「産む機械」シャツ騒動についての『週刊文春』ボツインタビュー公開

2007年3月4日 - 1:47 PM | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

1月の柳澤厚労相の「産む機械」発言はブロゴスフィアでも実社会でも予想を上回る騒動になったけれども、中でもわたしがデザインした「産む機械」バッジ及び「産む機械」アパレルは「アホくさいのに無駄にカッコイイ」などとご好評いただいた。特にシャツの方は大手ブログの「きっこのブログ」(のちに彼女の読者層をからかったら削除された)および「にゅーあきばどっとこむ」で紹介されたこともあり、単純に笑えるネタとして消費されるとともに、こういう政治風刺の方法もあるんだと知ってもらえたんじゃないかと思う。
で、きっこのブログならマスコミの関係者も見ているはずなので、もしかしたら一般メディアでも紹介されるんじゃないかなぁと思ってたら、結局取材してきたのは『週刊文春』だけだった。「文春に取材されるのってこわないん」という人もいるけれど、『世界日報』の一面で堂々名指しで批判されるのに比べれば怖くもなんともない。で、取材受けたんだけど、どうやらボツになったみたいなので、せっかくだからここにそのインタビューを公開する。
* * * * * * * * * * * * * * * * 
Q.まず、macskaさんの性別、年齢、職業は?
  デザイナーをやってらっしゃるのでしょうか
性別年齢不詳、で通してきたのですが、昨年双風舎から出版された『バックラッシュ! なぜジェンダーフリーは叩かれたのか』に寄稿したことで正体がバレてしまいました。公式プロフィールは以下の通りになっています。

1975年生まれ、米国オレゴン州在住。ドメスティックバイオレンス(DV)シェルター勤務、女性学講師などを経て、非営利団体インターセックス・イニシアティヴ代表。http://macska.org/ でブログを運営しているけれど、じつは犬が好き。

デザインの仕事はまったくしていません。
Q.なぜ「産む機械」T-シャツ・バッジをデザインしようと考えたのですか。その経緯は
単なる思いつきでしょう。
というか、もうちょっと付け加えると、Tシャツやバッジなどを作るということは、米国ではよくある政治風刺の一つの表現です。
バッジは自分で作成していますが、シャツを販売している CafePress というサイトは、自分で作ったデザインをアップロードすれば勝手にシャツ等を製作・販売して利潤の一部をデザインした人に分配する(わたしは値段を抑えるために、自分の取り分をゼロにしています)というサービスを行なっています。
こういうサービスをドロップシッピングと言いますが、そういうビジネスが発達しているのも、何かあればシャツを作る、ということが一般的であるからだと言えると思います。
Q.「産む機械」という発言について、率直にどう考えますか
そうした表現そのものよりも、言わなくてもいいのにわざわざ余計なことを言って反発を招き寄せてしまったという点において大臣の資質が問われると思いますが、米国なら本人が謝罪し、ブログで叩かれ、誰かがTシャツを作り、コメディアンが1週間ほどネタにして笑い飛ばして、それで済む話だと思うので、それで済まなかったことに驚きました。
基本的に、日本の少子化対策というアジェンダが「どうすれば女性により多くの子どもを産んでもらうか」ということを目的としている以上、「産む機械」という言葉を使うかどうかに関わらず、政治家の大半は「女性は子どもを産むことで国家に貢献すべし」という思想を持っているということになります。「産む機械」と言うか、それとも出産をなにかとても素晴らしく貴い行為であるように言うかは、有権者の神経を逆撫でするかどうかという違いはあっても、本質的な問題ではありません。
少子化対策の綱領みたいな文書を読むと分かりますが、そこには少子化によって問題となると思われる年金制度や労働市場の改革といった議論はまったくありません。本来、少子化「対策」というのであれば、「少子化を止める」という路線のほかにも、「少子化に適応できる社会制度を作る」という路線もあるわけで、常識的にはどちらも平行して進めるということが考えられるはずです。しかし現実には、「少子化を止めるーー女性にもっと子どもを産んでもらう」ということしか政策として議論されていない。女性を「産む機械」として扱っているのは、柳澤大臣だけではないでしょう。
Q.「産む機械」の女マークのデザインのポイントは
えー、ポイントなんてあるのかな。やっぱり、女性シンボルに歯車を組み合わせたところでしょうか。
シャツの色が全部ピンク系なことや、赤ちゃん向けの服があることなど、かなり悪ふざけしてますね。結構ピンク好きな人は多いみたいですが。
Q.ブログやmacskaさんの周辺では、このデザインにどんな反響がありましたか
あのデザインを見た友人が、Child-Bearing Machines というバンドを組もうと言い出した、という話はブログに書きました。ちなみにその友人は女性から男性になった性同一性障害の人で、外見からしてどう見ても男性なのに、昨年突然子どもが欲しくなり、ホルモン注射をしばらくやめて妊娠・出産した(その後またホルモン注射をはじめた)というつわものの「産む機械」です。
シカゴ大学で日本文化研究をしている友人によると、米国人日本研究者からメールで「こんなのがあった」と伝えてきたから見てみたら、わたしのシャツだった、というすごく狭い世間の話とか。
Q.バッジとT-シャツをどなたに身に着けて欲しいですか
  それを通じてどんなことをアピールして欲しいですか
アイロニーが分かる人に身に着けて欲しいですね。あんまり真面目に怒っている人が着るものじゃない。特に何かをアピールするために着るというのも、ちょっと違う気がします。まぁ、会話のきっかけにはなるでしょうけどね。とにかく、どう着ようと勝手と言えば勝手ですが、せっかくのくだらない失言をくだらないながらに楽しむためのグッズにしてほしいです。
「産む機械」発言のあとに、柳澤氏が「健全」がどうしたとかいう発言をして、これは「不健全」でまたシャツ等作れると思ったのですが、あんまりインパクトがない。楽しくないんですね。そう思うと、「産む機械」というのはインパクトたっぷりの素晴らしい失言だったのだと今更ながら感心してしまいます。
* * * * * * * * * * * * * * * * 
インタビューは以上。
しかし、こんなふざけたインタビュー公開したら、Against GFB とかファイトバックの会みたいな真面目なフェミサイトにある「産む機械」グッズの紹介を削除されかねないなぁ… いいもーん、mixi の「アホグッズの世界」コミュに紹介されてさえいればそれでいいんだもーん!

5 Responses - “「産む機械」シャツ騒動についての『週刊文春』ボツインタビュー公開”

  1. 猫まんこ Says:

    >米国なら本人が謝罪し、ブログで叩かれ、誰かがTシャツを作り、コメディアンが1週間ほどネタにして笑い飛ばして、それで済む話だと思うので、それで済まなかったことに驚きました。
    我がジャポンでは、そういうウサ晴らしの形式が確立されてませんから。
    今だに「サタディナイトライブ」「サウスパーク」「シンプソンズ」的なものすら、受け入れられてないんですよ???
    んで、ひたすらダラダラ続いてるのが「水戸肛門」「サザエさん」でっせ?信じられないっしょ。
    まったくいやになるぜ!ファッキン!

  2. TGX Says:

    はじめまして。
    本館・別館とも、いつも読ませていただいてます。この知的に非常におもしろいインタビューも、載らなかったのは非常に残念ですね。
    さて、エントリーと関係ない話題で本当に恐縮なのですが、そろそろ、今、太平洋の両岸で吹き荒れている、sex slaves ないし comfort women 問題について、macskaさんの発言を是非読みたいと思っているところです。
    まぁ面倒だなと思う気持ちもおありだろうとは思いますが、どう見てもいろいろな意味で、現在この問題を語る最適任者の一人だと思うので、ぜひぜひ読みたいところです。勝手なお願いで恐縮ですが、よかったらぜひよろしくお願いいたします。

  3. ユンダ Says:

    はじめまして、いつも陰ながらROMらせていただいております。
    「アホグッズの世界」コミュで紹介したのは、多分私のマイミクさんです。
    私が日記に書いていたのを見て、「コミュで紹介しました」というコメントを貰ったので。
    (非公開なので、私はその書き込みを見られないんですが)
    それが、まさかmacskaさんご本人の目に触れているとは!
    と、ネット世界の狭さに驚愕して、思わず書き込んでしまいました。ご容赦ください。

  4. はと吉 Says:

    はじめまして、はと吉と申します。
    今日はじめてmacskaのサイトを拝見したので一部分しか読めてないのですが、理路整然とした語り口と、Tシャツ作ったりするユーモアセンスが、あまりにクールでしびれました。さらに同年生まれと知ってびっくりです。勉強しよっと・・・。

  5. はと吉 Says:

    あ、すみません・・・「macskaさん」とさん付けするのミスりました。

コメントを残す

XHTML: You can use these tags: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>