Abortion & Life
著者/訳者:Jennifer Baumgardner
出版社:Akashic Books( 2008-09 )
定価:¥ 1,755
ペーパーバック ( 250 ページ )
ISBN-10 : 1933354593
ISBN-13 : 9781933354590
妊娠中絶問題をライフワークとしてきたフェミニスト活動家・ライターによる報告。米国のフェミニストたちは何十年ものあいだ「プロ・チョイス(選択賛成)」を掲げて「プロ・ライフ(生命賛成=中絶反対)」の保守派と対立してきたけれども、そうした固定化した対立構図そのものが多くの女性をフェミニズムから遠ざけているのではないか、と問いかける。著者自身ももちろん「プロ・チョイス」の立場からさかんにそうした論争に加わってきたのだけれど、ここ数年のあいだ妊娠中絶のタブーを崩そうと「I had an abortion.」(妊娠中絶をしました)と書かれたTシャツを中絶経験のある有名人やその他の女性に配布しつつインタビューを重ねてきたことでより複雑な視点を手に入れた。
「プロ・ライフ」のフェミニストはいるのか? この問いに、以前の著者なら「それはいない、女性が自分自身の身体をコントロールする権利を認めない人は、フェミニストと呼ばれる資格はない」と応えていた。しかし彼女は、次第に「プロ・ライフ」を口にする人が必ずしも女性の自己決定権を否定しているわけではないことに気付く。政府が女性の自己決定権を侵害することには反対だけれども、胎児を「選択肢」とは呼びたくない、それは一つの「命」であり、大切にすることに意味があるのだと感じる女性は(少なくとも米国では)多い。
ここにはもちろん、「プロ・ライフ」側の巧妙な宣伝がある。たとえば2008年の選挙で共和党の副大統領候補となったサラ・ペイリンは、明らかに女性の自己決定権に反対の立場であり、最高裁が妊娠中絶の権利を認めた Roe v. Wade 判決を覆すことを願ってやまない人物だ。しかしインタビューで彼女は「もし自分の友人や娘が妊娠中絶したいと言ったら、彼女を断罪するのでも糾弾するのでもなく、しかしすべての命は大切であり中絶すべきではない、どうしても育てられないのであれば出産して養子に出すようにと説得する」と言った。政治についてよく知らない一般の有権者から見れば、ペイリンの態度は真摯でなおかつ温情的であり、胎児の命を「女性の選択肢」と切って捨てるフェミニストは冷酷に見える。しかし現実には、ペイリンはその政治的影響力をもって女性から自己決定権を奪い取り妊娠継続を強要することを目論んでいるのであり、フェミニストたちこそが性教育の充実などによって望まない妊娠を減らすことや、育児の公的支援などによって子どもを育てやすいような環境を作ることを主張している。
著者は、女性の自己決定権を守るためには、フェミニストは「プロ・ライフ」に歩み寄らなければならないと主張する。それは中絶に対するさまざまな規制や制約を容認するということではなく、胎児の命を大切なものだと感じる感性を否定せずに、かれらに望まない妊娠を減らすための具体的な政策を実現するよう呼びかけていくことだ。その一方で、著者は Feminists for Life(ライフを支持するフェミニスト達)など「プロ・ライフのフェミニスト」を自称する団体が、実のところ何らフェミニスト的な活動(たとえば、望まない妊娠を減らすための性教育の充実や、経済的理由から中絶を迫られる女性に対する支援など)を行なっていないことも指摘する。それらの団体は、「プロ・ライフ」側の宣伝戦略の一環でしかないというわけ(そのため、さらに「プロ・ライフのフェミニストなんていない!」という声がフェミニズムの中で高まってしまう)。
いずれにせよ、現在の米国における妊娠中絶論争の行き詰まりを打破するためにも、重要な示唆を多く含んだ本だと思う。









