「女性から男性へのDVは男性から女性へのそれと同じくらい頻繁」というウソ

8/18/2005 - 12:12 am by macska このエントリーを含むはてなブックマーク

たまに顔を出しに行く「(続)男性解放掲示板」経由で「男性差別・女性優遇に反対」を主張するサイトをいくつか見てまわる。「男性が差別されている」と主張するサイトにもいろいろあって、どこからどう見ても単なるバカにしか見えないものから、「うんうん、そういったオトコのツラさはよく分かるけど、批判の矛先間違えてんじゃねーの」と多少は共感できるような内容のものまであるのだけれど、そうするうちに久しぶりに「男性から女性に対するドメスティックバイオレンスと、女性から男性へ向けたドメスティックバイレンスを比べれば、統計上だいたい対等か、あるいは後者の方が多いぐらいである」という記述を見かけた。これはもちろん間違いなのだけれど、この偽情報に関しては出典も全て明らかになっているので、それがいかに間違っているかまとめることにした。

この記述を見つけたのは「反・男性差別blog」という名のブログで、ここ数ヶ月は更新が滞っているようだけれど、こうした記述は別のところでも見かけたことがあるので、正確な情報を明らかにしておくことに意義はあると思う。このサイトが引用しているネタ元は下村満子著『アメリカの男たちはいま』(朝日新聞社、1982) だそうだ。引用部分を再掲する。

「性的いやがらせ」や「レイプ」のほかに、女性運動家たちが、これまで「男性の女性に対する横暴」としてやり玉にあげてきたいくつかの事柄がある。「妻に暴力をふるう夫」というのもその一つだ。夫の暴力から逃げ出す妻たちのための「避難所」は、すでにたくさんつくられている。

ところが、一九七七年のデラウェア大学スタインメッツ調査によると、家庭内暴力を「ものを投げつける」「こづく」「なぐる」「蹴る」「物でなぐる」「ナイフや銃で脅す」「ナイフや銃で負傷させる」といったカテゴリーに分類し、妻と夫の双方について調べたところ、あらゆる項目で、妻が夫に対して暴力を働く場合が、その逆の場合を、多少だが上回っていたという事実が確認された。

つまり「妻に暴力を振るう夫」より「夫に暴力を振るう妻」のほうが多い、ということである。これは他の二つの同様の調査でも、同じ結果が出ている。

夫の声があまり表に出ず、妻の訴えのほうが多いのは「男がそれを恥として黙っているだけのことなのだ」とその調査は述べている。

(前掲書より孫引用)

この「スタインメッツ」というのは心理学者スザンヌ・スタインメッツ氏のことで、下村氏が紹介する通り1977年に「虐待される夫症候群」(”The battered husband syndrome,” Victimology. 2:499-509.) という論文を書き、「妻による夫に対する暴力の方が、夫に対する妻の暴力よりはるかに深刻である」という結論で世間を驚かせた。スタインメッツが何を根拠にこうした結論を出したのか? 種を明かすと、その根拠は57組のカップルを対象とした調査において、夫婦別々に暴力行為についてのアンケートを取ったところ、たまたま4人の妻たちが夫に暴力をはたらいた事を告白した一方、57人の夫の誰も自分が暴力をふるった事を認めなかったという結果だった。

普通なら、こんな少数のしかも普遍性が乏しいデータで、しかも本人による報告だけの調査で、一体何が分かるんだと思うところだろう。けれど、驚いた事にスタインメッツはこれだけの根拠をもってして「毎年米国では25万人もの夫が妻による虐待を受けており、彼らのほとんど誰もその被害を訴え出ていない、これは男がそれを恥として黙っているだけのことだ」と発表した。こうしたスキャンダラスな発表はマスコミを騒がせると同時に、様々な媒体で紹介されるたびに数字がエスカレートして、最終的には「年間1200万人の男性が虐待されている」という数字まで飛び出したあたりで、「そんなに多いなら、どうしてわたしたちのほとんど誰も被害を受けた男性を一人として知らないんだ」という常識的な反応が起きて騒動は収束した。要するに、無責任な学者が無責任な発表をして、無責任なメディアで騒がれたというそれだけの話でしかない。

その後スタインメッツは、同僚の心理学者マレー・ストラウス、リチャード・ゲルスの2人とともに家庭内で起きる暴力行為についてより厳密な研究に関わることになる。そのストラウスが家庭内暴力の深刻さを計測するためのに開発したのが Conflict Tactics Scal (CTS) と呼ばれる指標であり、ストラウス・ゲルス&スタインメッツの研究はこれに大きく依存している。

CTS とはどういう指標か。CTS は80項目の質問からなり、そのうち40項目がパートナー・夫婦同士の関係について問うものだ(残りは親子関係)。これらの項目では、些細な敵対行為からはじまり深刻な暴力までだんだん激しくなるさまざまな行為について、日常生活においてそれらを行う頻度を「全くやったことがない」から「ほとんど毎日」まで7段階で報告するようになっている。CTS がその真価を見せるのは、実はパートナー同士の関係の分析においてではなく、親子の関係において「躾け」が虐待になっていないか見極める時なのだけれど、何故だかこの指標は「妻から夫への暴力」を他のさまざまな調査で知られている以上に過大に報告する傾向があり、「男性こそ差別されている」と主張する一部男性運動勢力に都合よく利用されている。

ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の社会学者でなおかつ米国における男性学の指導者的存在としても知られるマイケル・キメル氏は、2001年にアイルランド政府の依頼を受けて、「妻から夫への暴力は、夫から妻への暴力と同じくらい深刻な社会問題である」とする研究論文に信頼が置けるかどうかという分析を行った。その結論は Irish Times 紙 (12/04/2001) でも発表されたが、要点だけ簡単にまとめると、「妻から夫への暴力は、夫から妻への暴力と対等である」とする調査のほぼ全てが CTS という1つの指標に頼っており、他の複数の指標によってもたらされる結論と整合性を欠いている、これは CTS はドメスティックバイオレンスについて研究するための指標としては不適切であることを示している、というものだ。

では何故 CTS は駄目なのか。まず第一に、CTS では行為の頻度のみを調査しており、行為の強弱を区別していない。手のひらで頬を軽くひっぱたくのも、ゲンコツで顔面を強打して重傷を負わせるのも、全く同じ行為として記録される。また、同じ一度の暴力で殴る回数も考慮に入れていないので、1発殴るのも100発殴るのも全く同じ行為として記録される。

第二に、CTS では行為の目的を考慮していない。自衛のために相手の肩を押しのけるのも、相手を階段に突き落とすのも、同じ「押す行為」として記録される。もっと極端な例を出せば、夫が子どもを虐待しているのを止めるために妻が割って入ったら、「妻から夫に対して暴力がふるわれた」として CTS は記録してしまう。

第三に、CTS では「性暴力」や「性行為の強要」を暴力行為の一種として含んでいない。この事実は、夫による妻への暴力行為を実態より低く見積もることに繋がると考えられる。

第四に、CTS は精神的・経済的な虐待などを考慮に入れない。長年の精神的虐待が起きている関係において精神虐待の加害者の側が手を出すのも、追いつめられた被害者の側が手を出すのも、全く同じ扱いをされてしまう。

第五に、CTS は過去1年に起きた行為しか調査の対象としない。それより長く虐待が続いていたとしても、無かったことと同じにされてしまう。

第六に、CTS は現時点でも結婚しているカップルだけに適用される。激しい暴力の結果離婚や別居に至ったケースははじめから除外されている。また、よりDVの危険が高いとされる未婚の若いカップルは調査に含まれていない。

第七に、当たり前だけれど CTS は生存しているカップルだけに適用される。つまり、殺人という究極の暴力を「暴力行為」の定義に含んでいない。いくら激しい暴力が行われていても、被害者が死んでしまえば調査対象から自動的に外れてしまう。

このように、ドメスティックバイオレンスの深刻さを測る指標としては CTS は全く適さないし、もともとそれを目的に作成された指標ですらない。CTS を濫用して「妻による夫への暴力の方がより深刻だ」と主張する論者が絶えないことについて、その CTS を考案したストラウス氏自身はこう言っている。「CTS は暴力の深刻さを測る指標ではなく、ドメスティックバイオレンス研究に使うべきではない。CTS 似よって『暴力的』と判断された女性たちの多くは、自分の命や子どもたちを守るためにやむを得ず自衛行為を取っているだけの人たちだ。」(Newsday, 02/22/1994)

こうして見ると分かる通り、「女性から男性へのDV」が「男性から女性へのDV」と同じくらい深刻な社会問題であるとする根拠は全くない。もちろん、だからといって男性被害者への支援体制を整えなくても良いわけでもなければ、女性加害者の暴力を許せるわけでもないが、男性と女性が同じくらいの頻度で被害を受けているとか、あるいは男性の方がより被害を受けているというウソを垂れ流さずとも「性別に関係なく、あらゆる形態のDVへの対策」を推進することはできるはずだ。そもそもわたしはクィア・コミュニティにおけるDVを専門として扱ってきた事もあるくらいだから、別の意味から「女性=被害者」「男性=加害者」という決めつけを打破したい気持ちは同じだけれど、現実問題として異性同士のカップルにおいてDVの被害を受ける事が多いのは女性であるという事実をウソでかき消してはいけないと思う。

6 件のコメント - “「女性から男性へのDVは男性から女性へのそれと同じくらい頻繁」というウソ”

  1. しゅう のコメント

    日本では、DVという用語はTVのCMを通じて急速に普及したんですけど、
    そのときのフレーズが、「夫、恋人からの暴力」だったんですね。
    つまり、用語そのものは普及しても、概念からは男性被害者が完全に置いてけぼりを食らったわけで、
    とりあえず、0を1にするための過激なプロパガンダの一つだったのかなあと(゜゜

  2. トニオ のコメント

    普通に考えれば、体力の面でそんなことはありえないって分かりそうなもんですがね。
    なんというか、ここまでくると「家畜人ヤプー」を連想してしまうのですがw

  3. Macska のコメント

    そう、普通に考えれば当たり前なんですけど、スタインメッツだとかストラウスだとか研究者名を挙げて「こうした調査結果もある」みたいに言われたら反論しづらいでしょ。「男のDV被害」について誇張した数字をあげているのは今回紹介した3人だけなので、これだけ知っておけばもう完璧(笑)

  4. 芥屋 のコメント

    全然関係ないんですが、

    >macskaさん、しゅうさん、xanthippeさん

    私のところ、サーバダウンしてましたが回復しました。
    ご連絡まで。

  5. 鉄人ママの社長ブログ のコメント

    DVもいじめも薬物依存も犯罪です
    私はDVの被害者です

    ブログを始めた時からそのことを
    いつか必ず書かなければいけないと思ってきました

    ただ、私は実名でこのブログを書いていますので
    前夫に迷惑がかかる内…

  6. ゲスト のコメント

    なんで、
    ア・ナ・タ・ハ・ワ・ル・ク・ア・リ・マ・セ・ン
    てわかったんですか?事情も知らないで。あたまおかしいでしょ。あなた。

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