なんじゃないかと感じるのです。(とゆーか、政策提言というのは社会学の数少ないメシの種なんだから、そこまで心理学に出てきて欲しくないのねー。)それに、かつてのフェミニストカウンセリングだって挫折しちゃったしね。
    第3部の座談会は、ひどい部分も含めて面白かったです。わたし個人としては、最後の用語解説とかその辺りが不必要だったんですが、入門書としてはあれでOKじゃないかなと思いました。

  4. 海野鯛子 Says:

    在日朝鮮人2世の今は亡き父を持つ、沖縄在住の58才です。
    島袋まりあさんの名は「沖縄タイムス」のコラムで知りました。
    3日前からミクシィに日記を書いてますのでよろしければどうぞ。

  5. crafty Says:

    ひどく古い記事にコメントして恐縮ですが、Macskaさんが文中でおっしゃっている
    「文化的盗用」の英訳は”Cultural appropriation”ですか?
    ポストコロニアリズム等の分野で学問的タームになっているのでしょうか。
    それと、Macskaさんは件の言葉内で「盗用」という言葉をネガティブな意味で使っていますか?

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