重なり合うエキゾティシズム:ハワイ観光産業と「トランスジェンダーの売春婦」番組

8/16/2005 - 6:37 pm | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

14日付のホノルル・アドバタイザー紙の記事で、今月末にケーブルテレビ局HBOで放映される予定のドキュメンタリ番組「Downtown Girls: The Hookers of Honolulu」及びそれに対するハワイ観光当局筋の懸念について読む。HBOでは以前から性産業の実態を見せる生々しいドキュメンタリを多数放映しており、覗き見主義的な視線に違和感を感じつつも単純に性労働者を「被害者」として映すのでもなく、また性的に解放された人による自己決定として美化するのでもない制作姿勢はそれなりに評価していたのだけれど、今回の番組ではハワイ・ホノルルの繁華街で売春している「トランスジェンダーの」女性の実態を明らかにする内容となっているという。

HBOのうたい文句は、こうだ:

Aloha! Welcome to Paradise – Honolulu, Hawaii, a tourist’s delight and hooker’s dream. Here, on the downtown strip, you can get almost anything, including a date with some of the sexiest she-male and transgender prostitutes on the island. As we learn in this documentary, when it comes to playing “the Game” in Hawaii, “Boys will be girls.”

熱帯の観光地ハワイ。それはまた、米国によって王国を転覆させられ、植民地化され、軍事拠点化され、太平洋戦争では日米帝国主義間の戦場となり、戦後は東アジア系資本によって占拠された島々でもある。「アロハ!」という挨拶に始まり、ハワイを「楽園」と描写するこの謳い文句から明らかな通り、このドキュメンタリのプロデューサは植民地としてのハワイのエキゾティシズムに「トランスジェンダー」「シーメール」のエキゾティシズムを重ね合わせる形で白人視聴者に訴えかけている。白人観光客がそこに求めるのは、土地を奪われ文化を破壊され今でも貧困と麻薬に苦しむ多数のハワイ先住民族の現状ではなく、かれらの伝統的なジェンダーであるマフ・ワヒネ(ハワイ先住文化における第三の性)たちを強引に欧米文化の基準で「シーメール」「トランスジェンダー」と区分して性的対象とすることで二重にも三重にも折り重なった性的・文化的な支配の構図だ。

ホノルル・アドバタイザーを読んでみると、このドキュメンタリにハワイの観光当局は困惑しているらしい。

But tourism officials are concerned that this documentary may hurt Hawai’i’s image as a safe and pristine destination […] “Anything like this airing on a national basis is not good,” said state tourism liaison Marsha Weinert, who did not know about this documentary until contacted by a reporter. “It concerns me that a documentary like this would be aired … It will put all kinds of ideas in people’s minds. We have worked very closely with the (Honolulu) Police Department on such issues, and it’s unfortunate that something like this would be aired.” Weinert feels confident, though, that the documentary won’t shatter Hawai’i’s reputation as a safe city.

要するに、せっかく安全な観光地としてハワイを売り込んでいるのに、こんなドキュメンタリを放映されたらイメージが悪くなって迷惑だと言っているわけだ。しかし、それはとんでもない言いがかりだと思う。「アロハ」と言って民族衣装でフラダンスを踊る先住民女性、といった形で性的対象化されたエキゾティックなイメージを最大限に利用して観光客を集めておきながら、路地での売買春について取り上げられるのはイメージが悪くなるなんて、全く人をバカにしている。そもそも、観光産業と性産業(さらに言えば軍事基地と性産業)は切り離せない関係にあるはずで、本音ではさんざん観光客を集めるために利用しているくせに、建て前としては「困った問題だ」と決めつけるんだから。

そもそも、あれだけ大きなリゾートホテルがたくさん並んでいる土地は、先住民から無理矢理奪い取った土地でもあり、一部のホテルは先住民たちにとって宗教的に重要な聖地であったり墓場であったりしたものを破壊して建設されている。今生きている先住民の多数が貧困や麻薬に苦しみ、先住民の女性やマフワヒネの多くが売春によってようやく家族を養っているといった現状のそもそもの原因を作ったのが米国の軍隊であり、観光産業資本なのだ。そういう順序を忘却してマフワヒネの売春婦たちを邪魔者扱いする資格が観光産業にあるわけがない。

要するにHBOと観光産業との対立は「本音」と「建て前」の対立でしかなく、ハワイやマフワヒネの売春婦に対して向けられる植民地主義的・人種差別的・性差別的に形成された暴力的な視線をエキゾティックなイメージとして商売にしている両者は共犯関係にある。そしてまた、共犯同士の小さな揉め事を「論争」として報道し、その一方マフワヒネの人に一切インタビューしようともしなかったこの新聞の記者だって同罪だ。っていうか、そもそも何よその「アドバタイザー(広告屋)」っていう紙名は(笑)

米国本土の先住民が置かれた苦境にわたしは同情するけれど、それに対して日本人として、あるいはアジア人として責任のようなものはあまり感じない。だけれど、ハワイの先住民が置かれた境遇には、もともとの植民者である白人に代わってハワイの支配者となった東アジア資本に大きな責任がある。例えば、米国で政府が統計に使う5つの人種カテゴリの1つに「アジア系・太平洋諸島系」というものがあるが、このカテゴリが成立した裏には自分たちの勢力を実態より大きく見せようとするアジア系アメリカ人実力者と、補償や保護の対象となる「アメリカ先住民」というカテゴリに含まれる人数をできるだけ減らそうとする白人権力者の取り引きがあった。これにより、「アジア系・太平洋諸島系」という呼称だけが一人歩きしてそれを掲げた団体などがたくさん作られても、その実態は「アジア系」のみであり、ハワイ先住民ら太平洋諸島の先住民たちはその存在さえ抹殺された。

現在でもハワイの政治及び経済を支配するのは日系・中国系・フィリピン系らアジア系のアメリカ人たちであり、彼らアジア系指導層は白人支配者と比べて「同じ有色人種」であるはずのハワイ先住民の権利により関心を持とうとはしない。先住民の土地を奪い、また先住民文化の醸し出すエキゾティシズムを利用することで彼らアジア系資本はハワイの観光業を成功させてきたというのに、貧しい先住民たちは犯罪や麻薬や売買春によって観光地としてのブランドの価値を損なわせる邪魔者としてしか見られていない。そういった問題に「同じアジア人として」心を痛める一人として、HBOによる搾取的なドキュメンタリ放映も、それに対する観光当局のウソくさい「困惑」も、放ってはおけないような気がした。

とはいえ、HBOはとてもわたし個人の手に負えない相手なんで、LGBT コミュニティのためのメディア監視団体、Gay and Lesbian Alliance Against Defamation (GLAAD) の関係者にメールして対策をお願いしておきました。もちろん、この問題を単にトランスジェンダーの問題と捉えずに、ハワイ先住民の団体やマフワヒネの団体とも連絡を取って行動するよう一応注意も書いておきました。GLAAD では早速HBOに連絡してドキュメンタリを見せてもらい、問題があると分かれば何らかの対策を取るらしいです。そのときはわたしもできることはやらせてもらうつもり。さてどうなることやら…

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