トランスジェンダーを含まない「性的少数者雇用差別禁止法案」は撤回せよ

8/5/2004 - 12:03 am | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

翻訳シリーズ第2回、今度は National Gay and Lesbian Task Force の代表 Matt Foreman 氏の声明の翻訳。LGBTの運動がゲイやレズビアンの権利に比べてトランスジェンダーの権利を下に置いている傾向があるという問題があるけれど、それについて過去に間違いをおかしたゲイの指導者がそれを反省した上で、どこが間違っていたのかを書いた文章です。

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トランスジェンダーを含まない「性的少数者雇用差別禁止法案」は撤回せよ

2004年8月3日

全国ゲイ&レズビアン・タスクフォース
マット・フォアマン代表 声明

何年ものあいだ、わたしたちのコミュニティでは(性指向を理由とした)雇用差別禁止法案におけるトランスジェンダーの位置づけについて議論が続けられてきました。しかし、いまは議論を続ける時ではなく答えを出す時です。雇用差別禁止法案は保護対象にトランスジェンダーの人たちを含むように修正されるべきであり、修正がなされないのであれば法案自体から距離を置くべきだという答えです。

わたしのこうした発言を聞いて、この上ない欺瞞だと感じる人がいたとすれば、それはよく理解できます。なんと言っても、ニューヨークでゲイ・レズビアン・バイセクシュアルの人たちを保護し、トランスジェンダーを保護しない「性指向を理由とした差別禁止」の州法が成立した時、わたしはエンパイア・ステート・プライド・アジェンダ(ニューヨーク州の性的少数者の権利を主張する団体)の代表だったわけだから。後から考えてみれば、自分はニューヨークで間違いをおかしたとしか言えません。その辛い経験から、わたしは雇用差別禁止法案にも関係のある3つの教訓を学びました。

最初の教訓は、政治家が最初に口にする事、すなわち「トランスジェンダーを法案に盛り込むと廃案になる」という言葉を鵜呑みにするなということです。ニューヨークの州議会では、上院・下院のそれぞれの執行部がすべての事に関して大きな権限を持っていたのですが、これまで何年ものあいだ、民主党が多数を占める下院の執行部に「ジェンダー・アイデンティティ」を含むよう求める度にあっさりと拒否されてきました。裏では、議員たちは「君たち同性愛者のことについて他の議員たちに理解してもらうまで長い時間がかかったんだ、トランスジェンダーなんてとんでもない」と言っていました。(これより酷い事もいろいろ言われましたが、戦略上の理由から明かせません。政治に関わるというのはそういう事です。)

わたしたちがこうした発言を受け入れたのは、受け入れざるをえないと思ったからです。この問題にいつまでもこだわっていると、ヘイト・クライム対策の法律を作ったり、同性婚禁止の憲法修正を押し止めたり、公衆衛生行政や社会サービスにおいて性的少数者を対象としたプログラムの予算を勝ち取ったりするという別の問題に集中できなくなるとわたしたちは思ったのです。

後付けで言うならば、こうした判断は間違っていました。有権者が強く要求するならば政治家はそれに答えざるを得ないのだし、そもそも有権者には政治家に何を要求するか決める権利があるはずです。もし法案にトランスジェンダーを含むよう何年も前から主張していれば、それがすぐに実現することはなかったとしても、いつかは実現していたはずです。わたしがトランスジェンダーを含むことに抵抗していた理由の一部は、わたしたちはほんの少ししか勝ち取る事ができず、あまりに多くを要求すると全てを失ってしまうという思い込みでした。しばらく運動を続けているうちに、より多くを要求すればより多くが実現し、より強く圧力をかければより早く実現するとわたしは気づきました。

タスクフォースで仕事をはじめて以来、トランスジェンダーを含んで欲しいという要求を州や自治体の政治家たちが拒絶するのを何十回も見てきました。それに対してわたしたちのコミュニティが団結して「トランスジェンダーを含むことは譲れない」と答えたとき、ほとんど全てのケースにおいて政治家たちは考えを改め、トランスジェンダーを含む法律や条例が進展してきました。

雇用差別禁止法案もそれと似た状況にあるように思います。われわれの代弁者であるバーニー・フランク氏[1]を含め、雇用差別禁止法案の賛同者たちは、トランスジェンダーを追加することは法案自体の成立可能性を潰すことになるとか、一部の賛同者が反対に回る危険があるとしんじているからです。(バーニーやわたしたちのロビイストたちも、わたしがアルバニー[2]で聞いたのと同じようなトランスジェンダーについての酷い言葉を聞いているに違いありません。) わたしたちの側は、同性婚などの重要な問題が控えている時期に、トランスジェンダーの権利を訴えることで大切な味方の議員たちを怒らせることはできないと思いがちです。

しかし、わたちたちのコミュニティには選択肢があります。わたしたちの味方というからには、トランスジェンダーを含めない法案では不十分だと言い聞かせる必要があります。丁寧な説得をいくら続けても、トランスジェンダーを含まない雇用差別禁止法案をわたしたちが支持し続ける限り効果はありません。確かに、そうすることで一部の賛同者が反対に回るかも知れません。しかし、訂正された雇用差別禁止法案しかわたしたちは支持しない事をはっきりさせた時、本当の友人たちは逃げないはずですし、仮に一時的に反対してもまたこちらの陣営に返ってくるでしょう。

わたしが学んだ二番目の教訓は、できるだけ早い段階で法案にトランスジェンダーを含めておくべきだということです。そうすることで、長い時間を置いてついに動き出した時、何もしないための口実にトランスジェンダーが使われないようにできるのです。さらに言うなら、「この部分さえ妥協すれば今年こそ〜が実現する」という考え方に騙されないという事も必要です。

ニューヨーク下院において、性指向差別禁止法案は20年近くもの間無視され続けた挙げ句、1993年より少しずつ支持を広げながら毎年可決されてきました。その度に、来年こそ共和党が多数派を形成している上院でも可決できると信じてきたのです[3]。後から考えると、「もう少し圧力を強くさえすれば(あるいは口を開きさえしなければ)」「連邦議員からの支援さえあれば」「州知事の支持さえあれば」「民主党が共和党との取り引きにもっと力を入れてくれれば」というような、「〜さえすれば法案は成立するのだ」という思考法に囚われていたと思います。

あと何か少しやりさえすれば望みがかなうと思ったとき、そのチャンスをふいにする事をおそれて誰かの機嫌を損ねそうなことはやらないものです。法案成立まであとほんの少しという場面に来て、今のままの法案では不十分だと言って支持を撤回する自信がわたしたちには無かったのです。これも、わたしがトランスジェンダーの権利を含むようあまり強く要求して来なかった理由の1つです。

今になって考えるなら、「〜さえすれば」という思考方法自体が、わたしたち自身の勝手な思い込みであると同時に、支持者が自分から離れることをおそれた議員たちがぶらさげるニンジンであり、議会閉会とともに消滅する種類のものであることに気づくべきでした。性指向差別禁止法を成立させるには、共和党の議員たちと話を付けなければいけなかったということに気づくべきだったのです。

今になって考えるなら、民主党の議員に対してトランスジェンダーの権利を含むよう何年も前に要求していたとしても決して法案が潰れたり成立が遅れる理由とはならなかったことは明らかであり、そのように要求しなかったことは間違いでした。わたしたちが過去にそうして来なかったから、30年間の時間をかけて共和党にも支持を広げてついに上院でも法案が提案された時、検討されたのは下院で何度も可決された、トランスジェンダーを含まない法案だったのです。(するとこれまでトランスジェンダーの権利を否定してきた民主党の下院議員は、共和党さえ先に支持するならトランスジェンダーを含めても良いと言い出すのです。なんとまあ。)

わたしには、連邦議会における雇用差別禁止法案が、ニューヨークの性指向差別禁止法と同じ腐敗に囲まれているように思います。雇用差別禁止法案が最初に提案された1994年は、連邦議会の上院・下院とホワイトハウスを全て民主党が支配していた、希望に溢れた頃でした。70年代前半にタスクフォースが推進した全般的な市民権保護法案ではなく、世論の支持を受けやすい雇用差別禁止だけに絞った法案が提案されたのです。当時、雇用差別禁止法が成立する可能性は十分にありましたし、1996年にはあと1票で上院を通過するというところまでたどりつきました。しかし、下院が同意する可能性は当時から非常に低かったですし、それは現在も同じです。

にも関わらず、わたしたちは「〜さえすれば」という考え方にとらわれてきました。クリントン大統領が共和党と交渉さえしてくれれば、ゴア副大統領が大統領に当選さえしてくれれば、共和党の中道派が指導部に圧力をかけてくれさえすれば、民主党が議会の支配権を取り返してさえくれれば、ジョン・ケリーが今度の大統領選挙で当選さえしてくれれば、という具合にです。

はっきり言うと、仮に11月の選挙で大半の反対派が落選したとしても、雇用差別禁止法案が近い将来成立する可能性はほとんどありません。そうであれば、なおさら今こそトランスジェンダーを含むような訂正をする時です。そうすることで、次に様々な条件が揃って雇用差別禁止法案が成立する見込みが出てきた時、わたしたちみんなが賛同できることになるわけですから。わたしはゲイ・レズビアン・バイセクシュアルのニューヨーク住民たちが現在差別から保護されている事に誇りを感じていますが、トランスジェンダーを含むよう強く求めなかったという間違いを後悔しない日はありません。

最後に、わたしにとって認めるのが難しい教訓があります。それは、わたしがトランスジェンダーの人たちに対する偏見や無関心を抱いている事に無意識的であったということです。議員たちは結局、「あなたたちきちんとした身なりのゲイたちはOKだけど、他のやつらはダメだね」と言っていたわけです。今になって考えるとわたしは、ゲイはトランスジェンダーと違った真っ当な人間であるという偏見に無言で加担していたのです。そういう前提で話す限り、ゲイとトランスジェンダーは違うのだから違った対応をしても良いという論理を持ち出すのは簡単なことです。

この点について、トランスジェンダーを含まない雇用差別禁止法案を今でも支持している人たちが自分と同じ偏見を共有しているのだと決めつけるつもりはありません。わたしたちのコミュニティの多くの人たちは、今でもゲイとトランスジェンダーの問題がどのように繋がっているのか、なぜトランスジェンダーの権利を守るためにわれわれみんなが努力しなければならないのか理解していないのです。こうしたことは、わたしたちが団結してトランスジェンダーを雇用差別禁止法案に含めることを強く要求することへの障害となっています。

いま、こうした状況は変わらなければなりません。今ある形の雇用差別禁止法案を廃止し、わたしたち全ての権利を守る新しい差別禁止法を推進しましょう。

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[1] マサチューセッツ州選出の下院議員。ゲイであることを公言している。
[2] ニューヨーク州都。
[3] ニューヨーク州議会は二院制なので、両院で可決されない限り法律は成立しない。

2 Responses - “トランスジェンダーを含まない「性的少数者雇用差別禁止法案」は撤回せよ”

  1. Yoko Says:

    8日の365Gay.comにこんな記事が出てました。

    Gay Rights Groups Move To Shore Up Relations With Transgendered
    http://www.365gay.com/newscon04/08/080804tgHRC.htm

    Human Rights Campaignと言えば、Cheryl Jacquesがパートナーと結婚したそうですね。

  2. “みんな”で、“対等なかたち”で、パレードを!(その1) | ひびのの主張/テキスト作品 Says:

    […] ●トランスジェンダーを含まない「性的少数者雇用差別禁止法案」は撤回せよ LGBTの運動がゲイやレズビアンの権利に比べてトランスジェンダーの権利を下に置いている傾向がある […]

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