珍しくフェミ本ほか紹介エントリ

2007年7月9日 - 1:37 AM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

今回は珍しく本紹介エントリ。というのも、最近知り合いが何人か新刊を出していてそれが結構いい本だから紹介したいし、昨年の終わり頃から春まで家賃と食費以外のお金がなくて何も買えなかった反動か、ここのところ大量に本を買ってしまっているという事情もあったりする。決して先月のアフィリエイト収入が38円しかなかったせいではない、はず。(てゆーか、日本語ブログで英語の本ばかり紹介してもアフィリエイト収入は全然期待できないしなぁ。)
Whipping Girl coverまずはオークランドに住むMTFトランス活動家で詩人 Julia Serano による『Whipping Girl: A Transsexual Woman on Sexism and the Scapegoating of Femininity』。トランスセクシュアルの女性の視点から性差別やフェミニズムについての本。非トランスセクシュアル・非トランスジェンダーを示す「シスセクシュアル」「シスジェンダー」という言葉が大々的に使われる最初の本かもしれない。
著者はトランスジェンダーの運動が「ジェンダー規範からの逸脱と、それに対する抑圧」に注目するあまり、その抑圧がミソジニーの変形として立ち現れることを軽視していると指摘する。そして、最近「ミソジニーもトランスフォビアも結局ジェンダーの問題なのだから、ジェンダーの抑圧を解消すれば良い」的な議論がもてはやされるけれど、そういった単純な一元化はトランスセクシュアルの女性が経験する「トランスミソジニー」に対抗するうえで不十分だとしている。
これまでにもトランスとフェミニズムの関係を論じた本はトランス当事者によるもの、それ以外のフェミニストによるものを含めいろいろあったけれど、トランスセクシュアルの女性の視点を含むことでどれだけフェミニズムが豊かになるかをはじめて感じさせてくれる良著。
For Lack of a Better Word cover友人繋がりでもう一つ、インターセックス活動家でセックス・ラディカルという珍しい組み合わせの詩人&エッセイスト Thea Hillman の新著『For Lack of a Better Word』。言葉にできない、言葉にした瞬間に嘘になりそうな、そんな感覚を洗練された言葉遣いでなんとか書き留めようとしたエッセイ集。インターセックス業界(といっていいのか)を二分させる論争に関連した文章も、丁寧に言葉を繋ごうとしている。前著『Depending on the Light』もお勧め。
What Lies Beneath cover続いて、人種や階級といった問題に鋭く切り込むフィクションやノンフィクションを多数出版している非営利出版社 South End Press の創設メンバーが、2005年秋に米国南部を襲い多数の犠牲者を出したハリケーン・カトリーナについて全力で編集した『What Lies Beneath: Katrina, Race, and the State of the Nation』。
ニューオーリンズなど南部各地に大きな被害を出したカトリーナは単なる天災ではなく、また当時メディアで騒がれたようにブッシュ大統領や関係閣僚個人の無能や現政権の失策によって説明がつくものでもない。米大陸植民地化や奴隷制差別にはじまり、前世紀中盤まで残った人種隔離や現在まで続く激しい差別と貧困など数世紀に渡る不公正と不正義ーーすなわち、アメリカの過去と現在そのものーーが、まるで堤防をぶち壊して溢れ出してニューオーリンズ市街を飲み込んだのだった。あのハリケーンは何だったのかを知るため、いま一番重要な本。
How Nonviolence Protects the State coverSouth End Press の底力を示すもう1冊。コミュニティオーガナイザーでアナキストの Peter Gelderloos が書いた『How Nonviolence Protects the State』は、社会運動において当たり前のように受け入れられている「非暴力主義」を徹底批判する問題の書。かれは、非暴力主義は無力であり、人種差別的であり、国家権力側の論理であり、家父長制的であり、戦略的にも戦術的にも無効であり、妄想であると断じ、暴力的手段を含めた「多様な手段」を認めることが必要だと訴える。
気軽には賛同できない考え方だけれど、著者による「非暴力主義者」の偽善や保身を鋭く批判した部分は説得力がある。著者のスタンスはわたしとは大きく違う(暴力か非暴力かといったこと以前に、目指すものがかなり違う)にもかかわらず、自分の取り組みについて深く考えさせてくれた。
Hijas Americanas cover表紙の色遣いに惹かれてジャケ買いしたところ意外に良かったのが Rosie Molinary 著『Hijas Americanas: Beauty, Body Image, and Growing Up Latina』。米国に住むラティーナ(ヒスパニック)の女の子500人の調査を元にした本だけれど、巻末にも含まれている質問が良い。例えば電話インタビューの最初の質問は「あなたがラティーナであることで最も好きなことは何ですか?」 後の質問に本音の回答が寄せられたことが想像できる。
もちろん内容はアンケートやインタビューをまとめただけではなくて、プエルトリコ系の著者自身の体験も語られ、分析される。米国ではニューヨークやマイアミなど一部の都市を除いてラティーノ/ラティーナと言えばメキシコ系だと決めつける風潮があるけれど、ラティーナとひとまとめにされる集団がどれだけ多様で、それでいて身近な存在かを感じられる。
Outsiders Within cover最後に、国際・異人種間養子制度の問題点は過去エントリ「『完璧な愛』が隠蔽する国際養子制度の帝国主義的歴史」でとりあげたけれど、養子となった当事者らによるエッセイ集が『Outsiders Within: Writings on Transracial Adoption』。国際養子制度と国内の異人種間養子制度はそれぞれ社会問題として論じられてきたけれども、前者がアジア人の問題、後者が黒人の問題といった具合に分断されていてあまり同時に論じられることがなかった。その意味では、この本は両者を同じ次元で取り上げようとした試みとして成功している。
編者のスタンスは、養子制度の是非自体には踏み込まないまでも、自分の出自とは違った国籍や人種や文化の家族に育てられた子どもたちが直面したさまざまな困難やコストを当事者の声を通して伝えるというもの。その趣旨から考えれば妥当だと思うけれども、政治的・経済的背景を中心的に扱うわたし自身のスタンスとはやや外れる(政治的・経済的問題を扱った文章も一部にはある)。また、もともとライターではない一般人の書いたものだから当たり前だけれども、当事者のエッセイにはやや弱いものが混ざっている。それも生の声なので、編者が無理に直したり読み物としてのレベルが高いものだけを含めるわけにはいかなかったのかもしれないけどね。
他に最近買った本はというと、新しくないけど摂食障害のあたりを読み直したくなったので Susan Bordo の『The Unbearable Weight: Feminism, Western Culture, and the Body』(いつの間にか新版出てた)、趣旨は分かるんだけど文体のつまらなさが残念な反宗教本 Christopher Hitchens『God is not Great: How Religion Poisons Everything』、元第三波フェミ研究者としては一応持っておかなくちゃと思っていまさら買った Melody Berger, ed.『We Don’t Need Another Wave: Dispatches from the Next Generation of Feminists』、他にも読んでないのやら言及する価値もないのがいくつか。
あと、ここのところビーバートン(宇和島屋内)やサンフランシスコの紀伊国屋書店や、シカゴのミツワにある三省堂書店に行く機会があったので日本語の文献もいくつか買ったのだけれど、感想を書けるほど読んでないしわたしが紹介するまでもないのでやめときます。って、アフィリエイトで稼げる可能性が高い部分を自分で封印しているような気がするけど、まいっか。そもそもアフィリエイトは自分のサイト経由で『バックラッシュ!』がどれだけ売れるかトラッキングするのが最大の目的であったわけだし(ちなみに、いまでもまだ2ヶ月に1冊くらい売れてます)。

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