覚悟してボーンスタイン『隠されたジェンダー』(筒井真樹子訳)を読もう

9/2/2007 - 9:29 am by macska このエントリーを含むはてなブックマーク

筒井真樹子さんの翻訳で Kate Bornstein『隠されたジェンダー』(原題 “Gender Outlaw: On Men, Women, and the Rest of Us“)が出版される。訳者による紹介はこちら。10年以上前に米国で発売されたこの本は、わたしにとって初めてトランスジェンダーという言葉と出会った本であり、著者のボーンスタインはわたしが初めて直接会ったトランスジェンダーを自称する人。それだけに、いまの視点から読み直すと批判すべき点は多々あるのだけれど、個人的には重要な本だ。

book coverこれは何もわたしに限ったことではなくて、トランスジェンダーという存在をボーンスタインを通して初めて知ったという人は少なくない。というのも、(米国の)一般メディアでトランスジェンダーの作家として初めて大きく取り上げられたのがこの人だったから。それまで「男性として生まれたが自分は本当は女性だ」と語るトランスセクシュアルの人ならトークショーなどで見世物として興味本位に取り上げられることはあっても、「自分は女性だと思って男性から女性にトランジションしたけれども、自分は女性でもなかった」と言うボーンスタインには衝撃を受けた。

もちろん一般メディアの多くはその重大さも分からずに、「女性ではないということは、男性だろう」と扱ったり、あるいは「トランスセクシュアルの人たちはみな男性でも女性でもない」と決めつけたりするなど、ボーンスタインの意図を理解していない様子も見受けられた。ボーンスタインは自分だけが特別なカテゴリだとかトランスの人たちが特別なカテゴリだと言っているのではなく、わたしたち一人一人の多様なあり方が二元制によって抹消されていることを自分の経験を通して訴えているのだ。だけどそうした誤読がなされることは、第三項を消去もしくは放逐しようとする男女二元制の強固さを示しているとも言える。

このように一般メディアの注目を浴びた理由の一つは、「Gender Outlaw: On Men, Women, and the Rest of Us」というタイトルの巧みさがあったと思う。トランスセクシュアルの人を含め、ほとんどの人たちが人間は「男性/女性」に分けられるという前提を意識すらせずに共有しているなか、「男性、女性、そしてその他のわれわれ」というタイトルは興味を引く。ところが邦訳のタイトル『隠されたジェンダー』というのはそのあたりがちょっと残念。筒井さんの日記(RSS配信してくださいー)によれば、もともと Gender Outlaw の直訳として『性別無頼』という邦題を提案していたそうだけれど、『性別無頼』の方が絶対良かった(ていうか、カタカナで『ジェンダー・アウトロー』でも良かったのでは)。

『隠されたジェンダー』というのは、本の終盤に掲載されている戯曲「隠されたもの・ひとつのジェンダー」から取られたのだろうけれども、この部分の原題は「Hidden: A Gender」。これは明らかに「hidden agenda」にかけてあり、さすがにそこまで訳出はできなかった様子。この第十五章、そしてボーンスタインの最新作『Hello Cruel World: 101 Alternatives to Suicide for Teens, Freaks and Other Outlaws』に繋がるモノローグが掲載された第十六章はよく読み飛ばされるのだけれど、この本で一番重要な部分だと思う。

しかし、戯曲の内容といい、この本を翻訳して出すということは、筒井さんはトランス業界じゃなかった、GID業界の袋だたきを覚悟しているのだろう、すごいなぁと感心。読む側も、「普通」だったこれまでの自分を捨てる覚悟を決めてから読みましょう。

9 件のコメント - “覚悟してボーンスタイン『隠されたジェンダー』(筒井真樹子訳)を読もう”

  1. makiko のコメント

    訳者降臨させていただきます。
    agenda=agenderで、かつthird genderなので、こういうタイトルになりましたが、
    自サイトで書いたとおり、性別無頼がやはりよかったかな、という気は今でもしています。

  2. makiko のコメント

    「性別無頼」は自分用に使おっかな?
    ブログタイトルにするか、講演とかに出る際の肩書に使うか。
    日本酒作って売るか(笑)

  3. macska のコメント

    日本酒「性別無頼」すごい…

  4. さぷり のコメント

    初めてコメントします。いつも興味深く拝見しています。
    「隠されたジェンダー」がまさかgender outlawのことだとは、思いませんでした!
    繰り返し読んだ・・というか先生に読まされた・・私にとっても思い出深い本です。
    翻訳されるだけで、意義があると思います。すごく嬉しい。
    訳者さんの果敢な挑戦に感謝します。
    でも私も・・・「性別無頼」に一票・・!!でしたw

  5. 猫まんこ のコメント

    「性別無宿」のほうがいくない?

  6. makiko のコメント

    「性別流れ者」もいいかもw
    1960年代の日活活劇のタイトルを眺めたらいろいろ浮かんできますが、
    そんなことしていたら5つ下の本の著者に、逸脱を強調するのは男性の文化だ、
    とか叩かれそうで。新水社の編集者さんが気にしたのもその辺があるようです。

  7. トーキョー・カタルシス のコメント

    ケイト・ボーンスタインの『隠されたジェンダー』…

     本日のブログは、最近購入した本『隠されたジェンダー』について。
     この本は、1995年にアメリカで発売されたケイト・ボーンスタイン著『Gender Outlaw: (more…)

  8. Anno Job Log のコメント

    [本]「隠されたジェンダー」…

    「隠されたジェンダー」拝読。 原著の「gender outlaw」はその昔読んだ記憶はあるのだが、芸術的な文章・構成で今ひとつ理解できなかった。 それが今回、筒井真樹 (more…)

  9. kerorou★ のコメント

    初めてコメントします。
    macskaさんのブログでこの本を知り、自分の事だと思って読みました。
    巻末に「用語集」がついているのがいいですね!
    今後も良い本の紹介を期待しています★

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