警察がDV現場で加害者と被害者を区別することの困難/米国司法省報告メモ

6/15/2009 - 11:06 am | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

米国司法省から「Making Arrests in Domestic Violence Cases: What Police Should Know」という報告書が公表された。ドメスティックバイオレンス(DV)における警察の逮捕の記録を分析したもので、著者はマサチューセッツ大学ローウェル校の犯罪学者。内容は、これまで多くの人が指摘してきたことが公式に確認された内容となった。

確認された事実1、暴力の深刻さやその他の状況が同じ場合、加害者が男性であっても女性であっても逮捕される頻度は変わらなかった。また、同様に同じ状況において異性カップルでも同性カップルでも逮捕される頻度は変わらなかった。

事実2、加害者がその場に残った場合、逮捕される可能性が4倍多かった。警察が来る前に現場を離れた加害者は4倍逮捕されにくい。

事実3、異性カップルより同性カップルの方が、当事者二人とも逮捕される割合が多かった。たとえば男性同士のカップルでDVが起きた場合、酒場の喧嘩と同じように双方が逮捕されることが多い。同性カップルにおいて加害者と被害者の双方が逮捕されるケースが多いことはこれまでにも知られており、今回司法省の調査によって公式に確認されたことになる。

事実4、mandatory arrest lawの実施されている地域において、当事者二人が同時に逮捕される割合が高かった。mandatory arrest lawとは、DVが起きたと警察官が信じる限り、必ず加害者を逮捕しなければいけないという決まり。

mandatory arrest lawは、かつてDVの現場に警察が呼ばれても、DVを犯罪として扱わずにきちんと対処しないことが多かったため、被害者保護のために導入された。しかし自衛のため(あるいは子どもを守るため)に加害者に反撃した被害者が誤認逮捕されたり、警察が家に来たことに気付いた加害者がわざと自分の体に引っ掻き傷を作って「自分こそ被害者だ」と言うケースなどが増えている。

報告書の著者による提言1、現場を離れた加害者の責任もきちんと問え。提言2、同性間DVにおいてどちらが加害者なのかを見分けるための訓練を警察に受けさせろ。提言3、暴力をふるった人を即逮捕するのではなく、加害者が誰なのかを見極める制度を。警察官には自衛のための暴力でできる傷とそうでない暴力によってできる傷を見分けるための訓練を受けさせろ。

わたしの感想だけれど、mandatory arrest lawの問題や、同性カップルが特に不利な扱いを受けていることが公式に確認されたのは収穫。わたし(だけじゃないけど)が10年前から言ってたことだ。

しかし、いくらか訓練を受けさせたところで、警察官に加害者が誰なのかを見極めたり、自衛のためにできる傷を区別したりできるのか? 実のところ、大半のDV専門家ですらこれは難しい。なぜなら、深刻な身体的暴力に限れば「男性=加害者、女性=被害者」という図式で95%は間違えないわけだから、そういうスキルを磨かなくても専門家としてやっていけてしまうもの。

早くからこの問題に取り組んできたのは、同性間DVに取り組んできた人たちで、特にボストンのThe Network/La RedとシアトルのNorthwest Networkでは被害者と加害者を見分けるためのかなり有効な手法を確立している(同性間DVに取り組む他の団体も、それらから学んでいる)。でもこれにも弱点があって、その手法を知っている人が加害者となれば、簡単に被害者のふりをすることができてしまう。実際にわたしの周辺でそういう件があった。

自衛のためにできた傷云々の話もそうで、たとえば肩を噛んだり胸を引っ掻くのは自衛の暴力によってできる傷で、首筋を締めた痕は加害の証拠みたいなことが業界内ではよく言われるけど、そういう知識を加害者が知っていれば、まるで自分が被害者であるかのような傷を相手につけることができる。

ただでさえ、警察官の男性はその他の職業の男性に比べてDVの加害者となる可能性が4倍も多いと言われている。その警察官に「被害者と加害者を見分けるにはこうすればいい」みたいな知識を教えたら、被害者支援のために役立てるどころか、かえってより巧妙なDVを行なうために悪用される恐れの方が大きいかもしれない。

そうでなくても、こういった、これまで同性間DVに取り組む人たち、というごく小さな輪の中で共有されていた知識が一般に知れ渡ることは、その有効性そのものを脅かしてしまう。かといって周知させなければ、これまでのように同性間DVの被害者が、被害者なのに逮捕されることが頻発してしまう。警察が当事者を二人同時に逮捕することにもうちょっと慎重になってくれればいいとは思うのだけれど、警察がより訓練されれば解決されるという問題ではないように思う。

5 Responses - “警察がDV現場で加害者と被害者を区別することの困難/米国司法省報告メモ”

  1. AAA Says:

    >著者はマサチューセッツ大学ローウェル校の犯罪学者。
    ん〜っと、同性間はいざしらず、この州は例え正当防衛であろうと男性から女性への「身を守る為の如何なる実力行使」も犯罪として起訴する方向に進んでる州だから、この州の住人の多くには余り関係が無いような気が?
    あと訓練以前の問題で警察がいくら訓練されようが、一旦逮捕したら面子守る為に事実なんかどうでもいいっていう傾向とても強いので、残念ながら普通の人の期待に沿うような社会が出来るのはまだまだ遥かに先の話しでしょうね?

  2. macska Says:

    この州は例え正当防衛であろうと男性から女性への「身を守る為の如何なる実力行使」も犯罪として起訴する方向に進んでる州だから

    そんな馬鹿な。警察官の偏見や思い込みによりそういう間違いが起きている、というならその通りかもしれませんが、その方向にわざわざ方針として進むわけがないでしょう。

    あと訓練以前の問題で警察がいくら訓練されようが、一旦逮捕したら面子守る為に事実なんかどうでもいいっていう傾向とても強いので

    だから、一旦逮捕する前にきちんと判別するための訓練なんです。

  3. AAA Says:

    >その方向にわざわざ方針として進むわけがないでしょう。
    「そんなの信じられない」というのが普通の反応でしょうが、この点はこの州の個々の裁判を傍聴でもしないと分からないと思うので仕方の無い点ですが残念ながら実際そうなってます。

    >だから、一旦逮捕する前にきちんと判別するための訓練なんです。
    macskaさん自身が書かれてますが”かえってより巧妙なDVを行なうために悪用される恐れの方が大きいかもしれない。”というタイプの人はどんどん悪用し、それに騙された警察/検察は一旦起訴すると後戻り出来ない。
    しかもそういう裁判やHearingの傍聴してると検察側は事実はどうでもいいから「如何に被告を有罪に持ち込めるか」に専念するStaffが沢山だったり? 結局は歪んだ女性人権団体からの圧力がそういう方向に走らせているだけだと思います。(ちなみにJane Doe Incはご存知ですか?)
    こういう研究を専門にされているようでしたら、可能な限り現場(裁判所)に出向く事お勧めします。

  4. imotan Says:

    とおりすがりなんですけど、相手から逃げたがってるほうが被害者で、相手を離すまいとしてあれこれ巧妙に立ち回るのが加害者です
    だから、逮捕するかはともかく、互いに近寄ってはいけないという命令を出せると、それを破って近づいたほうがあやしいってことです

  5. Tweets that mention macska dot org » 警察がDV現場で加害者と被害者を区別することの困難/米国司法省報告メモ -- Topsy.com Says:

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