悪徳業者から生まれたカオスなソーシャル・ネットワーク――フレンドスター・フェイスブックに対する、マイスペースの異質さ

2/16/2011 - 6:43 pm | このエントリーをブックマーク このエントリーを含むはてなブックマーク | Tweet This

昨年夏にメールマガジン『αシノドス』及びブログ『シノドスジャーナル』に寄稿させてもらった記事「Facebookの普及に見る米国の社会階層性と、『米国=実名文化論』の間違い」が、ふたたび読まれている。ベン・メズリック著『facebook』などを参考にしつつ、世界最大のソーシャルネットワークサービス(SNS) フェイスブックの誕生と初期の発展について、米国社会における階級意識などを通して論じた記事だったが、そのメズリック本を原作とした映画『ソーシャル・ネットワーク』が日本でも一月に封切りされたことをきっかけに、「映画を観る前の予習として」あるいは「映画をより理解するために」として、ブログやツイッターなどでこの記事が紹介されているようだ。映画をきっかけにフェイスブックにアカウントを作った人も多いようで、ようやく日本でもフェイスブックが流行るか、それとも一時の流行で終わるか、注目される。

さて一方、そのフェイスブックにトップの地位を追われたSNS、マイスペースについては、大規模なリストラがあったとか、親会社のニューズ・コーポレーションが売却先を探しているだとか、このところ悪いニュースしか聞かない。わたしのフェイスブックについての記事でも、どのようにフェイスブックが先行していたマイスペースからユーザを奪ったかは書いているけれども、そもそもマイスペース自体がどこから来たのか、どのようにして人気を得たのかを知る人はどれだけいるだろうか。若き日のビル・ゲイツやスティーヴ・ジョブスが登場するパソコン黎明期の物語は人気があるが、映画『ソーシャル・ネットワーク』がヒットしたことからも分かるように、SNS黎明期の物語もなかなかおもしろいので、今回はそのマイスペースがニューズ・コーポレーションに買収されるまでの前史を紹介したい。

二〇〇三年、ビジネスモデルがあるのかどうかすら怪しい数多くのインターネット企業が創業してはつぶれていったあと、生き残ったイーユニバース(のちにインターミックス)というインターネットマーケティング企業のプロジェクトとして、マイスペースは生まれた。それまでイーユニバースは、洗練された技術者の会社というよりは、泥臭く犯罪スレスレなマーケティング(販売戦略)を得意としており、突出した技術やアイディアを持つフェイスブックや、マイスペース以前に有力だったSNSのフレンドスターとはまったく異なる出自の企業だった。というのも、マイスペースが生まれる以前のイーユニバースの主要な事業は、スパム(相手の承諾を得ずに送る迷惑な広告メール)の送信、スパイウェア(ユーザが訪れているサイトなどの情報を収集する悪質プログラム)の配布と、それを使ったポップアップ広告の表示だった。

とくに成功したのは、米国で九・一一同時多発テロ事件が起きた直後に無償で配布した、Windowsのカーソルをたなびく星条旗に変えるソフトだ。この「愛国的な」カーソルは雑誌やブログなどさまざまなメディアで紹介され、広くダウンロードされたが、インストールすると同時にユーザのパソコンにスパイウェアが組み込まれ、知らない間にパソコン利用情報がイーユニバースのサーバに送信されてしまうばかりか、ウェブサイトを閲覧中にポップアップ広告が多数表示されることになる。こうしたスパイウェアは、除去ができるだけ難しくなるような形でインストールされるように、という幹部の指示のもと設計されていた。

スパムやポップアップ広告で宣伝されたのは、他企業の製品であったり、イーユニバース独自の製品であったりしたが、怪しげな健康食品や美容クリーム、「金持ちになる方法」「異性にモテる方法」「痩せる方法」などといったインチキ電子書籍(十ページほどのPDFファイルだったらしい)など、まともな商品とは到底思えないようなものばかりだった。後期には中国の工場と契約して格安のミニスクーターのようなものを販売したが、品質に難があり苦情が多く寄せられた。

これらの事業により、イーユニバースは悪評を得ることとひきかえに利益をあげていったが、それも長くは続かなかった。スパムを規制する連邦法ができたほか、スパイウェアを使ったマーケティングに各州で捜査の手が伸び、ニューヨーク州では七九〇万ドル(六億五〇〇〇万円)の罰金を支払わされた。あわててオプトイン形式(受け取る側が、広告受け取りを承諾したうえでリストに記載される方式)のメール広告事業をはじめるが、美容クリームのありもしない効用を宣伝したことで訴えられるなどトラブルは続き、会社の存続も怪しくなった。そうしたときに、当時人気を集めつつあったSNSサイト・フレンドスターを短期間でまるまるコピーして、起死回生をかけてはじめたのがマイスペースだった。

フレンドスターの物真似サイトとしてはじまったマイスペースだが、出会い系でありながらどこか上品な(あるいは、ぬるい)ところがあったフレンドスターに対し、上品とはかけ離れた企業文化を持つイーユニバースが作ったマイスペースには、そのカオス的な特徴が強く反映された。もともとフレンドスターは原則的に実名制のSNSであり、有名人など他人の名前を騙った「フェイクスター」や架空の人物のページは徹底的に排除されたし、規約が厳しく性的に刺激的とされた写真を掲載したり、不適切な言葉を使ったページなども頻繁に削除されていた。しかしマイスペースはそれらフレンドスターから排除されるような部分を全て取り込む戦略を取った。たとえば、フレンドスターでは排除されがちだった、ポルノ俳優やグラビアモデルを積極的に勧誘してプロフィールページを作らせることで、かれらのファンなどを集めることに成功した。

マイスペースといえばインディーズバンドが使っているSNSという印象を持つ人も多いと思うけれども、イーユニバースが本拠を置く南カリフォルニアのインディーズシーンを中心にバンドを勧誘してマイスペースにプロフィールページを作らせたのも、同じ戦略によるものだ。そのために、早い段階でユーザが自分の音源をアップロードしてプロフィール上から再生できるような仕組みを提供したが、そこに著作権保護の仕組みが追加されたのはかなり後のこと。つまりバンドが自分たちの音楽をアップロードするだけでなく、一般のファンが好きな音楽を違法にアップロードして鳴らすことも半ば放置することで、幅広い音楽ファンを集めようとした。

しかし、なんといってもマイスペースの成功の一番の秘訣は、ユーザがプロフィール欄にHTMLやCSSやJavascriptのコードを直接書き込むことで、プロフィールの外見や内容をかなり自由に変更できるようにしたことだ。いや、「したことだ」というのは厳密には間違いで、実際には単なるバグというか、プログラミングの不備によって、それらのコードが有効になってしまっていた。すると、それを利用してマイスペースのプロフィール欄に「コピペ」可能なフォトスライドショーやその他のスクリプトを提供する人や企業もあらわれてくる。フェイスブックがアプリケーションAPIを公開して、ほかの開発者たちがフェイスブックで動くさまざまなアプリケーションを提供できるようにするはるかに前に、マイスペースではプログラムのバグを利用することで第三者が開発した「ウィジェット」を自分のプロフィールに組み込めるようになったのだ。

普通なら、ユーザがプロフィールなどを書きこむ欄から入力されたテキストは、そのままサーバで実行されたりブラウザでコードとして解釈されないように、フィルタをかける。それをかけないと、サーバで不正なコマンドを実行される危険があるし、そうでなくてもおかしな画像が表示されたり、サイトのデザインが崩れて見えたり。ブラウザによっては何も見えなくなってしまうおそれもある。そのフィルタをかけ忘れていたというのは、はっきり言ってありえないミスであり、企業の信用にもかかわる問題だから、普通ならすぐに直すところだ。

しかしマイスペースは違った。かれらは、プロフィールページの外見を自由に変更できるという「機能」が主に高校生に爆発的にウケていることに気づくと、あえてそのまま放置することにした。そのため一時期、マイスペースといえば「チラチラする悪趣味な背景」「チカチカ点滅するウザい文字」「無駄にスクロールする見出し」「変な色やサイズの文字」「デザイン崩壊」など、とにかく見るだけで気分が悪くなりそうなページが多かったけれども、イーユニバースはあえてそれらを放置・放任したのだ。優等生的な技術者の会社であるフレンドスターやフェイスブックには到底容認できないようなこうしたカオスやデタラメさを許容する土壌が、悪徳商法をやりつくしたイーユニバースにはあったのだろう。(このあたりのカオスな感じは、わたしは個人的に見たことがないのだけれど、「魔法のiらんど」によく似ている、と当時マイスペースにもアカウントを持っていた日本の友人に言われたことがある。)

イーユニバースのデタラメさを示すもう一つの証拠(そして、そのデタラメさが結果的にうまく働いた例)として挙げられるのが、一時期マイスペースユーザのプロフィールページを訪れるとほぼ必ず表示されていた「この人はあなたのネットワークに繋がっています」という文だ。これが何を意味しているのか説明するには、マイスペースやフレンドスター以前のSNSにさかのぼる必要がある。

初期のSNSでは、たとえばその代表的なSixDegreesというサイトの名前に典型的だけれども、「degree of separation」という考え方が重要だとされていた。日本語にすると「離れている程度」という意味になるが、自分と直接繋がりがある友人を一とすると、その友人の友人が二,そのまた友人が三という具合に、その人がどれだけ自分の交友圏から離れているかを表現することができる。フィクションの世界では、古くから「世界中の人は六人の知人を通してみな繋がっている」というモティーフがあり、SNSはそうした知人のネットワークを可視化する仕組みだと思われていた。

そのため、初期のSNSではみな特定の他人に対して「直接の友人なのか、友人の友人なのか、あるいは間に何人か入る相手なのか」ということが、常に関心事とされていた。そして、フレンドスターや初期のマイスペースも、これに習って表示中のプロフィール主との「degree of separation」を表示するような機能があった。ところが、ある程度ユーザの数が増えてくると(というか、ある程度それぞれのユーザがリストアップしている「友人」の数が増えると)、ただ任意の二人のユーザの「degree of separation」を調べるにも、膨大な計算が必要になってくる。なぜなら、それを明らかにするには一方のユーザの全ての友人について、そのまた友人に相手が含まれるかどうかを調べ、いなければさらにそのまた友人にまで対象を広げて、どこかで繋がりが起きていないか調べる必要があるのだ。

そもそもSNSの発展における最大の難関は、スケーラビリティの問題だ。スケーラビリティとは、百人・千人程度のユーザ数のうちはうまく動くシステムが、数万人あるいは数百・数千万人のユーザ数を抱えたときに、どのようにスムースにそれだけ大勢のユーザからのアクセスをさばいていくかという問題だ。SNSでなくても、大勢のユーザがアクセスするサイトにとってスケーラビリティの問題が重大であることは、たとえばよくサーバが落ちていた時期の2ちゃんねるやツイッターを使っていた人はよく分かると思う。SNSはさらにその特徴として、それぞれのユーザ向けにカスタマイズされたページを表示しなければいけなかったり、その表示すべき情報自体がユーザ当人だけでなくその他多数のユーザの行動によって常に更新されていることが、さらにサーバの処理能力を必要とするため、スケーラビリティを確保するのが難しい。

少し話はそれるが、ここでスケーラビリティに関連して、ツイッターのタイムラインとフェイスブックのニューズフィード(ライブフィード)を比較してみたい。ツイッターのタイムラインには、自分がフォローしているユーザの発言が時系列で全て必ず表示されているが、それをサーバの側から見ると、いつアクセスされても必ず全てのユーザの最新発言のうちあるユーザがフォローしているものだけ全部表示しなければいけない、ということになる。それに対しフェイスブックのニューズフィードは、必ずしも全ての発言を表示するわけではないし、時系列でもなければ、最新のものを必ず表示するわけでもない。もちろんフェイスブックでも「Most Recent」というリンクをクリックすることによって、ツイッターと同じく最新の発言を時系列で表示することもできるが、多くのユーザはニューズフィードしか読まない。

フェイスブックのニューズフィードでは、ユーザ自身の過去の行動(「いいね!」ボタンをクリックしたり、コメントを付けたりなど)や交友関係のネットワーク分析などをもとに、ベイズ定理を応用したアルゴリズムによって、そのユーザが最も関心を抱いていそうな発言を優先して表示している。しかしそうした分析を全てのユーザに対して行うには、膨大な計算が必要とされるはずで、友人の数が増えれば増えるほど、スケーラビリティに問題が生じてきそうだ。しかし実際にサイトが異様に重かったり落ちていることが多いのは、単純に最新の発言を表示しているだけのツイッターの方なのだ。

もちろんその理由は単にフェイスブックのほうが頑強なシステムが構築されているというだけのことなのかもしれないけれど、わたしは処理が面倒そうなニューズフィードが実はフェイスブックにとって有利にはたらいているのではないかと思っている。最新・完全を義務付けられたツイッターのタイムラインと違い、フェイスブックのニューズフィードは必ずしも最新でも完全でもなく「そのユーザにとっての最善」を目指すように設計されている。最新・完全という縛りを外すことで、フェイスブックはニューズフィード表示に必要な膨大な計算を空いている別のサーバに分散してあらかじめ処理しておくなどして、スケーラビリティの問題を解決しているのではないか。といってもこれはわたしの想像に過ぎないので、詳しい人がいたら教えて欲しいところ。

話はそれたが、マイスペースが台頭をはじめた当時のフレンドスターは、まさにこのスケーラビリティの問題に直面していた。フレンドスターへのアクセスはとても「重く」なり、クリックしてからページが表示されるまでに三十秒、下手すると一分待たされるということも普通に起きていた。もちろんフレンドスターの技術者たちは、サーバ増強で対応できる部分は対応しつつ、より多くのサーバに分散して処理できる新たなプログラムを開発しつつあったが、かれらの努力や工夫はユーザ数の増加には追いつかなかった。

一方マイスペースも、ユーザが増えるにつれまったく同じ問題を抱えていた。しかしあるとき、マイスペースの技術者は、サーバを重くしている処理のかなり大きな部分が、「degree of separation」の計算だったと気付く。知人何人を介して繋がっているのか表示するだけのためにサーバの反応速度を大幅に犠牲にしているというのは、いまから思うと馬鹿らしい話。けれども、当時はSNSといえば「degree of separation」が表示してあるもの、という思い込みがあったため、フレンドスターの技術者たちは、いまから思えば当然の解決策――「degree of separation」の表示をやめる――を思いつかなかったのだ。

それに対し、SNSにとくに思い入れがあるわけでもなく、ただ流行っているから真似しただけのマイスペースの経営陣は、その当たり前の解決策を指示する。そして「degree of separation」に代わり、ただ「どこかで繋がっているかどうか」だけを調べて表示するような簡易な仕組みがマイスペースに導入された。それが「この人はあなたのネットワークに繋がっています」というメッセージの正体だが、この変更により、マイスペースはページ表示に必要な情報処理量を大幅に減らし、すなわちサーバの反応速度やページ表示速度を向上させ、さらにユーザをフレンドスターから奪うことに成功した。

マイスペースは、スパムやスパイウェア・ポップアップ広告という、ネットユーザの大多数が何よりも嫌うマーケティング手法によって悪評を広め、捜査まで受けたイーユニバース(インターミックス)という、腐り切った土壌で生まれた。しかしその持ち前のデタラメさとカオスへの許容度は、先行するフレンドスターという優等生的なSNSを追い抜くうえで、最大の武器になったと言っていいだろう。

と同時に、あまりのカオスとどこからか感じられる胡散臭さはニューズ・コーポレーションに買収されたのちも(あるいはニューズ・コーポレーションと合体することでさらに増幅されて)マイスペースにまとわりつき、それを嫌うエリート層から一般に広まった――はじめはハーヴァード大学に籍を置く人しか参加できなかった――フェイスブックによって取ってかわられることになった。その話は、冒頭で言及したフェイスブックと米国の階級意識についての記事をご覧いただきたい。

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(この記事は、メールマガジン α-Synodos(アルファ・シノドス)第69号(2月1日発行)に掲載されたものを再掲しました。)

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